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長澤芙美・創作らんちう小咄(3ページ目)

・・・水槽の端から端までの記憶で、繰り返し生きる彼らの幸いとは何だろう。そう思っていたら、らんちゅうの身の上話でも作ってやりたくなった。

執筆者:松原 洋一

◇長澤芙美・創作らんちう小咄 その弐

一心不乱、というのが苦手である。けして不真面目なのではない。勉強していても、辞書を引く度に目当ての単語の隣近所まで読んでしまうタイプなので、ちっともはかどらない。

例えば金魚と引いたとしたら、金玉糖と金切りと近畿大学が平然と並んでいて面白いし、更に金切りの歴史について調べ始めて気がつくと1、2時間経っているなんてよくあることだった。同じように絵を描きながら、私は色んなことをする。金魚の本を読み、金魚の絵を探し、金魚のお話を考えている。歌がうまければきっと金魚の唄だって作っただろう。

あはれ、らんちう宴を知らぬ「五条大橋の下の金魚の話」


またお師匠はんが怒鳴る。「やめよし、三味線ゆうんは、あんたよりも繊細なんや。そんな強ぅ弾いたら皮がやぶれてしまいよる。あんたのはな、チントンテン、テレツクテンやない、死んどんねん、ゲロ吐くねん、やわ。こんなよぉ基本も出来てへん、感性のカケラもあれへん子、うちは初めてや。うちは教える自信をなくしたわ。…なんやその目ぇは。言いたい事あんねやったら、言いよし。え。無いんか。せやったら、もううちは胸が悪いさかい、そこにお月謝置いたらはよ帰りよし。ほなまた来週な。さいなら。」

お師匠はんがそこまで言うと、客間の戸が開いた。中から12、3歳の少女が顔を真っ赤にして出てくる。この子はあき子ちゃんという子で、もう長いことお三味線のお稽古に来てるのに、ちいとも上達せえへんので、いっつもお師匠はんに怒られたはる。ほんで、毎週その腹いせに、帰り際にお玄関の金魚鉢に手を突っ込んで、盛大にかき回して帰る子やったので、らんちう達はみんなあき子ちゃんがだい嫌いやった。この日もあき子ちゃんは激しく逆上していて、顔は涙と鼻水とよだれでそらぐっちゃぐちゃになってた。「うわぁ、泣いた顔もぶっ細工やわぁ…」と思わず言うてしまったんが一番チビのらんちうで、あ、いかんと思った時にはもう遅かってん、あき子ちゃん、金魚鉢抱えて外に出てな、用水路めがけて中身ごとぶちまけよって、5匹おるらんちうみんな、ドブに流されてしもた。運悪く雨の後で水かさ増えとって、あっちゅう間に濁流に飲み込まれた。「おとーはーん!こんなん保津川下りもびっくりやで!ボクら、どこまで流されてしまうんやー?」ってチビが叫んどったけど、お父はんも必死や、「そのうち鴨川に出るやろ、はぐれたら五条の橋の下で待ち合わせや。」と言うたまま、どっか流れていってしもた。

で、チビはずうっと今でも五条の橋の下でお父はん待ってるらしいねんけど、誰も詳しいこと知るもんはおらん。

「あはれらんちう」#2

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