世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

フィレンツェ歴史地区/イタリア(2ページ目)

「屋根のない博物館」の異名をとるフィレンツェは、愛を礼賛し美を庇護したルネサンスの中心地。今回はイタリアの世界遺産「フィレンツェ歴史地区」の美しい街並みと、ヨーロッパに愛と美を再生したその歴史を解説する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

人間の再生=ルネサンス

ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」

ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」1485年頃、ウフィツィ美術館

ボッティチェリ「春」

ボッティチェリ「春」1477~1478年頃、ウフィツィ美術館

上の写真はウフィツィ美術館に収蔵されているボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」だ。絵が、あるいは描かれた女性が美しいのはもちろん、春の息吹きや色彩の楽しみ、海や風への讃歌、恋の幸福感……人間のあらゆる喜びが込められている。

この世のすばらしさを描ききろうとするボッティチェリの感覚・感情が溢れ出ているようだ。

 

サン・ミニアート・アル・モンテ教会

フィレンツェのロマネスク建築の代表サン・ミニアート・アル・モンテ教会

ヴィーナスは古代ローマの神様でギリシアのアフロディーテと同一視される愛と美の女神。中世キリスト教的な立場から見たら極めて異端的なテーマであり、ありえない絵画だった。

ルネサンスの人々はギリシアやローマの自由を愛し、教会や天国のためではなく、自分の感覚や感情にしたがってこの世のすばらしさを表現したり、この世の謎を解明するために、その自由を使うことを愛した。あの世ではなく、この世で生きる者としての「人間」の「再生」。これこそがルネサンスのテーマだった。

 

時代を拓いたフィレンツェの詩人たち

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。左から洗礼堂、ドゥオーモのファサード(正面)、奥にクーポラ、そして右が鐘楼

人間の再生といっても、ある日突然再生がはじまったわけではない。10世紀頃からイタリア諸都市とアジアや北アフリカとのレヴァント貿易(東方貿易)が盛んになると、アラブや東ローマの文化が盛んに入ってくるようになった。イスラム圏では古代ギリシアの研究が盛んに行われていたし、科学や哲学は世界最先端にあった。

古代ギリシアやローマの科学や芸術を逆輸入してみると、イタリアにはたくさんのすぐれた遺跡があることに気づく。こうして古典や遺跡をはじめ、ギリシア~ローマ時代の遺物の研究が進んでいく。

ダンテの家

ダンテ生誕の地に建つダンテの家

そこに登場するのがフィレンツェ出身の詩人ダンテだ。主著『神曲』には古代ギリシア、ローマはもちろんキリスト教の天使や悪魔たちから歴史上の人物まで多数登場し、この世とあの世のすべてをキリスト教で貫いて物語る。

キリスト教中心の時代、たくさん存在する天使的なものとか悪魔的なもの、あるいは科学や哲学は一神教にとっては神を否定する邪魔な存在。それらをキリスト教でまとめる必要があった。『神曲』がその例だし、ネオプラトニズムのような思想がその役割を担った。

 
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