書籍・雑誌/話題の本関連情報

芥川賞受賞作をチェック! 『しょっぱいドライブ』(2ページ目)

芥川賞を受賞した表題作。三十台の独身女性と六十台の初老男。冴えない二人の冴えないドライブに漂う「奇妙な味」があとをひきます!

執筆者:梅村 千恵

■相反する感情の間に生まれでる、緊張と湿ったユーモア

ちっぽけな優越感を保つため、軽蔑の対象を求める閉鎖的な村社会で生きる二人は、自分たちがスケープゴートであることを十分に承知している。そして、時にはあざとく、時には鈍感に、それをやりすごす。

「子供だった」と自分のことをあざ笑う男の声を聞きながら、「子供が昆虫をピンセットでいじるみたいな」その男のセックスを思い出している「わたし」。知人の葬式で、妻が違う男と夫婦同然の顔をしているのを目撃したあと、さっさと喪服をぬぎ、「わたし」とデートする九十九さん。

著者は、その打算やふてぶしさを怜悧に見詰めている。その一方で、人生の黄昏を自分なりに小さな愛情の花を咲かせようとする男の純情や、そこに自分の居場所を求めようとする女の切なさも丁寧に掬い上げる。打算と純情。ふてぶてしさと切なさ--相反する感情の間に緊張が生まれ、それが緩和されるときに、湿ったユーモアが生まれ出る。このあたりの味わいが妙に後を引くのだ。

救えないけど、どこか心地よい熱量のある話。

個人的には、レイモンド・カーヴァーの短編作にちょっと似ているかな、と思った。ちなみに、当該書籍には受賞作以外に、中学2年生の不登校の少女と26歳の相撲取りという不思議な組み合わせのカップルを描いた「富士額」、若い女性同士の密着感のある奇妙な主従関係をつづった「タンポポと流星」が所収されているが、。どちらもなかなか渋い味わいがある。エッセイストではなく「小説家」であり、かつ短編集が評価される稀有な書き手なのではないだろうか。

★あえて、アラ、捜します!
いやあ、それにしても、「わたし」、鈍感で残酷。こういう人、あんまり友達になりたくないな~。でも、こう書いている私自身の中にも、「わたし」的なところあるんでしょうね。

この本を買いたい!


芥川賞、直木賞の受賞作などを詳しく知りたいなら文藝春秋「各章の紹介」ページへ。
【編集部おすすめの購入サイト】
Amazonで小説をチェック!楽天市場で書籍をチェック!
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます