日本の官僚制はなかなかわかりにくく、独特のところがあるといわれます。事務次官とはどのような職にあるのか、キャリアとノンキャリアの違いとは、出世のシステムとは……わかりやすくお話ししていきます。
事務次官とは省の「官僚のトップ」
政治任用職の下、官僚である資格任用職のトップが事務次官。 |
このうち大臣はもとより、副大臣、大臣政務官は「特別職」であり、原則として国会議員のなかから任命されます。このことを「政治任用」といいます。
事務次官以下は、官僚が任命される「一般職」であり、その官僚たちは国家公務員試験合格という資格を前提とした「資格任用」によって国家に雇用されています。
もともと戦前は、官僚のトップである「次官」が1人いて、大臣を補佐していました。戦前の次官の地位は大きなもので、次官は「高等官」では2番目の「勅任官」とされていましたが、これは貴族院・衆議院の副議長と同等で、帝国議会の議員よりも2ランク上に位置づけられていました。
しかし戦後、国会議員から政治任用される「政務次官」がおかれ、その下に、トップ官僚が就任する「事務次官」が置かれることになりました。そして1999年、「政治家主導」の国会運営や政治をめざして政治任用職である副大臣と大臣政務官が置かれ、政務次官は廃止、現在に至っています。
事務次官は官僚が(官僚として)上り詰めることができる最高のポストです。任期の定めはありませんが、1~2年というのが慣例です。ただし、あくまで慣例であることには注意が必要です。
例えば更迭問題で揺れた守屋前防衛事務次官は在任4年を超えました。小池前防衛相が守屋氏を更迭しようとした表向きの名目はこの在任期間の長さにありました。
事務次官と同期の官僚は省から去る「慣例」
事務次官はその省における官僚のトップであり、「偉く」なくてはいけません。そのため、事務次官と同期のキャリア組官僚(国家公務員I種試験合格者)は、事務次官より「偉くならない」よう、省から去っていくことが、これまた「慣例」になっているのです。
なので大臣がえらく若い人を次官として抜擢すると大変なことになってしまいます。また、こういったことからキャリア組官僚の在職期間は短く、そのことがその後の「天下り」を正当化しているところがあります。
もっとも、「官僚のトップ」格は省によって多少異なります。法務省では検事総長、外務省では駐米大使または駐英大使がトップ扱いされています。
「事務次官の会議」が事実上、法律案を決定している
閣議のたいていのことは、実は事務次官たちによって事前に決定されている。 |
事務次官等会議は原則として月曜日と木曜日、首相官邸で開かれます。これは週2回行われる定例閣議の前日にあたります。
主宰するのは事務方の内閣官房副長官です。内閣官房副長官は3人いて、うち2人が政治任用職、1人が事務方です。このポストは慣例上警察庁・総務省・厚生労働省・国土交通省の事務次官経験者(警察庁は長官がこれにあたります)が就くことになっています。この4省庁はいずれも戦前の旧内務省を起源にしています。
この会議もまた形式的なもので、調整はすでについていることが普通です。ここで決まった案件を官房副長官がとりまとめ、翌日の閣議にはかります。法案等の多くはこうして決まっていきます。法律の不備について省庁の責任が問われたり、法律改正について省庁が検討するのはこのようなことからくることです。
事務次官の次に権限がある「大臣官房」の役割
前ページで述べたヒエラルキーでいうと、事務次官の次は局長です。しかし、局と同等、あるいはそれ以上の権限を持つ重要な機関があります。それが「大臣官房」(あるいは単に「官房」)です。大臣官房は人事や予算、会計監査や国会との連絡をとる組織です。各省の予算要求案は局長から大臣官房で調整され、財務省に提出されます。官僚人事も主にここで決められています。いわば内部管理業務を行う組織です。大臣官房の長が官房長です。
ちなみに、局の下の課においても、総務課・秘書課・会計課は「官房三課」とよばれ、局のなかにおける官房の役割を果たしています。このような官房のしくみをもっているのが日本官僚制の大きな特徴です。
庁、委員会……外局とは
庁とは基本的に省の外局のことであり、長官は局長と同じクラスの官僚ということになる。 |
外局は、ある事務を本省から独立させた方がいいとされる場合に、その事務を担当する機関として置かれるものです。
そのうち「業務が膨大だから独立させ効率化を図る」ものが「庁」です。財務省の外局として国税徴収などにあたる国税庁、国有林野事業を行う農林水産省の外局である林野庁など、多くの庁がおかれています。
ただ、「庁」といってもすべてが外局というわけではありません。警察庁は国家公安委員会に管理された特別機関ですし、検察庁も法務省と関係はありますが外局ではありません。宮内庁は「内閣府に設置された」機関とされています。
もう1つの外局が「政治からの独立性・中立性が必要な分野だから独立させる」ということで設けられている「(行政)委員会」です。法人などへの行政罰賦課や労働仲裁などを行う「準司法的機能」や、規則の制定といった「準立法的機能」を持っているものなどがあります。
独立性の高い委員会と官僚の比較はできませんが、外局の長官は基本的に本省の局長と同じ階層になると考えていいでしょう。もっとも前のページでもお話ししたように警察庁長官・金融庁長官は事務次官レベルとされています。
局次長からは公用車
局には局長と、次長が置かれます。局の下に課があります。部が置かれるのは外局の庁などです(長官ー次長ー部ー課)。もっとも経済産業省などは課と同レベルで部を置いているのでややこしいです。また、特定の政策のために置かれるものとして課ではなく「室」を置くこともあります。
