損害保険/火災保険の基礎を学ぼう

失火責任法とは? 失火法における重過失や損害賠償責任は?

失火責任法(失火法)は、あなたが火元になって隣家に類焼したときに関係する法律です。損害賠償責任は重過失の有無で大きく変わってきます。火事の際の失火責任法(失火法)、そして重過失と損害賠償責任について解説します。

平野 敦之

執筆者:平野 敦之

損害保険ガイド

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他人の家から類焼して自宅が燃えた(あるいは逆に相手の家を燃やした)場合に関係する法律が「失火責任法(失火法)」です。 失火責任法(失火法)とは何か、また重過失の有無と損害賠償責任を解説します。まずは失火責任法(失火法)に関連する法律関係について確認しましょう。
 
失火責任法 失火法

タバコの消し忘れはくれぐれもしないようにしたい

 

火災は通常の損害賠償事故と扱いが異なる

近年、自然災害の多発が目につきますが、火災も非常に怖い災害の一つです。令和元年(1月から6月)の出火件数は2万2,065件です。1日当たり122件(12分に1件)の火災が発生していることになります(総務省消防庁「令和元年(1~6月)における火災の概要(概数)」より)。 同統計によると、出火原因は多い順に次のとおりです。

1位 たばこ
2位 たき火
3位 放火
4位 こんろ
5位 火入れ

放火は防ぎようがないと思われる人もいるでしょうが、それでも自分でできることはたくさんあります。総務省消防庁の放火火災防止対策に関するチェックシートなども利用してみてください。

タバコについては、うちの家族は吸わないからという人もいるでしょうが、自分が火を出さなくても隣の家(あるいは部屋)から燃えうつることもあります。それなら相手に損害賠償してもらえばいいと考えるでしょうが、火災の場合は通常の損害賠償事故と少々事情が異なります。
 

損害賠償責任は「民法709条」で定められている

「故意または過失によって他人の権利を侵害したる者はこれによって生じたる損害を賠償する責めに任ず」(民法709条)

簡単に言えば、自分の落ち度などで第三者(他人)に迷惑を掛けたのなら相手に損害賠償しなさいということです。社会的・道義的な責任があるのはもちろん、法律上も損害賠償責任があると明確に定められています。

加害者に責任があるのは当然です。しかし失火により周囲に類焼したとなると、実は別の法律が関係します。
 

失火の責任に関する法律「失火責任法(失火法)」とは

「民法第709条 の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず」 (失火責任法)

失火の責任に関する法律(失火責任法、失火法)は、民法709条で規定されている原則とは別に失火(火事)の場合、この原則を適用しないとしています(重過失の場合を除く。詳しくは後述)。

これは明治32年に制定された古い法律で、現在でも適用されています。日本は昔から木造家屋が密集しており、火災が発生すると類焼しやすい住環境にありました。自宅を失った上に延焼させた人に損害賠償責任を負わせるのは個人の賠償能力をはるかに超える、といった様々な背景があるようです。

この法律が現在の日本の建築物の構造や環境、考え方にマッチしているものかはともかく、現状こうした法律があることは覚えておいてください。
 

重大なる過失(重過失)とは

気になるのが「重大なる過失(重過失)」の定義です。簡単に解説すると次のようなことです。
ストーブをつけたままその場を離れないように

ストーブをつけたままその場を離れないように

「通常、人にあれこれ言われるまでの注意をしなくても、わずかな注意をしていれば簡単にこうした結果になることが分かるのに、漠然とこれを見過ごしたような注意を欠いた状態」

例えばある状態を放置しておいたら、誰が見ても危ないのにそれをほうっておいた結果、火災が起きて周りに類焼したようなケースです。
 

重過失の主な例

過去の判例で重過失に認定された事案について、具体例を確認してみましょう。

●天ぷら油
天ぷら油を入れた鍋をガスコンロで加熱したまま、長時間その場を離れた間に引火

●暖房器具
・電気ストーブをつけて布団で横になったところ眠ってしまい、布団に火が燃え移って引火
・石油ストーブのそばに蓋の無い容器に入ったガソリンを置いた

●寝タバコ
寝タバコで引火、火災が発生

これらはあくまで判例に合った事例の一つですから、個々の事案によって法律上の判断が異なる点は承知しておいてください(事案ごとに細かい事故状況などが異なるためです)。

民法709条における一般的な損害賠償責任と失火責任法の基本的なところが分かっていないと、失火の際、加害者になっても被害者になってもストレスの元になりかねません。法律上の損害賠償の責任関係を理解しておくと安心です。
 

損害賠償責任があるなら火災保険で対処できる?

重過失の場合を除いては損害賠償責任はありませんが、逆に認められれば責任は発生します。

その際の損害賠償額は個人の経済力を遙かに超えます。そのときに対応できるのは保険です。なお火災保険は自分の所有する「物」に付帯する保険です。他人に損害賠償する保険ではありません。

具体的な主な補償をみていきます。

■個人賠償責任保険(特約)
一般的に個人が他人に損害賠償責任を負った場合に対処する保険(特約)です。火災保険、自動車保険、傷害保険などに特約で付帯します。自転車事故などで相手を怪我させてしまった場合もこの特約で対応します。通常はこの補償をきちんとした金額で契約しておけば大丈夫です。

■借家人賠償責任保険(特約)
賃貸物件住まいの人が、失火して大家に借りている部屋の損害賠償を求められた際の保険(特約)です。賃貸物件に入居した際に火災保険に加入させられていれば大抵この特約は付帯しています。

■施設賠償責任保険
一般的には個人賠償責任保険で対応するものですが、事業用の建物などの場合、個人賠償責任保険は事業にかかる損害賠償は対象外なので施設賠償責任保険(もしくは同種の保険)で対応します。また個人の場合でも賃貸物件の所有者の場合、この施設賠償責任保険やこれに類する賠償責任保険があるので間違わないようにしてください。

■類焼損害補償特約
火災保険に付帯する特約ですが、ここまでの3つの保険と違って他人に損害賠償する保険ではありません。失火で周囲の住宅が類焼した際、近所の人が契約している火災保険の補償が十分でないときなどで補償します。

この保険は類焼先の火災保険の支払が優先します。しかし補償額が不足しているならこの特約でそれを補うというものです。賠償ではなくご近所への配慮という方がイメージが近いでしょう。

個人賠償責任保険は、コスパの良い保険です。重複させる必要はありませんが、一つは加入を検討しておきましょう。

※上記の賠償責任が発生した場合、保険ではどのように対応するかについてさらに詳しく「自分が火元で類焼…賠償責任はないの?」で整理しています。

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