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イラン政治の基礎知識2007(2ページ目)

中東の反米大国・イラン。その強烈なイランのナショナリズムはどこからくるのでしょう。また、イスラム共和国といわれていますが、どのような政治体制なのでしょうか。わかりやすくお話しします。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【イラン・栄光と苦悩の歴史、そして革命】
2ページ目 【イラン独特の政治体制「法学者の統治」】
3ページ目 【イラン政治の今──強硬姿勢はいつまで続くのか】

【イラン独特の政治体制「法学者の統治」】

イランの国家元首「最高指導者」

ホメイニ
イラン革命の指導者として活躍し、現在も多くの国民に尊敬されているホメイニの肖像(ウィキコモンズより)
イランには、大統領や国会よりも上位に立つ「最高指導者」が存在します。イランの国家元首は大統領でなくこの最高指導者です。

このような独特な制度は、前ページでお話したイランの国教・シーア派12イマーム派の教えにのっとったものだとされています。

12イマーム派の教えによると、現在の世界は、最後の「イマーム」(ムハンマドの直系アリーの子孫としてイスラム教徒を統率すべき人物)であるマフディーが「神隠れ(ガイバ)」したままでいるとされています。

そして、そのようなイマーム不在の現在においては、ウラマーといわれるイスラムの教えに詳しい人が、イスラムの世界を導いていくべきだと考えられています。

このような教えをさらに発展させたのが、イラン革命を指導していった法学者ホメイニの「法学者の統治」論でした。

最高指導者の制度と「法学者の統治」論

ホメイニは、12イマ-ム派の思想を発展させ、「法学者の統治(ヴィラーヤテ・ファギーフ)」という論理を主張します。イスラム国家はイスラム法学者によって統治されるべきだという考え方です。

この考え方は、イランの国是となり、憲法にもこのように規定されました。「12代イマームの隠ぺい中は、イマームの権能ならびにウンマの(国民、国家)のイマーマ(指導者の地位)は、公正かつ畏敬の念深く、時世に通じ勇敢であり、さらに管理能力に長けた法学者に委ねられる」(訳引用元『イスラ-ム国家の理念と現実』中の櫻井秀子著「シーア派イマーム論」栄光教育文化研究所)

つまり、最も優れた法学者が国家のリーダーとなる、と規定しているわけです。こうして、大統領や議会のさらに上に、法学者である「最高指導者」がおかれることになっているのです。

最高指導者は、国民から選出されたイスラム法学者の代表である「専門家会議」によって選出されます。任期はありません。宣戦布告の権限は最高指導者が持っています。また、司法の最終判断も最高指導者が行います。

また、最高指導者を補佐する機関として「護憲評議会(監督者評議会)」が存在します。12人のイスラム法学者によって構成されるこの組織は、憲法解釈や議会の議決に対する審査をする大きな機関です。この評議会のメンバーの半数は最高指導者によって選出されます。

初代の最高指導者は、当然のように革命の指導者ホメイニが就任しました。ホメイニが亡くなったあとは、当時の大統領であったハメネイが最高指導者に選出され、現在に至っています。

イランの大統領

イランの政治機構
イランの政治機構。「最高指導者」を頂点にしたイランの政治制度は独特なものとなっている。
イランは大統領制をとっていますが、もちろん最高指導者の事項に立ち入ることはできないので、軍の統率などは行うことができません。

大統領の任期は4年で、連続3選が禁止されています。アメリカと違い「連続3選の禁止」なので、2回当選した人も、1期4年待てば、再び大統領選に立候補することが可能になります。

大統領選挙はフランスと同じく2回投票制で、第1回投票で過半数を獲得した候補がいなかった場合、上位2名による決選投票が行われ、当選者が決定します。

もっとも、大統領候補になる条件として、護憲評議会による資格審査が必要になります。護憲評議会が資格を認めなければ、大統領候補になることすらできません。

当初は、大統領のもとに首相がいて、そのもとに内閣が存在していましたが、1988年の憲法改正で首相は廃止され、現在は閣僚を大統領が直接統率するしくみになっています。

国会と司法

イランの国会は一院制です。議員の任期は4年で、国民の直接選挙によって選出されます。

しかし、国会の議決はさきほどもお話したように護憲評議会の審査を受けます。そのなかで、法案が拒否されることもあります。

また、国会議員に立候補する際にも護憲評議会による資格審査を受けます。護憲評議会はほぼ保守派で占められているため、改革派の候補が資格を拒否されるケースがめだっています。2004年の総選挙ではそれが目立ちました。

司法は最高指導者の管轄のもとにあります。最高指導者によって任命された司法長官が最高裁判所長官と検事総長を兼ねます。従ってイランには司法権の独立というものは存在せず、また裁判官と検察も分離していません。イスラム法に基づいてくだされるとされる裁判はしばしば「人権侵害」と国際社会から批判されています。

イランの地方自治の整備はなかなか遅れていて、首長は原則として中央が任命します。しかし2004年、はじめて全国統一地方評議会選挙が行われ、制度上は市民が地方政治に関れるようになっています。

最後のページでは、ここ数年のイラン国内外の情勢について、解説していきたいと思います。
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