総括整理職という存在
国土交通省の総括整理職。 |
次官をサポートするのが「省名審議官」で、例えば外務省なら外務審議官という感じですが、財務省に行くと財務官と読んだりします。国土交通省なら技術官僚のトップ技監もこれにあたります。
局長級をサポートするポストとして統括審議官とか政策調整官とかいわれるものがあります。省名審議官は法律によって置かれますが、このポストはふつう政令で定めます。
とにかくよくいう「◯◯審議会」と、この「審議官」は基本的に関係ありません。名前から、関係あると思う人も多いようですが。
さらに参事官など、局や課レベルでの総括整理職も存在します。そんな感じなので、各省庁のホームページなどで幹部名簿をみても、誰がどの分野でどのように偉いのか、よくわからないことがけっこうあります。
地方支分部局とノンキャリア官僚
地方支分部局とは、文字通り地方に設置された部局です。法務局は法務省の、都道府県労働局は厚生労働省のそれぞれ地方支分部局です。国家2種試験で採用された人たちは、この地方支分部局やその他の地方出先機関で働き始めることが普通です。彼らを「ノン・キャリア官僚」略して「ノンキャリ」といいます。
しかし現場に接することが多いため、幹部官僚とは別の意味でその裁量権は大きいといわれています。また能力次第で本省の幹部にまでなる人もいます。キャリアとノン・キャリアの区別は、まったく固定的なものではありません。
キャリア官僚とは
キャリア官僚の出世レース。最初は横並びで、採用15年後くらいから急に激しくなるといわれている。 |
新人キャリアたちは最初の研修が終わると、まずは総務課や企画課といった調整的な部署に配属されます。これは新人キャリアたちに省庁の業務がいかに回っているかを覚えさせる意味があると思われます。
そして2~3年で係長となり、ほぼ全員が課長への道を歩んでいきます。ここまでが15年くらいで、みんな一直線です。
そこから先は「ふるいわけ」の始まりです。出世レースに敗れて、本省から外局、または地方公共団体や所管法人への出向を余儀なくされる者、または退職するものも出てきます。
このように、キャリアは幹部候補として優遇されるが将来的には勝ち組、負け組がはっきりしてしまう。一方、ノンキャリア官僚は一見差別されているようで、こうした出世レースとは無縁であり、かえって終身雇用・年功序列型賃金が保証されているため安定している。
こうした人事行政が省庁で行われてきたわけです。
このような出世レースの弊害としていわれているのが「事なかれ主義」です。幹部官僚をめぐるいわばサバイバルレース的なところがあるため、レースから退場させられないように、慎重になりすぎる。つまり、失点を極端に怖がる。
こうしたことから、キャリア官僚たちは「事なかれ主義」に陥り、改革に抵抗したり、不利な情報を国民から隠匿したりするというのです。
しかし、いつまでもこのようなことが続くかどうかはわかりません。
政府は徐々にノンキャリア官僚たちにも成果と実績に基づいた給与体系を導入しようとしています。また、キャリアたちの「出世」に対する意識も徐々に変わりつつあります。女性官僚の進出もまた変化を与えていくことになるでしょう。
稟議(りんぎ)制というしくみ
日本では課長クラスの官僚が実質的な政策決定をしている?「下克上官僚制」と表現する人も。 |
つまり、たとえば係長が稟議書で何かを提案し、それを課長、局長、と廻していき、大臣の決裁を得て実行される。ちょっとわかりやすくするため極端な例にしましたが、これが稟議制というものです。
つまり、トップが何かを決めて実行する「トップダウン」形式ではなく、指揮命令系統の下の人たちが考え、トップがそれを承認するという「ボトムアップ」形式が日本官僚制における意思決定方式だというのです。
もちろん、稟議制では決まらないことも多々あると指摘されています。また、稟議書を単にまわすだけでなく(順次回覧型)、重要なことについては、その都度稟議書の案を会議にかけ、徐々にトップに廻していくという方式(持ち回り型)もある、とも指摘されています。
いずれにせよ、日本の政策が国民が選んだ国会議員たちや内閣の閣僚たちではなく、実は細かいことは官僚たち、それも結構下位レベルの官僚たちによって決まっているということは、ある意味問題の多いことです。
しかも、このことによって何か問題が起こった場合、その責任の所在が問題になってきます。責任者は企画立案者なのか、それを承認したトップなのか。それがあいまいになってしまうのも稟議制の問題点といわれています。
もちろん当事者の「出世レース」には響いてくるのでしょうが、それで済ませてはいけないことも多いわけですから。
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◎関連インデックス 日本の省庁と官僚制
※「事務次官と日本の官僚制基礎知識2007」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。
▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座
●「政治の基礎知識・基礎用語」 政治の基礎的な知識はこちらでチェック!
参考書籍・サイト
『行政学』 西尾勝 1993 有斐閣
『行政学教科書[第2版]』 村松岐夫 2001 有斐閣
『行政学叢書4 官のシステム』 大森彌 2006 東京大学出版会
『日本行政の歴史と理論』 笠原秀彦・桑原英明/編 2004 芦書房
『新版 官僚制と日本の政治』 中邨章/編著 2001 北樹出版
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