ウィッシュは、その外観を見ても分かるように、サイドウインドウエリアを比較的狭く、ベルトラインを後方に切り上げたグラフィックを採用する。サイドウインドウのデザインでウェッジシェイプのスポーツ感覚を演出し、リヤクォーターウインドウ面積を小さくすることで、サードシートの存在感を抑えながら、骨太な力強さも加わるわけだ。
まっ、サードシート乗員の立場になれば、ウインドウを広くして、もっと明るく開放的にして欲しい等々の不満点も出てくるが、「ママズ・ワゴン」などと呼ばれないように、ドライバー心を刺激しようと内外のデザインに配慮したのはよく分かる。
ただし、走りのほうはドライバーに媚びたものではなく、家族で一緒に楽しく過ごすためのクルマらしい味付けになっている。
搭載エンジンはトヨタ1.8Lでは定番の1ZZ-FE。FF車用の最高出力は97kW(132ps)、最大トルクは170N-m(17.3kg-m)。車重の重くなる4WD車用は低回転域のトルクを重視した設計で62kW、161N-mとなっている。これで車重はFF車が1.3t、4WD車は1.4tである。余裕綽々とはいかないのはスペックから見ても仕方ない。
実際にトルクの余裕は必要にして十分といった程度。多人数乗車の登坂走行ではちょっとしんどい感じもある。しかし、小さなアクセル開度でのトルクのピックアップがいいことや高回転域でもそれほど威圧感を受けないこと、さらに回転域に対するドライバビリティの変化が少ないことが功を奏してドライビングのストレスは感じない。加えるならば、ATのシフト制御も、同じエンジンを搭載する車重の軽いモデルと比較すると積極的にダウンシフトを行い、ギア選択から重い車重をカバーする。こういった素直なコントロール感覚がスペック面のハンデをカバーしているわけだ。
一方、フットワークについては、なかなか妙味のあるものだ。高重心車の場合、操安を高めるためにロールを締めると乗り心地が悪化するだけでなく、左右の加速度の立ち上がりが大きくなるため、どうしても振り回されるような感覚が強くなる。だからといって、ロールを緩めれば高重心の不安定さがもろに出てしまう。
ウィッシュのフットワークは高重心、高着座位置のハンデをあまり感じさせない。小さなストロークでは穏やかに動き、深くストロークするとグッと踏ん張るのだ。細かな凹凸や微小操舵ではうまくロールに逃げているのだが、コーナリングなどで大きな横Gを受けた時は収まりよくロールを抑制してくれるのだ。
上屋が揺らめかない、つまりボディの揺れが連続的かつ収束感があり、落ち着いているのだ。日常域での細かな路面からの突き上げが多少目立つが、落ち着きのある乗り味がもたらす長時間走行での乗り味のよさを考えれば、何ら不満とするほどでもない。
ただし、4WD車がFF車と同じ乗り味を維持できなかったのは残念である。FF車と比較すると車軸周りに緩さが感じられ、ボディの動きの収まりが低下し、荒れた路面では車軸周りに震えるような揺れが目立つ。あくまでもFF車との比較で、ミニバン全般からすれば御の字なのだが、降雪非降雪中間地域のドライバーには悩ましい問題だろう。