古民家/古民家探訪

関東大震災にも耐えた住宅・旧朝倉家に学ぶ(2ページ目)

東京・渋谷区に重要文化財である旧朝倉家住宅があります。このお屋敷は、元・東京府議会議長を務めた朝倉虎治郎氏が大正8年に建築したもの。今回は、関東大震災でも壊れなかったこのお屋敷を訪ねてみました。

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド


震災も戦禍も逃れた家


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手前の和室が応接間で、右手奥に見えるのが家族のスペース(3つの部屋)です。この3つの部屋は、今はひとつの洋室になっています
この家が建築されたのは大正8年。ということは、関東大震災や、太平洋戦争の戦禍もくぐり抜けたことになります。庭に面した南側は開口部が多いのですが、関東大震災でも壊れなかったのは、柱や壁がバランスよく配置されていたからでしょうか。地震の多い日本では、長く暮らすためには耐震性は必要不可欠な要素ですね。

襖や板戸は豪華な美術品


長く暮らすには、住まいに自分のこだわりや希望をいかした部分があると、愛着が持てるものです。旧朝倉家住宅は地元の豊かな家だっただけに、ところどころに贅を凝らした箇所がみられます。これも当主である虎治郎氏のこだわりの表れでしょう。

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2階の大広間。主に会合などに使われていたそうです。ハレの場にふさわしい日本画家による襖絵が見事です
例えば、2階は虎治郎氏が公職にあった際、会合などに使用されていたという広間があるのですが、この部屋の襖や廊下の板戸は日本画家によるものです。絵を描いたのは小猿雪堂という狩野派の流れをくむ日本画家だそう。まるで、美術品に囲まれて生活しているような感覚でしょうか。

また、昭和初期に建てられた志賀直哉の奈良の自邸に比べると、応接間でも洋室ではなく、すべての部屋に畳を使うなど和風でまとめられています。また、インテリアにも中国風や洋風の意匠はほとんど取り入れられていません。唯一、1枚の板戸に描かれた唐獅子牡丹が中国風のテイストを感じさせます。

そのほかにも、茶室や杉の板目にこだわってつくられた和室(杉の間)など、虎治郎氏の要望が盛り込まれています。

家族の暮らしを大切にしたプランに


ここで朝倉家がどんな暮らしをしていたのか詳細はわからないものの、家族を大切にする家庭だったのではないかと想像できます。というのも、居心地のよい場所に家族の生活スペースが配置されているからです。後に増築されていますが、建築当初、家族が主に使用していたのは3つの部屋だったとか。公的に利用するスペースに比べると、家族の使用するスペースのほうが小さいのですが、家族が触れ合うことを考えれば、ほどよい広さだったのかもしれません。

また、崖線という大きな傾斜のある敷地を利用し、回遊できるように散策道を設けた庭は、来客の目を楽しませるだけでなく、家族にとっても安らぎの場として重要な役目を果たしていたのだろうと思います。

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これが杉の間と呼ばれる座敷。虎治郎氏のこだわりにより、柱や壁に杉の板目をいかしたつくりになっています
家族のスペースについては、後に家族が増え、敷地の北側に家族室や食堂、台所が増築されました。その増築スペースと虎治郎氏が利用していた杉の間との間には、坪庭があります。杉の間には私的な客を通すこともあったといいますから、この坪庭は家族室や食堂の通風採光を高めるためだけでなく、家族の空間との緩衝帯の役目も担っています。

旧朝倉家住宅のような敷地をいかした設計や、プライベートスペースとパブリックスペースの配置の仕方などは、私たちが家を建てるときにも参考にしたい手法です。

重要文化財 旧朝倉家住宅 
住所:東京都渋谷区猿楽町29-20
交通案内:東急東横線 代官山駅より徒歩5分
ハチ公バス(夕やけこやけルート) 代官山駅下車 徒歩5分 
東急トランセ ヒルサイドテラス下車 徒歩3分
電話:03-3476-1021 
開館時間:10時~18時(入館は17時半まで、11月~2月は16時半まで開館、入館は16時まで)
休館日:毎週月曜(月曜が休日にあたるときは、その翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)ただし、2008年は12月24日より休館の予定
入館料:大人100円(80円) 小中学生50円(40円) 年間観覧料500円 60歳以上、障害のある人及び付き添いの人は無料 ( )内は10名以上の団体料金
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