メルセデス・ベンツ/メルセデス・ベンツの車種情報・試乗レポート

バネオは実質本位のベンツ

Vクラスのスモール版ともいえるバネオが登場した。パネルバンを思わせるハイトパッケージングボディと積載性と広さ最優先のキャビン。実質機能本意の潔さに心惹かれるクルマである。

執筆者:川島 茂夫


スモール・ベンツにはAクラスがあるし、室内高の余裕があるといっても2列シートである。ハードウェアはAクラスベースと共通。ハイトパッケージングとリヤスライドドアでAクラスと棲み分けるのは少々難しいだろう。

というのがバネオの試乗前の印象。一番不可解だったのは2列シートの採用だったのだが、本国(EU仕様)にはオプションながらちゃんと3列シートが用意されているとのこと。付け加えるならば日本仕様も荷室フロアをめくれば、サードシート取り付け用のアンカーが備わっている。

その話を聞けば「だったら日本にも3列シート仕様を」となるのが成り行き。余計に困惑してしまうのだが、日本仕様を決定するにあたって、これまでのメルセデス・ベンツのユーザーの傾向を考える等々の結果、2列シート仕様に決定されている。

ちなみに、セカンドシート、サードシートともに着脱が可能な設計を採用しているが、力自慢の男性でも一人の作業は難しいほど重い。ボクもセカンドシートの取り外しにトライしたが、ぎっくり腰になりそうなのでリタイヤさせてもらった。そんな調子なので、特別な使い方以外はシートは取り付け放しで、折り畳みで使うことになる。となるとサードシートがあると荷室容量でハンデがある。総合的な使い勝手を考えると2列シート仕様のほうが案配がいい、というのが輸入元の判断なわけだ。

それはともかくとして、バネオは実に真面目なクルマである。おそらく、一般的なドライバーのメルセデスベンツのイメージからは想像できないほど高級とか上質の演出がない。道具としての便利さをとことん追求した設計なのである。

フロアは前席から荷室までフラット。フロアカーペットも薄手で、見栄えよりもタフネス優先。シートは脚部がスチールの構造材むき出し。インパネも樹脂感覚が強い。リヤドアは両側スライドドアを採用し、テールゲートは床面から開く大きな開口部を持つ。乗降性や積載性への配慮がヒシヒシと伝わってくる。センターパネルが木目調になっているが、ワゴンを主張するが、全体的には洒落っ気のあるデリバリーバンといった風情である。

走り出せば、硬い乗り心地と重いステアリングである。安楽な快適性よりも重量物積載での高速走行での安定性を最優先にしたチューンなのは容易に理解できる。ただし、硬い乗り心地でも粗野ではない。短いストロークながら動き出しと収まりがいい。段差乗り越えでもガツンと脳天に響くような突き上げは一切ない。腰のある硬さなのだ。

ただ、高級グランドツアラーほどの質感はなく、やはり荒れた路面では揺すられやすいし、ロードノイズも大きめ。けっこう生々しさのある走りである。ただ、神経を逆撫でするような部分がなく、据わりのいいハンドリングの安心感と相まって、「不器用だけど信頼できる相棒」とドライバーに思わせるようなところがあるのだ。

動力性能にしても同じ。5速ATを奢っているものの、高速域では高回転の使用頻度が高くなる。そのお陰で加速の面ではストレスを感じないのだが、高回転まで回せば回したなり、アクセルを踏み込めば踏み込んだなりにエンジン音が高まる。これも不快感はなく、乗り心地やロードノイズとのバランスからすれば、これがうまいまとめ所なのだろう。

個人的には気に入った。道具に割り切りながらも野暮になっていない。街乗りにも面倒がなさそうだし、これは遊べそうである。しかし、A190アバンギャルドよりも25万円も高いのである。320万円の価格で、洒落っ気で遊ぶクルマを買える人がどれほどいるのだろうか。ふつうならAクラスだろうな、と思ってしまうのである。バネオを選ぶ人は、きっとメルセデスベンツのオーナーでは変わり者なのだろう。しかし、その気持ちは十分に理解できる。高級を脱ぎ捨てたベンツはけっこう面白いのだ。
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