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バチカンより小さな国家がある?(2ページ目)

世界最小国家といえば、バチカン市国。これが常識ですが、これよりも小さな国があるというではありませんか。しかもヨーロッパに。いったいどういうことなのでしょう。そしてそもそも「国家」の条件とは。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【あなたの家より狭いかもしれない自称独立国家】
2ページ目 【他にもある自称ミニ国家、しかし国家になれない?】
3ページ目 【国家承認とは別問題の「政府承認」とは?】

【他にもある自称ミニ国家、しかし国家になれない?】

「国家売ります?」

イギリス周辺のミニ国家
なぜかイギリス周辺には「自称ミニ国家」がたくさん存在……。
さて、シーランド公国に昨年、深刻な危機が訪れました。大きな火事によって、国の全土が焼けてしまったのです。

幸い兵隊は救出されましたが、かなり大きな被害だったようです。……ちなみに火事の原因はテロではなく(一応)、電気などの設備が著しく老朽化していたことにあるようです。

そこで、なのかは定かではありませんが、シーランド公国は「国家を売る」ことを考えました。そして、買う、という人たちも現れています。どういうことなのでしょう。

売買の詳細は明らかではないのですが、その価格はイギリスの新聞によると6500万ポンド(およそ143億円)。しかし、かつて領土の売買というのはありましたが(アラスカはアメリカがロシアから買収しました)、「国家主権の売買」は成立するのか? あるいは主権はそのままで、領土の所有権の売買なのかもしれませんが……。

このあたりの話は、あとで「国際法的にどうか?」というところで扱っていきます。

新独立国家「ウェーブランド」とは?

さて、もう1つ、またもイギリスがらみの「ミニ独立国家」のお話を……。

イギリスのはるか沖、というよりイギリスとアイスランドとの中間点に近いところにロッコール島というものがあります。

しかし、1994年に発効した「国連海洋法条約」に照らすと、これは領土として主張できる「島」ではなく、単なる「岩」にすぎないのではないか、という疑念が生まれてきました。

イギリス周辺の海域は漁業資源が豊富で、紛争もたえないことから、こうしたゴタゴタを嫌う形でイギリスはこの島を放棄しました。

そこに、1997年、環境保護団体「グリーンピース」が上陸。「ウェーブランド」という国名をつけて独立を宣言したのでした。目的は、この海域での石油開発を阻止するため(おそらく独立して権利を主張することで妨害する)でしたが、周辺諸国には無視されています。

ウェーブランド公式サイトによると、ウェブ上で募った「ウェーブランド市民」は1万5千人に達しているとのこと。ウェーブランド公式サイト(英語)をご覧頂き、趣旨に賛成される方は、市民権を取得してはいかがでしょうか。もっとも、これについてもAll Aboutは責任を持ちませんので悪しからず。

ちなみに、こちら国の写真は諸般の事情で掲載できませんでした。上記の公式サイトでご覧下さい。

独立宣言しても「国家」になれないのは?

国家承認
国家として扱われるには他の国から承認されることが必要。この関係はあくまでも二国間のものだが、最近は国連加盟に賛成すれば一括して承認、ということになりつつもある。
さて、シーランド公国にしても、ウェーブランドにしても、はっきりいって「自称国家」であり、国家として認められていません。なぜでしょう。

国家として認められるには、まず国際社会から「国家としての承認」を得る必要があります。承認されていない「自称国家」は「国際法上の国家」としては認められず、国家としての権利も与えられないことになっています。

国家とは何かについて定めた「モンデビデオ条約(国の権利及び義務に関する条約)」によると、承認は文書・声明のような「明示的」なものであっても、そうではなく「黙示的」なもので与えてもいいとされています。承認宣言の前にその国と外交関係を結べば、これは「黙示的承認」を与えたものとみなされます。

ちなみに、先ほどのシーランド公国は、「ク-デタ-事件」のとき、西ドイツの外交官がやってきたことから、「正式な外交関係=黙示的承認」を受けたと考えているようですが、ドイツはこれを否定しています。

また、最近では国連に加盟を果たした国は国際社会から国家として承認されたものと考えるようになっています。いちいちすべての国家から承認を取り付けるのはめんどうだからですね。

もっとも承認はあくまで二国間の間のものなので、アメリカや日本などが国連加盟国である北朝鮮を「不承認」しても、それはそれで許されます。当然、不承認されている国は、その国に「国家」として扱ってもらえません。

独立宣言しても承認されない国家

シーランドやウェーブランドのように「なんだかよくわからない」ような国家は、なかなか承認されにくいでしょうが、わりと実態があっても承認されないことがあります。

それは、「不法に作られた国家は不承認」する、という考え方です。

古い例でいうと1932年に作られた「満州国」です。満州国は日本軍(関東軍)による軍事行動によって「不法に」中国から分離させられた、ということで国際社会の大多数は「不承認」を貫きました。このような考え方を「スティムソン主義」といいます。

一方、「民族自立権違反は不法なので不承認」という考え方もあります。1965年、アフリカ・南ローデシアの少数の白人たちが多数の黒人による独立運動に対抗する形で作った「南ローデシア共和国」は、大勢の黒人たちの「自決権」を奪うもので、不法、とされ、国連安保理は「不承認」を呼びかけました。

結局、南ローデシア共和国は宗主国イギリスの承認を得られず、イギリスの仲裁により、現在は黒人政権国家ジンバブエとなっています(1980年~)。

日本の近くでも、国家なのかなんなのかわからない地域、台湾がありますが、次ページでは台湾と国際法について説明していきます。
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