世界遺産/世界遺産関連情報

世界遺産を救え! 危機遺産リスト2007

2007年7月時点で、危機遺産リストはいままさに消滅・崩壊の危機にある世界遺産として30の物件を登録している。今回はこのすべての世界遺産とその登録理由を一挙公開する。2006年の記事の最新改訂版!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

岩のドーム
イスラム教の聖地・岩のドーム。すぐ下にユダヤ教の聖地・嘆きの壁、近くにはキリストが死の直前に十字架を背負って歩いたヴィア・ドロローサがある。
2007年7月時点で「危機にさらされている世界遺産リスト」、すなわち危機遺産リストには30の世界遺産が登録されている。ここではそのすべての危機遺産とその登録理由を紹介する。いったいどうして世界遺産が消滅するような事態が起こるのか? それに対してどう解決しようとしているのか? 世界遺産が置かれている状況と世界遺産条約の精神を感じてほしい。なお、本記事は2006年の記事の改訂版です。

※リストの見方
■国名
世界遺産名
世界遺産への登録年、登録基準、危機遺産リストへの登録年
(登録基準についてはいまさら聞けない世界遺産の基礎知識へ)

ヨーロッパの危機遺産

■ドイツ
ドレスデン・エルベ渓谷
2004年、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)、2006年
文化的景観の喪失。エルベ川への橋の建築計画に対し、橋が景観に深刻なダメージを与えて普遍的価値を損なうとして、危機遺産リストに登録。計画が実行された場合は、2007年の世界遺産委員会において世界遺産リストから抹消することも示唆していた。07年にはふたたび警告を受けた。

■セルビア共和国
コソボの中世遺跡群
2004年、文化遺産(ii)(iv)、2006年
不安定な政治状況と管理・保護体制の不備。現在コソボはセルビア共和国内にあるものの、国連の暫定統治機構が展開して実質的に独立した状況にある。独立の気運は高いもののセルビアは独立を容認しておらず、予断を許さない。

北中南米の危機遺産

■ペルー
チャンチャン遺跡地帯
1986年、文化遺産(i)(iii)、1986年
風雨による浸食。日干しレンガや土壁は風雨の影響を受けやすい。エルニーニョ現象などによる降水量の増加によって壁が溶け出すなど、遺跡に深刻なダメージを与えている。地球規模で起こる温暖化の影響はいかんともしがたいが、水路など排水設備の整備や修復活動の拡充が図られている。

■チリ
ハンバーストーンとサンタ・ラウラ硝石工場群
2005年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2005年
地震の影響や建築素材の盗難・破壊行為、塩害による腐食や構造上の脆弱性。

■ベネズエラ
コロとその港
1993年、文化遺産(iv)(v)、2005年
2004年11月~2005年2月にかけての豪雨による遺産破壊と、新しい建築物の建設による景観や価値の破壊、適切な管理・保護の計画・体制の不備。

■エクアドル
ガラパゴス諸島
1978、2001年、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)、2007年
外来種、観光客、移民の急増で2007年に危機遺産リスト記載が決定。観光制限がかなり進んでいる世界遺産ではあるが、観光客の滞在日数が増え、それを受け入れる移民の数も増えたことが、外来種増加の原因になっていると指摘している。

アジアの危機遺産

■エルサレム(ヨルダンによる申請)
エルサレム旧市街とその城壁
1981年、文化遺産(ii)(iii)(vi)、1982年
無秩序な都市化や急激な観光開発、複雑な政治状況。貴重な宗教的・文化的建築物を守るための様々な活動が継続して行われている。

■インド
マナス野生生物保護区
1985年、自然遺産(vii)(ix)(x)、1992年
保護区への民族軍の侵入・駐留・施設破壊や密猟。現在反政府勢力の活動は沈静化しつつあり、絶滅の危機に瀕しているインドサイやベンガルトラ、インドゾウの数は回復の傾向にある。

■イエメン
古都ザビード
1993年、文化遺産(ii)(iv)(vi)、2000年
都市化、ビルの増加、違法建築。多数の住人が旧市街からビルへ移動するなど、古都の保全環境が破壊され、景観が失われつつある。

シャーリマール庭園
タージ・マハルを建築したシャー・ジャハーンが建てた保養施設シャーリマール庭園。
■パキスタン
ラホールの城塞とシャーリマール庭園
1981年、文化遺産(i)(ii)(iii)、2000年
遺跡の破壊。1999年、道路拡張により庭園の貯水池の一部が取り壊された。しかし現在保護体制は急速に整備されつつあり、危機遺産リストからの削除も示唆されている。

■フィリピン
フィリピン・コルディリエラの棚田群
1995年、文化遺産(iii)(iv)(v)、2001年
管理体制の不備、棚田の崩壊・景観破壊。村民の村離れが深刻化し、約3割の棚田が放棄されているという。田の放棄は水利システムの停止と棚田の崩壊をもたらし、連鎖的に別の田へ被害を拡大する。一方で不法開発が行われるなど、包括的な管理体制の充実が待たれている。

■アフガニスタン
ジャムのミナレットと考古遺跡群
2002年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2002年
損傷や盗掘、周辺への道路建設、保護体制の不備など。現地民の通路確保や保護体制の整備が求められている。

■アフガニスタン
バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群
2003年、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)、2003年
仏像の崩壊や壁画の状態悪化、略奪や盗掘など。2001年3月、タリバンにより2体の仏像が破壊された事件は世界的なニュースになった。

■アゼルバイジャン
城壁都市バクー、シルヴァンシャー宮殿、及び乙女の塔
2000年、文化遺産(iv)、2003年
2000年11月の地震による破壊、都市開発、保護政策の欠如。遺跡保護はもちろん、都市開発や観光に対する管理も求められている。

■イラク
アッシュール(カラット・シェルカット)
2003年、文化遺産(iii)(iv)、2003年
チグリス川における大規模なダム開発計画による水没の危機、適切な保護の欠如。ダム計画が明らかになったことから、世界遺産登録と同時に危機遺産リストに掲載された。

バム
地震で破壊される前のバム。現在も修復中だが、壊滅的な被害を受けたため、一向に進展していないという。
■イラン
バムとその文化的景観
2004、2007年、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)、2004年
地震による倒壊。街の一部は100%崩壊したという2003年12月のイラン南東部地震の影響で、遺跡は壊滅的な状態にある。風雨などの影響を受けて崩壊は日々進行中で、早急な回復が必要であることから、世界遺産に緊急登録された。

■イラク
都市遺跡サーマッラー
2007年、文化遺産(ii)(iii)(iv)、2007年
2003年のイラク戦争の影響で十分な保護活動ができていないため、世界遺産登録と同時に危機遺産リスト記載が決定。連合軍の駐留がテロ活動を呼び寄せて遺跡が破壊されたり、遺跡内で農作が行われるなど、管理体制の不徹底が指摘されている。

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