テポドン2号の発射は日本に大きな衝撃をもたらしました。情報はまだ少ないですが、テポドン問題についての基本的な知識をまとめてみました。
テポドン2号はどんなミサイル?
テポドン2号は旧共産圏で普及したスカッドミサイルからさらに独自改良のノドンミサイルが発射する構造と思われている。写真はスカッドミサイルと発射台。 |
テポドン2号は3000~6000kmを射程距離に入れた中距離弾道ミサイルであると考えられています。その構造は、射程距離1000~1500kmと思われる「ノドンミサイル」と、かつてソ連が開発し共産圏に広く普及した弾道ミサイル「スカッド」が組み合わされたものだとされています(ノドンはスカッドの北朝鮮独自改良型との説が有力)。
ちなみに「テポドン」という名前はアメリカがつけたコードネームです(発見した地名から。正式名称は一説には「ペクトゥサン(白頭山)とも。「ノドン」も同様で、正式には「火星」または「木星」とも)。
テポドン2号は日本を狙っている?
ノドンの射程距離で十分日本を狙えるので、わざわざ飛距離の大きいテポドンで日本を狙うことはないでしょう。テポドンの狙いはアメリカと考えられています。しかし、テポドンとノドンの違いは飛距離の違いであり、攻撃効果の大小とは基本的に関係ありません。ノドンの発射それ自体、日本にとって脅威であることはいうまでもありません。
これで日本は北朝鮮の「核の脅威」にさらされた?
核兵器をミサイルに搭載し核弾頭にするには、軽量・小型化することが必要ですが、これには相当の技術が必要です。北朝鮮がこれに成功した確証は今のところないようです。また、核兵器は実験し、成功しないことには有効性がわからない兵器です。起爆装置が0.1秒でも遅く反応すれば爆発しないからです。北朝鮮が核実験に成功したという情報も今のところありません。
油断は禁物ですが、パニックになるような状況ではありません。
なぜ北朝鮮はこの時期にテポドンを発射した?
北朝鮮はミサイルの発射によってアメリカに脅威を与え、譲歩を引き出そうと考えているが、果たして……? |
かつても(1994年)、北朝鮮は現在と同じように核兵器開発を叫びアメリカと交渉、年間50万トンの重油をアメリカから供給してもらうことなどに成功したことがあります(米朝枠組合意)。
いま経済状態が苦しいうえ、昨年秋にアメリカによる金融措置によって在外資産が凍結されてしまった北朝鮮は、この苦境を打開するため、テポドンによってアメリカを「脅し」、1対1の交渉によって再びアメリカから譲歩を引き出そうとした……と考えられています。
しかし、詳しくは後で述べていますが、かつてに比べアメリカは弾道ミサイル迎撃システムを急速に整えつつあります。2匹目のどじょう狙いは難しいのではないでしょうか。
テポドンでアメリカからの攻撃を防ごうとしているのでは?
もしそういう考えがあったとしても、現状ではアメリカからの攻撃を防ぐ「抑止効果」はできないでしょう。ミサイルによって相手攻撃の「抑止」するには、ミサイルがどこにあるかわからなくする必要があります。そうしなければ、先制攻撃によってミサイル自体が破壊される可能性があるからです。そのため冷戦時、米ソは地下に発射基地を設けたり、原子力潜水艦に弾道ミサイルを搭載したりしていました。
その意味で、発射まで軍事衛星で常時観察されていたテポドンに抑止効果はほとんどないといっていいでしょう。
軍事のプロであれば当然こういったことはわかっているはずで、それでもなおテポドンを発射したということですから、北朝鮮はアメリカに対して、抑止効果を見せつけること以上の何らかの挑発的なメッセージを発したと考えていいと思います。
アメリカは北朝鮮に軍事制裁をする?
イラク撤退が完了していないうちに、北朝鮮、さらには同様の問題を抱えるイランと事を構えることを避けたいアメリカ。「差し迫った脅威ではない」発言にその本音が見える(Photo:(c)「沖縄発!役に立たない写真集) |
核兵器開発をほのめかしている国は他にもあります。イランです。北朝鮮に軍事制裁をすると、へたをするとイランとも事を構えることになりかねません。しかし、アメリカにそのような余裕はありません。
ただ、アメリカとしては北朝鮮の行為を容認するような態度を示すことも避けなければなりません。挑発に屈したと思われてはならないからです。
そのため、日本や朝鮮半島の周りにこれまで以上に軍事的なプレゼンスをする(イージス艦や空母の新たな配備など、軍事力の増強)をする可能性は十分にあるでしょう。
強硬な姿勢はとりつつ、発射によって当惑する中国やロシアとの連携を模索し、必要があれば独自の経済制裁を発動する、というのが当面のアメリカのとる行動だと思われます。
テポドン2号の発射は失敗?
写真はミサイル迎撃にも有効なイージス艦。アメリカはABM条約離脱宣言をした2001年以降、弾道ミサイル迎撃能力を急速に高めつつあり、北朝鮮の挑発に軽々に乗ることは考えにくい |
アメリカは、ブッシュ政権が2001年末にABM条約離脱を宣言し、翌年条約が失効してから、弾道ミサイル迎撃体制を急速に整えてきました。
ABM条約とは核弾道迎撃ミサイル開発を大きく制限するもので、一方的な先制攻撃を防ぐために冷戦時代に作られたものでした。しかし、2001年の「ナイン・イレブン(9・11)」のあと、アメリカは「新たな脅威に対抗する」ためABM条約廃棄を宣言しました。
冷戦時代ならとうてい受け入れられなかったと思われます。しかし「ナイン・イレブン」はロシアにも大きな衝撃を与えていたため、ロシアはアメリカに反発するより軍事面で同調する方が得策と考え、アメリカのABM条約離脱を容認したのです。
こうして弾道ミサイル迎撃システムを整えてきたアメリカは、むしろテポドンがアメリカの近くまで飛んでくるのを待っていたのかもしれません。そしてそれを見事に迎撃・破壊し、北朝鮮の思惑を完全に打ち砕こうと。
北朝鮮はそれを恐れ、あえて失敗を装っているのかもしれません。今のところ情報は少なく即断は禁物ですが、失敗と決めつけるのに慎重な理由もあることを頭にいれておいたほうがいいかもしれません。
日本との関係はどう変わる?
すでに日本政府はこの行為を2002年に小泉首相とキム・ジョンイル総書記との間で交わした「日朝ピョンヤン宣言」に違反していると考え、貨客船の入港停止を決定しています。今後も、北朝鮮が譲歩しない限り、日朝関係の悪化は避けられないでしょう。拉致問題の進展にも大きな影を落とすことになるでしょう。
ただ、日本が北朝鮮の譲歩を引き出すために単独で切ることができるカードは「日本からの送金停止」しか残っていません。あとは、国連安保理での調整や、中国への働きかけなどが重要になってきます。
中国と協調するために、もしかしたら「靖国問題」が障害になるかもしれません。そうなってしまった場合、小泉首相がどう決断するか、一つ注目点になるでしょう。