スーパーチャージャーが組み合わせられた1.6Lの直列4気筒SOHCユニットは、163ps/210Nmという数値を発生するに至っている。いかにも過給機付きのユニットという印象ではなく、排気量が大きなユニットという印象の方が強い。低回転から豊かなトルクを発生し、それが上まで続く感じ。その分切れ味鋭い吹け上がり、というドラマ性こそないわけだが、逆にドラマ性を感じさせない分実質的な速さが引き出されているといえるだろう。
つまり、どの回転どのギアからでも十分以上の加速感が味わえるほどゆとりあるユニットなのである。組み合わせられるトランスミッションが、ゲトラグ社製の3軸式6MTとなることもポイントだろう。もちろんこのMTもまた洗練されており、ドライブトレーン全体の滑らかさはやはりこのクラスでは考えられないほどの上質なものを生み出しているといえる。
常に重厚な感じを失わず、エンジンも過敏ではない特性を持っている。その意味においては、あらゆる部分に他のグレードにはないどっしりした感じが生まれているクーパーSなのだが、一度ステアリングを切るとその反応は実に鋭く、目の覚めるような切れ味のハンドリングを有していることが分かる。
ONEやクーパーに比べ当然ハードな設定となるサスペンションは、ボディをあまりロールさせずヴィヴィッドな反応を生み出すわけだが、それでもドライバーに違和を感じさせないだけの傾き感は確実に作り出している。この辺りが重厚にも関わらず鋭さをも感じさせる理由と言える。
フロントは常にトラクションを失わず、リアも常にしっかりと路面ととらえ続ける。他の前輪駆動車に比べ、ロール軸を平行に近いわずかな後ろ上がりとして、前後ともにサスペンションの接地を積極的に活かすBMW流セッティングが効果しているからなのだろう。結果そこには、上質なクルマの動きと高い運動性能が両立されるのである。
ONEやクーパーに装着されるASC+Tよりもさらに上級の車両制御システムであるDSCを解除すれば、ドライバーにある程度のスキルをキッチリと要求する。つまりシビアな動きを見せるだけの力も当然発揮できるわけである。
DSC解除によってクーパーSは全てをさらけ出す。タックインで姿勢を変え、路面をかきむしるように立ち上がる様は、まるでDSCが封印の役割を持っているとさえ思わせるほどだ。DSCの制御の中で走る限りはあくまでONEやクーパーに比べて重厚な印象が強いクーパーSだが、封印を解けばそこにはしっかりとトップスポーツモデルならではの「過激さ」が潜んでいると分かる。
標準装着される16インチサイズタイヤはスムーズな乗り味走り味を提供するバランスの良さが魅力である。そしてオプション設定となる17インチサイズタイヤは、エッヂを効かせた感があるのが特徴だ。特筆すべきはインチが変わっても乗り心地に大きな変化をもたらさないこと。ともにランフラットであるにも関わらず、言われなければそれとは気付かぬ一般性をも持っている。
普段乗りでの重厚な感触と、スポーツドライビング時に見せる反応の鋭さ気持ちよさ、そしてDSCの裏に隠れた過激な一面。この辺りこそ、まさにシリーズのトップモデルたる所以だろう。それはつまり、もともとの基本的なポテンシャルの高さがあるからこそ。
ゆえにグレード毎によって、奥深く、味わい深い走りを構築することができる。その意味でもやはりミニというプロダクトは、コンパクトクラスに革命を起こすものだといえるのではないだろうか?