男のこだわりグッズ/文房具・小道具

万年筆博士のオーダーメイド万年筆を使う

鳥取の万年筆博士は、今はもう失われつつある技術を持つ職人さんによる手づくり万年筆を、オーダーメイドで受注している、万年筆好き憧れの店。使い手に合わせて作る世界で一本の万年筆が手に入るのです。

納富 廉邦

執筆者:納富 廉邦

男のこだわりグッズガイド

オーダーメイドの万年筆が届いた(ファースト・インプレッション)

万年筆博士「手づくり万年筆」52,500円(税込)
FB-DX-PKをベースにカスタマイズしたモデル

ある日、ガイド納富の元に届いたのは、鳥取駅の近くにある筆記具専門店「万年筆博士」からの小さな小包でした。それは、注文から20ヶ月待って(現在は23ヶ月待ちだそうです)届けられた、オーダーメイドの万年筆。世界で一本だけの、ガイド納富のために作られた万年筆です。大喜びで荷物を開けると、中からは、「鳥取万年筆博士謹製 手づくり万年筆」と書かれた桐の箱が出てきました。オーダーした万年筆は、その中に収められていました。

オーダーした万年筆は、丁寧な手紙とともに、桐箱に収められて届く

注文したのは、全長12cmの小振りのもの(PK型と呼ばれるタイプです)。リングなどの装飾を付けずに、クリップだけを付けてもらったシンプルな外観です。軸の素材はエボナイトのレッドマーブル。赤と黒のマーブル模様が木目のような味わいです。小振りとは言え、やや太めの軸はエボナイトの柔らかい質感と合わさって、とても手に馴染みます。既にインクが入っていたので試しに書いてみると、いきなり、使い込んだ後のような書き味で書けてしまい、驚きました。

万年筆博士のオーダーメイド・システムについて

オーダーシートは、カルテのように様々なデータを記録。主に住所や氏名などの実際に書かれた文字が、オーダーメイド時の調整の決め手となる

一口にオーダーメイドの万年筆と言っても、様々なスタイルがあります。それこそ大金持ちなら、全てを自分好みに作ることも可能でしょう。デザイン画を起こす所から作るケースもあるでしょう。また、単に色や形だけを選ぶタイプもあるでしょう。万年筆博士のオーダーメイドのスタイルは、エボナイト、セルロイド、べっ甲、ココボロウッド(ローズウッド)、水牛から素材を選び、選んだ素材にカラーバリエーションがある場合は色も選びます。

2008年3月、ガイド納富が訪れた時点での万年筆博士店内。手前のテーブルで面談しながらオーダー。奥のガラスブースで50年を越えるキャリアを持つ田中晴美氏が万年筆を作られている。

続いて、いくつか用意されたデザインの中から形を選び、リングやクリップなどをどうするか決めます。そして、最後に普段自分が使っている万年筆を使って、用意されたカルテに文字を書いたり、筆記時のペンの角度、腕の角度、筆圧といった内容を、細かく記入していきます。ガイド納富は、店頭で実際に書くのを対面で見てもらったので、細かい部分は万年筆博士三代目の山本竜さんにお任せしましたが、通販で発注する場合は、自分で記入することになります。

サービスでイニシャルか漢字で名前などを刻印していただける

自分で記入するだけだと、本来の自分のスタイルとは違った内容を書いてしまった時に取り返しがつかないのでは、と思ったのですが、そこは長年オーダーを受けてきたお店です。「書かれた文字を見れば大体分かりますし、カルテが届いた後で、電話や手紙でもやり取りしますから大丈夫です」ということでした。また、本人に内緒でプレゼントしたいという場合でも、当人が書いたモノをいくつか送れば大丈夫なのだそうです。

14金のペン先は、使う人に合わせて研ぎ上げられている

そして出来上がった万年筆の完成度は先に書いた通りです。例えば、カルテには住所を三回、三行に渡って書く部分があります。これは、古山浩一氏の著作「万年筆の達人」(エイ出版社)によると、「上の行と下の行では筆跡に微妙な違いが出る。ペンにもその差の許容範囲を作るためのものなのだ。」ということだそうです。同書には「世界一完璧に近いオーダーシステム」と言った方もいたと書かれていましたが、実際に出来上がったペンを使っていると、その言葉も大袈裟ではないと感じます。

