第2・第4日曜に更新「政治の時事用語」。今日はアメリカ中間選挙で注目を浴びた「アメリカの州」についてお話します。
「知事」の語源はサンスクリット語
カリフォルニア州の州旗。旗には「カリフォルニア共和国」と書いてある? |
「知事」という言葉は、もともと古代インドで用いられていたサンスクリット語からきているのですね。「カラマ・ダナ」といって、「よく物事を知っている、物事を司る」という意味だそうです。これを中国語にしたのが「知事」ということらしいのです。
この言葉は当初、やはり中国で寺院の役職名として使われていたのですが、10世紀終わりにできた宋王朝のころから「地方長官」の意味で使われはじめ、現在の日本でもそのように用いられているようです。
英語で州知事のことは「governor」といいます。これを誰が「知事」と訳したのかは、よくわかりませんでしたが、確かに「州の長官」ですから、誤訳ではないのでしょう。
都道府県知事と州知事の権力は全く違う
しかし、同じ知事でも、日本の知事と、アメリカの知事とでは、持っている権力は全く違います。アメリカの州は、都道府県のような単なる行政区画ではありません。いってしまえば「準国家」。独自の憲法、独自の法律、独自の軍隊を持つ共同体なのです。
「アメリカ合衆国」を英語にすると「the United States of America」。アメリカにおける州のあつまり、という意味です。アメリカは、州を基本単位とする連合国家なのですね。
州知事は、このような「準国家」の長、というわけですから、その権限は都道府県知事の比ではないのです。
憲法の改正も国際条約のように手続
日本の場合、憲法改正は国会による発議のあと、国民投票によってその可否が決定されます。しかし、州の力が強いアメリカの場合はそうではありません。連邦議会による発議のあと、4分の3の州の議会が承認することで改正が成立します。
多数の国が締結する条約と同じ形式です。大多数の州が批准(=承認)して、はじめて発効(=改正成立)となるわけです。
州と連邦が「一触即発」
ミシガン大学事件のとき、連邦司法省の官僚が知事(左)に大統領命令を伝えているところ。写真:アメリカ司法省 |
1963年、連邦最高裁は黒人学生の入学の権利を認めたのですが、アラバマ州知事ウォラスは「連邦の介入」を拒否するため、「州兵最高司令官」として大学の周囲を州兵で固めました。
これに対し、連邦政権は国軍をアラバマに派遣し、力づくで(流血はなかったものの)州知事の権限を取り消し、学生を入学させました。
このように、州と連邦が緊張関係に陥ることはあるのですね。その最大のものが19世紀の南北戦争だったといえます。
そしてこのことは、アメリカ独立当初からの対立軸でした。州の自治を認める反連邦派(アンチ・フェデラリスト派)の立場を現在とるのがどちらかといえば共和党、連邦政府による集権政治を主張する連邦派(フェデラリスト派)の立場をとるのがどちらかといえば民主党、というところです。
州知事はアメリカ大統領へのステップ
この人も州知事出身。州知事は有力政治家への大きな一歩。写真:アメリカ大統領府 |
実際、カーター(ジョ-ジア州知事出身)・レーガン(カリフォルニア州知事出身)・クリントン(アーカンソー州知事出身)・ブッシュ(テキサス州知事出身)と、過去5代の大統領のうち4人が州知事出身です。
また、州を重視するアメリカでは連邦議会の「州の代表」てき意味がある上院議員も有力な大統領候補になります。ケネディ・ニクソンは上院議員出身の大統領です。戦後、州知事・上院議員・副大統領出身以外で大統領になったのはアイゼンハワーのみです(欧州連合軍総司令官)。
51番目の州はできるか?
アメリカは新しい州をアメリカ合衆国に加入させることができます。憲法では、連邦議会の規定によって決定することとされています。こうして、アメリカ人は西部開拓を行い、新しい州を作ってアメリカ合衆国に「加入」していきました。その手はさらに広がり、1959年、アラスカが49番目の州として、ついで同年、ハワイが50番目の州としてアメリカ合衆国に「加入」しました。
星条旗の星は、この州の数を現わしています。
カリブ海に浮かぶ島・プエルトリコを51番目の州とする動きも起こっています。プエルトリコは自治権は持っていますが、州としては認められていません。
1998年には州への昇格をめぐる住民投票が下院の決議により行われましたが、否決されました。プエルトリコは、州として合衆国に編入されるよりも独立したいという指向が強いのでしょうか。
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