一般的に「雨の日は制動距離が1,5倍になる」と言われる。大阪府警のHPでも「時速40kmからブレーキをかけた場合、乾燥した路面ならブレーキを踏んでから約22mで制止できるが、雨天時は約33m走らないと止まらない」とあった。しかし! 国交省の外郭団体による『自動車アセスメント』のデータを見ると、トヨタ・ノアの100kmからの制止距離はドライで47,8m。ウエットなら1,5倍の72m程度になっているかとなれば、54,1mである。実際は約1,1倍という結果。他のクルマのテスト結果を見ても、殆どがこの範囲を大きくはずすことはないので、自動車アセスメントのデータを信じればクルマの制動力は雨天時でもドライ路面とほぼ変わらないと考えられる。
さて、近年よく聞く「アセスメント」だが、言葉の意味はなんだろう。辞書を引くと「評価」や「査定」という意味。意訳すれば「公的な専門機関が一定の基準で調査し、結果を公開することで一般消費者との信頼関係を高めようとする」というイメージか。自動車について言うと、国土交通省の外郭団体が自動車等安全性能評価試験を実施し、その結果を自動車アセスメントとして情報公開している。安全性の評価軸として用いられるのは、衝突安全性とブレーキ性能。走る凶器と言われる自動車なので、その結果はメーカーにしても非常に大きな意味を持つものになり、クルマの売れ行きまでをも左右してしまう重要な試験と言ってよかろう。なかでも衝突を避けるためのブレーキ性能については、事故を未然に防ぐという意味で安全性とは切っても切れない。
参考までに書いておくと、ブレーキ性能の試験は時速100kmからフットブレーキを素早く踏み込んだ際の停止距離と停止姿勢について評価し、より短い距離で安定した姿勢で停止することを重要視している。平成14年度の結果を見てみると、ドライ路面で最も優秀な数値を記録したのは日産スカイラインで、制動に要した距離は40,0m。ウェット路面ではスバル・レガシィの42,4mが最も優れた結果。軽自動車で最も優秀なのは、ドライで42,6mというダイハツ・マックス(車重830kg)だったが、興味深いのは決して軽いとは言えない4WDのレガシィ(同1480kg)が、車重の軽いマックスよりも優秀な数値を記録している点。
物理的に考えると質量の軽い軽自動車の方が制動距離は短くなると考えられるのだが、そうでもない。レガシィは、ウエット路面でもノアのドライ状態より短く止まれる。これらのデータは何を意味するか? 確実に言えることは「あまり参考にならない」ということである。きっとレガシィでもグレードで停止距離は違うだろうし(履いているタイヤが異なるため)、安いタイヤを履く軽自動車のベーシックグレードだと、ウエット路はノアより長い停止距離なると思う。グレードによって停止距離は全然違うのだ。だったら基準タイヤを設定し、そちらでもテストすればいいのに。衝突安全性評価の方も、専門家から見れば納得出来ないことが多い。いずれにしろ自動車アセスメントは『役人の仕事』だと思う。