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「領事」「亡命」と国際法の関係(2ページ目)

中国総領事館亡命事件は世界中の注目を浴びています。この事件の解決を論じるには国際法の知識が欠かせません。なるべくなるべく、カンタンに解説してみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【領事って何する人?】
2ページ目 【領事と大使の違いって?】
3ページ目 【「亡命」の国際法的基礎知識】

【領事と大使の違いって?】
国を代表する大使、特権も領事より厚め


前のページで、領事というのはいちおう外交官だけれども、どちらかというと行政サービス的な仕事を行う行政官の性格が強い、という解説をしました。

それに対して、「大使」や「公使」は国を代表して派遣国に駐在する文字通りの外交官です。派遣された国の政府と交渉し、それを自国に伝えることが主な任務です。

もちろん、それを通して自国民の保護を行うことも大事な仕事。大使や公使が領事の業務を行うこともあります。

国際法でも「大使/公使」と「領事」は明確に区別されています。「大使」などについては1961年採択(64年発効)の「外交関係に関するウィーン条約」で規定されていますが、「領事」について規定する条約は1963年採択(67年発効)の「領事関係に関するウィーン条約」という別のものです。

あ、でも2つとも略して「ウィーン条約」。混同しちゃいそうですね。

ともかく、領事と大使や公使は管轄の条約が違う。これにともなって、彼らが持つ特権についても、微妙に違ってきます。

大使や公使などに対し、現地国はいっさいの刑事裁判権を行使することができません。つまり逮捕したり(一時的な拘束は可能とされる、泥酔して暴れたとかいう場合)、処罰したりすることができないということ。国外退去の命令くらいしか対抗手段はないのです。

しかし領事に対しては「領事任務の遂行」に関してのみ、刑事裁判権からの免除が認められるのみです。また、重大犯罪を行えば逮捕されてしまいます。「外交特権があるから何やっても逮捕されない」というのは領事に対しては通用しません。

また、施設の不可侵(立ち入り禁止)権についても差があります。大使館など大使や公使がいる公館には絶対的な不可侵が定めれらていて、許可なくして現地国の役人が入ることは原則としてできない。原則、緊急のときなども、大使や公使などが同意しなければならない。「外交関係に関するウィーン条約」草案の段階では認める動きもありましたが、削除されちゃいました。

それに対して、同様に領事館の不可侵を定める「領事関係に関するウィーン条約」には一方で、「火災その他の迅速な保護措置を必要とする災害の場合には、領域間の長の同意があったものとみなす(31条2)」とその例外が規定されています。緊急の場合は、現地国の警察官や消防士などが許可なくして立ち入ってもいいというわけです。

今回の連行事件はここが争点となっています。大使館だったら警察官が一歩でも足を踏み入れることはできません。しかし領事館だったため、「亡命希望者をテロリストかと思って急いで立ち入ったのだ」という中国側の言い分も事実なら成り立つというわけです。

 

最後のページでは、国際法的に見た「亡命」について、解説します。
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