衆議院の総選挙と同時に、最高裁判所裁判官の国民審査が実施されます。みなさんは、国民審査をどういう基準で行っていますか? というより、よくわからない? というわけで、国民審査基礎知識と,今回審査対象の裁判官が関わった主な判決集の解説です。
1ページ目 【「最高裁判所国民審査」基礎知識】
2ページ目 【主な判例(1)大法廷・第一小法廷】
3ページ目 【主な判例(2)第一・第二・第三小法廷】
【「最高裁判所国民審査」基礎知識】
最高裁判所の裁判官
最高裁判所の裁判官はどこが任命するのか、ご存知ですか。答えは内閣です。内閣は、国会などのどの機関にも相談することなく、最高裁判所の裁判官を任命することができます。ただし、最高裁判官の長官は、儀礼的ですが、内閣の指名により天皇が任命することになっています。
また、最高裁判所の裁判官は、いわゆる職業裁判官のみではありません。裁判所法などによって、以下のような「枠」が決められています。
職業裁判官 6名 弁護士 4名 検察官 2名
その他(内閣法制局長・学者など)3名
大法廷と小法廷
最高裁判所の裁判官は長官を含めて15名。3つある「小法廷」に所属します。ほとんどの事件が、この小法廷で裁かれます。しかし、判例の変更、憲法審査などの事例が生じた場合、全員が出席する「大法廷」が開廷されます。
最高裁判所に集まる事件の数は膨大なものがあり、一人の裁判官は100をゆうに超える事件を取り扱います。そのため大変激務であり、失明になりかけた人さえいるほどです。
国民審査制度の発祥
さて、最高裁判所の判決は、いろいろなところで社会に影響を及ぼします。そのため、内閣が任命した裁判官を、国民が審査する制度が、日本国憲法で採用されています。この制度は、もともとアメリカのミズーリ州で始まった制度でした。
第2次大戦までのアメリカは、裁判官を選挙で選ぶことが多かったのですが、これは裁判に政治色が強まったり、大衆迎合で質の悪い裁判官が生まれたりと、あまりいいことはなかったのですね。
そこで、1939年、アメリカ法曹協会が国民審査制を発案、これを翌年ミズーリ州が採用した後、各州に広まり、そして日本国憲法にも取り入れられたというわけです。
ちなみにアメリカでは,この制度で現に罷免された人が,何人もいます。
※ちなみにアメリカ連邦裁判所の裁判官は任命されると死ぬか辞めるまで職務を行います。審査制度はありません。
「棄権が難しい」? 国民審査
最高裁判所は、衆議院総選挙と同時に行われることになっています。任命後、まだ国民審査を受けていないか、あるいは受けた後10年経過した裁判官が対象です。とはいえ、さきほどもいったとおり最高裁裁判官の仕事は激務で、かつ定年が満70歳と決まっていますので、後者にあたる人はまれなようです。
投票に行かれた方はおわかりかとはおもいますが、「このひとをやめさせたい(罷免したい)」という人の名前の上の欄に「×」をつけます。逆の意味でも何でも、「○」など、他の記号は無効です(最高裁判所国民審査法による)。
この方式には、「棄権・白票投票の自由がない」という批判があります。何も書かなければ裁判官をすべて信任したとみなされるからです。棄権の意思表示ができないわけです。
もっとも、投票所で投票用紙を受け取らないなどして棄権することは実際の運営では認められています。ご存じない方も多いでしょう。
投票用紙の右端の人が一番×印をもらう?
本来、国民が唯一、司法権の人事をコントロールできるのがこの「国民審査制度」ですが、はっきりいって、うまく活用できてはいません。過去、罷免された人も、そこまで追い込まれた人もいませんし、「×」の票が最高になってもせいぜい10%程度です。
著名な心理学者の方が指摘されているように、「投票用紙の右端か左端の人が一番罷免票を多く獲得する」という、かなり情けない現状です。
それでも国民審査は必要か
このような現状に対して、いろいろな批判があります。「制度廃止論」すら、あります。確かに、実施には多額の費用がかかっているのに、現状は今までいった通りですから(費用については、次のページをご参照下さい)。しかし、先にもいいましたが、最高裁の判決は、「判例法」として多大な影響を及ぼします。判例によってあることが認められたり、認められなかったりすることがたくさんあるわけです。
また、最高裁の違憲審査権により、法律が憲法違反とされ、効力を事実上失うこともあります。
このようなことから、国民審査の費用は「民主主義のコスト(対価)」として受け入れ、国民審査制をいかによく活用できるか、ということを主張するほうが、学説としては多いのが現状です。
今回国民審査を受ける裁判官
さて、今回国民審査を受ける裁判官は次の6人です(敬称略)。才口千晴(弁護士出身) 2004年任官 第1小法廷
津野修(内閣法制局長官出身) 2004年任官 第2小法廷
今井功(職業裁判官出身) 2004年任官 第2小法廷
中川了滋(弁護士出身) 2005年任官 第2小法廷
堀籠幸男(職業裁判官出身) 2005年任官 第3小法廷
古田佑紀(検察官出身) 2005年任官 第2小法廷
次のページからは、彼らが関わった最高裁判決の主なものを取り上げてみたいと思います。なお、純粋民事的なものは、「よくわかる政治」の範疇を超えますので、取り扱いません(あまりに難解すぎて)。ご容赦のほどを……。