■卓越した分析力と多彩なケーススタディーで「いい質問」に隠された技に迫る
著者は、谷川俊太郎、手塚治虫、黒柳徹子、村上龍など、対話すなわち質問の名手たちの例をあげ、さらに、著者お得意の「座標軸」で質問を整理していく。
例えばこうである。
<図式1>
横軸/本質的VS非本質的 縦軸/抽象的VS具体的
「いい質問ゾーン」本質的×具体的ゾーン
<図式2>
横軸/相手は話したくないVS相手が話したい 縦軸 自分が聞きたいVS自分は聞きたくない
「相手は話したくない」×「自分が聞きたい」ゾーン=「子供」ゾーン、「相手は話したくない」×「自分は聞きたくない」ゾーン=「聞いてみただけ」ゾーン、「相手が話したい」×「自分が聞きたい」ゾーン=「ストライク」ゾーン、「相手が話したい」×「自分は聞きたくない」ゾーン=「大人、おべっか」ゾーン
これだけでも、自分や他者が対話の時に発する質問がどう位置付けられるか、かなり明確になりはしないだろうか。この著者の整理、名称付けの手腕、さすがというしかない。
さらに、著者は、いい質問に必要な技を、相手に共感させる「沿う技」、相手の言うことを整理したり、自分の経験の絡ませる「ずらす技」に分類する。カンのいい方は既にお分かりだと思うが、上等な質問は、「沿いつつずらす」、すなわちこの二つの基本技の複合形だというわけだ。
読み進めていくと、今まで「○○さんと話すと、何か、盛り上がるよね」「××との話は、何か、上滑りなんだよな」の「何か」の意味がよくわかる。すなわち、コミュニケーション力という抽象的な能力の実態とその向上方法が極めて具体的に示されているといえるだろう。
例にあげられている「名人」たちの対話も実に興味深い。ダニエル・キイス×宇多田ヒカル、内田百聞×古ン亭志ん生、村上龍×小熊英二(社会学者)の対談の抜粋などは、あたかも短編ドラマのようだ。この域まで到達できるかどうかは別にして、私も、インタビュー後のテープ、自分の質問を著者の整理方法に沿って分類してみようか。そうすれば、「質問ベタ」から脱出できるかもしれない。
でも、かなり落ち込むだろうな~。
自身の質問力、すなわちコミュニケーション力がどの程度なのか、確認する意味でも、なかなか使える一冊である。
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