古豪ハチロクの汽笛が響く肥薩線SL人吉の旅

肥薩線の那良口~渡間の第2球磨川橋梁を渡る「SL人吉」

肥薩線の那良口~渡間の第2球磨川橋梁を渡る「SL人吉」

ハチロクの正面。58654号機と複雑な番号の付け方だ

ハチロクの正面。58654号機と複雑な番号の付け方だ

蒸気機関車ハチロク(8620形)の58654号機が二度目の復活を遂げた。最初の復活は「SLあそBOY」としてで、阿蘇の麓を駆け抜けて20年。老朽化のため力尽きて勇退したのだが、九州の人々の熱き情熱に押され、よもやの再復活となった。今回は阿蘇を行く豊肥本線の急勾配は避け、ハチロクゆかりの肥薩線人吉へのコースが選ばれ、2009年4月25日より運行を開始した。

ハチロク(8620形)の58654号機は、大正11年生まれだから、C57よりもD51よりも年長で現役SLの最長老だ。CやDを付けるSL形式が制定される前につくられた機関車なので、8620形という番号だけの形式で、その番号の振り方は複雑だ。

八代から、いよいよ絶景路線・肥薩線の旅が始まる

八代から、いよいよ絶景路線・肥薩線の旅が始まる

ハチロク牽引列車「SL人吉」の始発駅は、「SLあそBOY」と同じく熊本駅だ。3両の専用客車を牽引して、まずは鹿児島本線を南下。広々した田園地帯を快走する。特急電車「リレーつばめ」が行きかう中を懸命に飛ばす。九州新幹線の新八代駅の下をくぐり、八代で鹿児島方面へ向かう肥薩おれんじ鉄道と分かれると、いよいよ肥薩線の旅が始まる。

肥薩線は1909年に鹿児島に至る幹線として開業した老舗路線で、その100周年を記念する2009年にSL列車が復活したことになる。

球磨川の流れが車窓からたっぷり眺められる

球磨川の流れが車窓からたっぷり眺められる

大きく左にカーヴすると、すぐに右手には球磨川が寄り添ってくる。日本三大急流のひとつに数えられる有名な川だ。坂本に停車したあと、しばらく球磨川に沿って走り、鎌瀬を通過すると列車は球磨川を初めて渡る。赤いトラスの鉄骨で覆われた鉄橋は由緒ある文化財でもあり、その美しい橋を渡るSL列車は正に絵になる光景だ。多くのカメラマンが集まる撮影名所でもある。ハチロク特有の甲高い汽笛をこだまさせながら川を渡り、今度は、列車は左手に球磨川を見ながら走る。

SLの後ろの展望室からは機関車の表情が絶えず伝わってくる

SLの後ろの展望室からは機関車の表情が絶えず伝わってくる

3両編成の専用客車は、「あそBOY」時代からハチロクのパートナーであった50系客車を再改装した車両だ。九州の各列車のデザインで有名になった水戸岡鋭治氏の手になるもので、ユニークな遊び心満載の楽しくもシックな装いとなっている。

 
列車の最後尾の展望室からは流れ行く車窓が楽しめる

列車の最後尾の展望室からは流れ行く車窓が楽しめる

先頭と最後尾にはガラス張りの展望席がある。SLのすぐ後ろに連結される場合は、機関車の後姿をじっくり観察できるし、列車の最後尾となるときは、流れ去る緑豊かな車窓をいつまでも満喫できる。

 

SLの模型が陳列されている車内のショーケース

SLの模型が陳列されている車内のショーケース

展望席と座席との境、車内中央部の間仕切りは落着いた木製の家具の雰囲気が濃厚で、風格あるお屋敷の応接間で寛ぐ雰囲気だ。SL模型のショーケース・ギャラリー、地元の名産・球磨焼酎のびんが並んだショーケース・ギャラリーなど車内にしては珍しいインテリアだが、水戸岡氏がデザインした和歌山電鉄「おもちゃ電車」を彷彿とさせる。

