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「日本でもテロは起こるのか」ではもう遅い

ロンドン・同時多発テロによって三たび世界はテロの恐怖にたたされました。そして、テロは今、大きく変わりつつあります。そんな「いま」のテロリズム基礎知識を一問一答形式で。

執筆者:辻 雅之

(2005.07.15)

「9・11」、「マドリード・テロ」、そして世界を三たび震撼させた「ロンドン同時多発テロ」。テロの背景は? 日本でも起こりうるのか? ここまでの情報から、「テロの基礎知識」をまとめてみました。

1ページ目 【テロの定義は難しく、テロじたいが変わりつつある】
2ページ目 【テロリストが使う兵器:爆弾から「NBC」へ?】
3ページ目 【テロは防げないのか、日本でテロは起きないのか】

【テロの定義は難しく、テロじたいが変わりつつある】

「テロ」の定義は、そもそも何ですか?

フランス革命時代のジャコバン派による恐怖政治に語源がある……これは本当にそうかわかりませんが、「恐怖(terror)」から出てきた言葉であることは明らかでしょう。

しかし、その「定義」となると、議論は喧々囂々(けんけんごうごう)、これというものを定めるのがなかなか難しいのが現状です。

必ずしも大規模なものがテロとは限りません。また、必ずしも政治的な動機があるものをいうと思い込んでもならないでしょう。

たとえば2001年大阪で起こった、8人の子どもたちが無差別殺害されたあの小学校殺傷事件は「テロ」ではないのでしょうか? あるいは、昨年奈良で起こった「メールで遺体写真を送りつけた」女児誘拐殺人事件はどうなのでしょう。

これらは、政治的背景などは全くありませんが、同年代の子を持つ親に大きな「恐怖」を植え付けたことはいうまでもありません。

そういう意味で、「テロ」は日本でも、いたるところで起こっているのです。

「テロ」が起こり始めたのはいつからなのですか?

たとえば織田信長が行った「比叡山焼き討ち」もテロといわれればそうでしょうし、戦前の日本であいついだ首相暗殺事件などもテロでしょう。

他にも、たとえばベトナム戦争当時、ベトコン(南ベトナム民族解放戦線)が行った行為の中にも、「テロ」といえるものが、なかったわけではありません。

しかし、それらは、そういわれることはありませんでした(最近になって言うようになっていますが……)。当時、それはたとえば「暗殺」であり、たとえば「ゲリラ戦」だったわけです。

「テロ」が暗殺やゲリラとは違う、いわゆるわれわれが認識する「テロ」が展開されていったのは、1960年代後半から70年代初めにかけて頻発した「パレスチナ・ゲリラ」による一連の事件が始まりといっていいでしょう。

たとえばPLOの過激派PLFP(パレスチナ解放人民戦線)が起こした、死者も多数出た一連のハイジャック事件。あるいは、日本赤軍がおこしたテルアビブ空港乱射事件(1972年)。

これらが、人々に「恐怖と動揺」をもたらした、という意味で、われわれが認識する「テロ」の始まり、といえるでしょう(日常使う「交通手段」に対しての攻撃→恐怖、という図式)。

しかし、これらいわゆる「モダン・テロ」に対して、現在世界が悩んでいるのは、これらとは多少性質を異にする「ポストモダン・テロ」であることには注意をしておく必要があるでしょう。「ロンドン・テロ」も、おそらくこの部類に分類されていくことになるでしょう。

その「ポストモダン・テロ」とは?

「モダン・テロ」においては、まず何かしらの「目的」があったわけです。テロリストたちにとって「テロ」は目的のための「手段」でした。

つまり、「テロ」によって人々の恐怖と動揺を誘いながら、テロリストたちは「民族解放」などの政治的要求をつきつけ、勢力と主張を誇示してきたのです。

しかし、「9・11」を始めとする「ポストモダン・テロ」は、目的がよくわかりません。テロリストたちは目的を主張するかもしれませんが、それは理解不能だったり、抽象的だったり、具体的あっても実現不可能なもの、ばかりです。

そのことは、「9・11」のあと、犯行声明らしきものがいっこうにアル・カーイダから発表されなかったことにも表れています。

つまり、「ポストモダン・テロ」は「現代社会・秩序」の「破壊」自体が目的といえるわけです。

「テロ」はあくまで「手段」である「モダン・テロリスト」たちと違い、アル・カーイダなど「ポストモダン・テロリスト」たちにとっては、「テロ」それ自体が「目的」、と考えられています。

なぜ「モダン・テロ」から「ポストモダン・テロ」へと変質していったのか……その分析は難しく簡単には説明できませんが、こんにちの「テロ」についての世界的な傾向として見逃せない状況のように思えます。

「テロリスト」=「アラブ」、と思ってしまうのですが……

報道からして、そう思ってしまいがちですが、「テロ」は中東だけの問題ではありません。

たとえば1995年、アメリカのオクラホマシティー連邦政府ビル爆破事件(死者168人)は、アメリカ極右思想の持ち主、ティモシー・マクヴェイ(2001年処刑)らによって起こされた事件でした。

他にもアメリカでは中小さまざまな「テロ」が頻発しています。いや、先ほど述べたように、日本でも現に起きているわけです。

このような認識をもたないと、「テロをなくす」ことは難しいのではないでしょうか。

「テロ」をよく「非対称型の戦い」といいますが?

「非対称型の戦い」=「テロ」というわけではありません。

しかし、「9・11」をはじめとする最近の大規模テロは、まさに正規兵力に対する「非対称型の戦い」」といえる規模になっていることは事実です。

「非対称型」の反対、「対称型の戦い」とは、お互いに同じような装備(戦車、戦闘機、対空砲……)などを持った、正規の兵力どうしの戦いで、いわゆる今までの「戦争」です。

ゲリラ戦も、ゲリラ側が高性能の銃などの近代兵器を使って戦ってきた場合、これは「対称型の戦い」になるわけです。(「奇襲」は、それだけでは「非対称」とはよべません。)

これに対して、「非対称型の戦い」とは、相手が圧倒的な装備を持っていて「対称型の戦い」では勝てないと判断した者たちが、そうではない手段で相手の弱点を突き、大きな被害を相手に与えようとするような戦いです。

まさに「9・11」は典型的な「非対称型の戦い」だったわけです。わずかナイフ数本で、アル・カーイダはジェット機をジャックして世界貿易センタービルを破壊し、3千人以上の犠牲者を生み出したわけですから。

◎モダン・テロから、解決が困難な「ポストモダン・テロ」へ
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