仕事に没頭するには北向きがベスト
この書斎のこの机で、暗夜行路の後編が書かれたそうです。6畳の広さで、机などは当時のものだそうです |
ひとつめは、この家を設計するときに、恐らく配置から内装まで、最も重視されたであろう書斎の向きです。書斎は居間やキッチン、サンルームとは玄関をはさんで反対側に配置されています。日常生活から隔離された状態で、執筆に没頭できるようにと考えたのでしょう。そして、1日のうち、それなりの長い時間を過ごす部屋ですが、意外にも北向きの部屋です。
長く暮らせる家は北向きに限る?でも触れましたが、北向きの部屋は南向きのように日当たりがよくないものの、光の入り方が安定しています。その点が創作活動に向いているということで、ここに書斎が配置されたそうです。そして、机の前にはピクチャウインドウが設けられ、窓からは庭の向こうに若草山などが見えるようになっています。借景と庭の木々の緑が仕事に疲れた目を休めてくれたのでしょう。一方で、子供部屋や夫人の部屋は、広い庭が眺められる南側に配置されていました。ここに、直哉の家族を大切にする想いが表れているわけです。
サロンと子供部屋を離し、居心地を高める
サンルームは高畑サロンと呼ばれ、武者小路実篤や小林秀雄、尾崎一雄、梅原龍三郎など、多くの文化人が集った場所です |
細部へのこだわりがお気に入りの家をつくる
いかがでしたか。確かにところどころ傷みが目に付いたり、襖など手を入れてほしいなあと思う部分もありましたが、築80年近いというのに、決して古くささは感じませんでした。木や畳、瓦や竹など、私たち日本人にとってなじみの深い素材を多用しているからでしょうか、落ち着きや懐かしさを感じました。
そして、和室一辺倒ではなく、用途に応じて洋室を設けたり、当時としては珍しかったトップライトやガス湯沸かし器を取り入れるなど、必要に応じて新しいものを採用したのは、研究熱心だった証でしょうか。また、書斎のように、洋室でありながら、天井は葦張りと数寄屋風にするといった柔軟性は、今の家づくりにも学べるポイントかもしれません。その後、子供の教育を考えて東京へ転居しますが、志賀直哉がこの家を気に入っていたのは、自分のこだわりと楽しい思い出がたくさん詰まった家だったからでしょう。
家の南側には庭がありした。自分たちの部屋から庭に出入りしやいように子供部屋は南側に配置されています |
志賀直哉旧居
住所:奈良県奈良市高畑大道町1237-2
交通案内:市内循環バスのバス停・破石町より東へ徒歩約5分
電話:0742-26-6490
開館時間:9時半~17時半(12~2月は16時半まで)
休館日:毎週木曜(木曜が休日にあたるときは、その前日の水曜休館)
入館料:大人350円(300円) 中学生200円(160円)、小学生100円(80円)( )内は30名以上の団体料金