ミニバンのバイヤーズガイドを書く時に、よく振る前置きなのだが、ミニバンという名称はけっこう新しいが、多人数乗車型ワゴンそのものは、それほど新しいものではない。北米でミニバンがブームになる以前から日本では1BOXワゴンが市場を確立していた。現在のミニバン市場は、その1BOXワゴン市場の進化したものと考えてもいい。

ところがミニバン市場は拡大し、今やファミリーカーの代名詞だったセダンをも凌駕するほどの市場規模になっている。つまり、常用乗車人数からはミニバンが必要のないユーザーがミニバンを選ばなければ、これほど売れるわけもなく、そこが旧来の1BOXワゴン市場との大きな違いと考えていいだろう。

キャビンユーティリティでいえば、明らかにノアにアドバンテージがある。車体平面寸法の比較ではイプサムよりも一回り小さいノアだが、イプサムよりも約10cm高い室内高とボクシーなキャビンデザインにより、効率よく居住スペースを稼いでいる。その結果、サードシートのレッグスペースやヘッドルーム、開放感ではノアのほうが一回り上の余裕がある。もうひとつ加えるならば、イプサムのサードシートは簡便な折り畳みを可能とするため、シートの座り心地が少々犠牲になり、そこもサードシートの居心地に響いている。
ノアのほうが価格も安いのだから、イプサムは必要ないクルマ、とはならないのである。

現在のミニバン市場において走りの洗練とか車格感は重要なアピールポイントであり、ノアが現行モデルにバトンタッチする時も、ユーティリティの向上と同じくらい車格感や走りが重視されている。それでも、1BOX型ミニバンは高効率が最大の特徴であり、沢山の人や荷物を載せて高い経済性を発揮できてこそ魅力的なのだ。
つまり、ノアと比較すればイプサムはミニバンとしては非効率的(贅沢)に魅力がある。効率のよさもよりも車格感や走りのよさをアピールポイントに据えたのがイプサムなのだ。車重は大差ない2車ながら、ノアは2L、イプサムは2.4Lを採用するのも、そんなキャラクター(対象ユーザータイプ)の違いによる。
技術や性能が未熟であり、家族で乗るクルマといえばセダン、という時代ならば性能や機能などの単純な比較を愛車選びの基本にして問題はなかったが、今や実用性能という点では熟成期に入り、ユーザーニーズは多様化がエスカレートする時代である。そこでは、単純な優劣比較以上に、それぞれのクルマの得失やキャラクターと、ユーザー個々との相性が重要になってくる。
そういった考え方が最も重要なのがミニバンクラスであり、ノアとイプサムをここで並べたのは、そういった考え方を理解してもらうためだ。同じような考え方はステップワゴンとオデッセイにも、あるいはセレナとプレーリー・リバティにも通じる。大切なのはキャラクターやコンセプトをしっかりと理解した上で、それぞれの持つ得失が自分あるいは家族の志向や嗜好とフィットするかどうかなのである。