古民家/古民家の基礎知識

昔の家から長く暮らせる家の間取りを学ぶ

住宅を建てるときに大いに頭を悩ますのが間取り。施主によって家族構成や希望が異なるものの、長く暮らせる家の間取りはどう考えたらよいのでしょうか? その答えのヒントが過去の住宅にありました。(改訂:2019年6月/初出:2009年6月)

大塚 有美

執筆者:大塚 有美

長く暮らせる家づくりガイド

最適な間取りはずっと同じではない。変化する?!

住宅を建てるときに、多くの人がこだわる間取りですが、家族構成やライフスタイル、趣味などによって、その家族に合った間取りが違います。さらに、これらの要素は、同じ人でも年齢によって変わっていくこともあるので、どの時点にも通用する「この家族にはこの間取りがベスト」という解答は、ないのです。

では、長期間にわたって、できるだけ柔軟に対応させるには、どのような間取りにしたらよいのでしょうか? その答えのヒントは三重県松坂市にある「御城番屋敷」にあるような気がしました。
 
 
 
和室

「御城番屋敷」の室内。約150年前に松坂城の警備を任務とする武士と、その家族の住まいとして建築されたものです

 

150年以上も使われてきた間取り

下が「御城番屋敷」の間取りです。昔の家によく見られる、いわゆる「田の字型」ですね。
間取り

「御城番屋敷」の間取り。「田の字型」といわれる間取りです


「御城番屋敷」が建てられたのは1863年。古い家でありながら、長い間、複数の家族が生活してこられたのは、この間取りに優れた部分があったからでしょう。しかし、私は「このままの間取りでは、現在の生活をするのはかなり難しい」とも思いました。
 

ものが増えた現代。収納は適材適所に

「この間取りで生活するのは難しい」と感じたポイントは2つありました。ひとつは収納のつくり方、もうひとつはキッチンの配置です。

「御城番屋敷」の主な収納は押入れでした。100年以上前の生活に比べて、何かとものが増えた現在の暮らしでは、和室に確保された押入れだけでは収納量が少なすぎますし、奥行きが深すぎて、ものの出し入れがしにくいでしょう。

持ち物の量は人によって差があると思います。けれども、ネットや雑誌、テレビなどで収納がテーマのとして頻繁に取り上げられていることを考えれば、収納に悩んでいる人は多いのではないでしょうか。最近の住宅では、クロゼットやパントリー、シューズクローク、納戸など、押入れ以外の収納を適材適所、つまり、あると便利な場所に設けるのが一般的です。
 
外観

「御城番屋敷」は常緑樹のマキの木が生け垣に使われていて、玄関は北側にあります

 

オープンになってきたキッチン

「御城番屋敷」のキッチンは炊事場という雰囲気で、設備機器の機能や形・デザインは現代の製品とは比べものになりません。(断熱性も今の住宅とは全然違いますが、ここではあくまでも間取りに限定して、話を進めます)

「御城番屋敷」のキッチン(炊事場)は、居室とは隔離され、独立した空間でした。近ごろ人気なのはアイランドキッチンやペニンシュラキッチンで、かなりオープンな設計が多くなっていますから、キッチンの配置は、今の家と大きく違うところです。

オープンなキッチンの利点は、家族と会話をしながら料理をしたり、また、複数の人が同時に作業できる点にあります。反対に「御城番屋敷」のような昔のキッチンは、リビングなどから離れた場所にあり、壁で仕切られているため作業に集中できる反面、調理をする人は孤独です。家族の気配を感じることも難しく、乳幼児がいる家庭では、子どもの世話と調理作業の両立が難しくなるでしょう。

その点、オープンなキッチンなら、気軽に声をかけられることで、夫や子どもも調理作業に参加しやすくなり、作業の軽減がはかれるでしょう。そして、何より、家族の気配を感じながら楽しく調理ができますね。
 

うまくミックスさせて暮らしやすい間取りにする

「田の字型」の間取りが長く使われてきた理由のひとつは、「柔軟性が高いこと」だと考えられます。襖や障子によって部屋と部屋が連続するため、必要に応じて部屋を広くしたり、小さくしたりと自在に使いこなせるのはとても便利です。部屋と部屋が壁で区切られた個室中心の間取りでは、難しいですね。さらに、部屋と部屋、あるいは、部屋と廊下をつなぐ襖や障子を開けると、実際の面積よりも広々と感じられるというメリットもあります。

また、家の前方と後方に設けられた2つの庭は、どの部屋にも通風と採光をもたらします。庭に面していない部屋でも、障子や襖を開け放つことで、風通しのよい部屋となり、庭の緑を楽しむことができるようになっているわけです。
 
庭

「御城番屋敷」の奥には前庭より広い庭が設けられています。建具を開け放つと、南北に風が通り抜けます


このように、襖や障子の開閉で空間を可変させる手法は、日本家屋の大きな利点のひとつです。小さな部屋をいくつもつくって区切るのではなく、現代の住まいでも、引き戸や可動式収納などをうまく利用すれば、可変性のある家になり、家族構成やライフスタイルが変化しても、対応できると思います。引き戸なら、各部屋の通風・採光も確保できるでしょう。

このように、昔の家の間取りのよいところと、現代の住宅に必要なポイントをうまくミックスさせられれば、家族構成が変化しても柔軟に対応させることができ、長く暮らせる間取りができるのではないでしょうか。
 
 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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