立ち上がる風味
昆布に包まれて登場した魚料理 |
「インカの目覚め」は黄色く甘い風味があるジャガイモ品種、「エクラゼ」とはフランス語で「押し潰した」という意味だ。昆布を開くと、つぶしたジャガイモをコイン型にまとめた上に、半生に近い加熱具合のスズキが載っている。「オーブン焼き」といっても昆布はしっとりしているので、比較的低温で蒸し焼きにしたものだろう。クラシックなフランス料理ではあり得なかった生や半生といった火通しの魚も、現代的な料理では当然の選択肢となった。「フランスでは魚の扱いや流通のスピードが日本ほど良くなかったのでね」というデシャン氏も、寿司は大好物である。
この皿は昆布締めを応用しているのだろう、スズキとジャガイモに昆布の旨味が浸透している。そしてサービスが、泡立てられた新鮮な牡蠣のソースをかけながら、手元に置かれた川海苔のパンと一緒に食べるようシェフが勧めていると言い添えてくれる。フランス料理で、昆布締めのようなものを牡蠣ソースや海苔パンと共に食べるというのはなかなかおつなものだ。わざわざブルターニュ産のスズキを使うのは火を通しても身がしっかりしているからだという。食べてみると身が厚く、味わいも濃厚である。
ベル エポック1985年をマグナムボトルから注ぐ |
これだけの要素を緻密に重ねて力強く迫るような味わいは、日本的な感性だったら避けられてしまうかもしれない。だがここでは、フランスのスズキが堂々たる主役。日本の食材が脇役を固めて、協働してフランス的なテーマを伝える。この料理に合わせるシャンパーニュは、しっかりとインパクトがありながら繊細さや上品さを兼ね備えていてほしいもの。こうした欲張りな要望に、ベル エポック1996年が応えてくれている。