オーダー時に考えたこと

キャップを閉めた状態でも、キャップを尻軸に付けた状態でも、本体の長さは12cmになるように作られている

万年筆をオーダーするに当たって、ガイド納富は、「とにかく普段から持ち歩いて仕事や日常生活に使うための万年筆」を作ってもらいたいと考えていました。自分の手や書き方に合わせた万年筆が作ってもらえるのなら、それは、多分、市販のどんな万年筆よりも手に馴染むに違いないのです。ならば、その万年筆はここ一番のためではなく、最前線で使いたいと思ったのです。

尻軸には、完成した月(この場合は2009年7月を表す「072009」が刻印されている

ということで、コンパクトで持ち歩きやすいサイズ、長時間書ける太さとバランス、筆記幅は、手帳やノートに書き込みやすい細字寄りの中字というあたりは、最初から決めていました。さらに、ハードに使うことと価格的なことを考えて、軸の素材はエボナイトにしようと考えていました。前に、エボナイト軸の万年筆を借りていたことがあって、その時の持ち心地が忘れられなかったということもありました。

インクはカートリッジ・コンバーターの両用。カートリッジ、コンバーター共にパイロットのものを使用

ただし、エボナイトは使い続けないと、放っておくと曇ってしまうことがあるということでしたが、毎日使うことを想定していたので、エボナイトを選んだのは、意外に正解だったのだなと嬉しく思ったのを覚えています。価格的には、大まかに言えば、セルロイド→エボナイト→ココボロウッド→水牛→べっ甲という順になります。もちろん、サイズや色などで価格は上下しますから、エボナイト軸だけど水牛軸の一番安いものより高いということもあり得ます。

ガイド納富の「こだわりチェック」


ガイド納富は、この万年筆を、毎日持ち歩いて、取材にも手帳用にも使っていて、その実力をひしひしと感じています。太さもしっくりと来るし、何より、本当にスムーズに書けるのです。インクはコンバーター・カートリッジの両用式でガイド納富はコンバーターを使用しています。コンバーターは吸入機構内蔵のタイプに比べると口径が小さいため、インクフローがどうしても悪くなると思っていたし、これまで使ってきたペンでは大体そうだったのですが、この万年筆では、ペリカンのM300のような吸入機構内蔵型と比べても遜色がありません。

万年筆博士「イカ墨セピアインク・ライト」6,300円(税込)
容量は50ml。万年筆用のライトの他、書画用のダーク(7,350円)もある

インクは、これも万年筆博士で製作されている、「イカ墨セピアインク」を使用しています。このイカ墨をマイクログラインダーで微粒子化した顔料インクは、とても綺麗なセピア色が出て、目に優しくとても気に入っていますが、インクとしてはやや粒子が大きく、元々がそれほどサラサラしたインクではありません。しかし、それがとてもスムーズに出るのです。また細字の万年筆にありがちな、カリカリした書き味もありません。細い文字なのに、中字以上のペン先のようにインクがたっぷり出て、でも文字幅は細いままです。だから、手帳に小さな文字を書く事も可能で、しかも書き味は柔らかい万年筆そのものです。

オーダーメイド万年筆を使って、万年筆用ノート「フェンテ」にイカ墨インクセピアで書いた

自分用に作られた筆記具というのが、どういうものなのか、実際に使ってみて初めて実感出来ました。これは、ちょっとただ事ではありません。次に頼むなら、ココボロウッド製(ココボロウッドは、エレキギターの指板にも使われていて、その触り心地が昔から好きなのです)で、ヘビーライター向きのメモリー型にして太字で……、と既に妄想が膨らんでいます。

<関連リンク>

万年筆博士のホームページはこちら
(ここから、注文書とカタログを請求出来ます)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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