 
地元名産・球磨焼酎のビンがずらりと並ぶ車内のショーケース

地元名産・球磨焼酎のビンがずらりと並ぶ車内のショーケース

遊び心一杯の水戸岡ワールド全開といった楽しさだ。2号車にあるビュッフェのカウンターでは、ドリンクやお弁当はもちろんのこと、楽しいSLグッズが目移りするくらい豊富で財布の紐は緩みっぱなしだ。

 

車窓は楽しめないが、くつろいで本が読める巧拙間のようなSL文庫

車窓は楽しめないが、くつろいで本が読める応接間のようなSL文庫

他には、「SL文庫」というコーナーもあり、本棚には汽車の絵本やSLの写真集などがぎっしり詰まっている。傍らの壁に掛けてある絵画の下にあるソファーで読書と洒落込むのも悪くはないが、絶景の連続である肥薩線を走っている限りは、本を読んでいる場合ではないような気もする。

いずれにせよ、フリースペースのたっぷりある車内なので、指定席が窓側でなくてもがっかりすることはない。車内散歩や展望席で素敵な車窓を遮られずに楽しめるからだ。

縁起の良い名前として入場券が人気の一勝地駅

縁起の良い名前として入場券が人気の一勝地駅

風格ある木造駅舎の駅・白石に停車したあと、一勝地で10分も停まり小休止となる。一勝地は縁起のいい名前の駅ということで、お守りにもなる入場券を売っている。無人駅だが地元の人達が駅を守り、駅舎内には肥薩線の写真ギャラリーや付近の観光案内パンフレットも沢山置いてある。 一勝地に因んで、「必勝」うちわも売っている。

 
SL人吉は10分停車なので一勝地では地域の物産の販売があり、中々の人気だ

SL人吉は10分停車なので一勝地では地域の物産の販売があり、中々の人気だ

ホームには地元の名産品がどっさり置かれ、気晴らしに降りてきたSL列車の乗客が珍しそうに手に取ったり買ったりしている。地元の人々との会話も弾み、和やかな雰囲気だ。

雨の中、一勝地を発車。白い蒸気が印象的だった

雨の中、一勝地を発車。白い蒸気が印象的だった

煙を残して汽車は一勝地を出発していった

煙を残して汽車は一勝地を出発していった

発車時間になると、皆列車に乗り込み、旅が再開となる。山々に挟まれた球磨川の渓谷を左に見ているうちに、鉄橋で球磨川を渡る。この第二球磨川橋梁もSL撮影の名所だ(冒頭の写真を参照)。まもなく渡駅に到着する。この駅から歩いて戻れば10分ほどの距離なので、クルマがなくてもSL列車の撮影が可能だ。足場もよく、初心者でも撮影が楽しめよう。近くには球磨川下りの舟乗り場もあり、観光にもいい。

渡を発車すれば、球磨川とは別れ、山々に囲まれた盆地を行く。春には桜が咲乱れる花見の名所を通過、最後の力走を見せ、古めかしい機関庫が左に見えてくると終点・人吉だ。

SL人吉運転開始にあわせて改装された人吉駅の改札口

SL人吉運転開始にあわせて改装された人吉駅の改札口

人吉駅は、SL復活に合わせて改装し、改札口にはのれんが掛けられるなど、SL列車の客車と同じムードの水戸岡ワールドが展開する。SL列車の乗客を引き受ける街中観光のボンネットバス、接続するくま川鉄道に乗り換えて湯前方面への列車の旅も面白そうだ。
人吉駅の裏にあるターンテーブルで方向転換するハチロク

人吉駅の裏にあるターンテーブルで方向転換するハチロク

SLにとことんこだわりたい人は、駅裏手にある機関区へ行ってみよう。くま川鉄道のホームを越えて裏口に向かい、線路沿いにしばらく歩いて行けばたどり着ける。午後2時前には、ターンテーブルに載って方向転換するハチロクの姿を間近に眺められる。係りの人の好意で事務室2階に入れてもらえれば、一回転するハチロクを俯瞰できるだろう。誘導する係りの人は親切で、駅の人もみんなSL列車に乗って訪れる観光客に好意的だ。人吉の名の通り「人よし」。いい人ばかりだった。

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