依存症

日本国内でも広がる危険ドラッグ…フェンタニル系危険ドラッグとオピオイド危機

【麻薬研究者が解説】アメリカで1年で11万人以上もの死亡者を出している、フェンタニル及び関連する危険ドラッグの過剰摂取。日本国内も無関係ではありません。日本に流入している危険ドラッグの現状と傾向をご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

日本に流入するフェンタニル系危険ドラッグ

日本に流入するフェンタニル系危険ドラッグ


2012~2014年ごろ、危険ドラッグの使用による様々な事件が起こり、問題になったことがあります。当時は「脱法ハーブ」とも呼ばれていた危険ドラッグ製品を吸入した人が、自死したり、車を暴走させて死傷者を出したり、人に襲いかかったりした事件があったことを、多くの方が記憶されていると思います。その後、取締りが強化されたことで、2015年7月には厚生労働省が「国内の危険ドラッグ販売店舗がゼロになった」と発表し、危険ドラッグ問題は一時的なブームで終わったかのように誤解している方も少なくないかもしれません。

しかし、危険ドラッグ製品は、今も日本国内で出回っています。見えやすいところにあったものが、見えないところに隠れてしまっただけで、むしろ危険性が増しています。わかりやすく解説します。
 

危険ドラッグとは……法規制を受けずに出回る、危険な新種薬物

「危険ドラッグ」とは、「危険性があるにもかかわらず、法規制を受けないで市場に出回る新種の薬物」を指します。その対策として、日本では2007年4月に薬事法が改正され、「指定薬物制度」が導入されました。具体的には、定期的に行政による押収や買い取り調査を行い、市場に出回っている製品から、それまで規制対象になっていなかった成分が見つかった場合、必要に応じて動物や細胞を用いた薬理試験を行うことになりました。試験によって、中枢神経作用とその有害性が認められた場合には、その化合物は速やかに「指定薬物」として公表され、製造・販売などが禁止されるようになりました。

ニュースなどで詳しい報道がなければ、日本国内でどんな危険ドラッグが流通しているかを知ることは難しいと思われるかもしれません。しかし、実はある方法を使えば、いつでも自分で調べることができます。それは「指定薬物」の動向を知ることです。

私は、麻薬研究者の免許を保有し、麻薬等に関する研究も行う専門家として、厚生労働省のホームページを定期的にチェックし、新たに指定薬物を指定する省令が公布されるたびに、情報を確認しています。今回はそのデータに基づいて、近年の危険ドラッグに見られる傾向を探ってみましょう。
 

危険ドラッグの傾向から見える「フェンタニル」の急激な増加

指定薬物制度ができた2007年から2015年5月までに、指定薬物として個別指定された薬物(包括指定を除く)は261個にのぼりました。1年あたりおよそ30個の指定薬物が加わったことになります。

一方、その後の2015年7月~2023年6月現在までの8年間で新たに指定薬物とされた新規化合物は168個にのぼりました。1年あたりおよそ21個のペースですから、さほど減ったとは思えません。ほぼ恒常的に、未規制の化合物、つまり危険ドラッグが市場に供給し続けられている実態がうかがえます。

成分を化学構造や薬理作用によって分類してみると、以前と変わらず、大麻に近い合成カンナビノイド(32%)と、覚醒剤に近いフェネチルアミン系やカチノン系の化合物(26%)が主流であることが分かります。これらで全体の6割近くを占めています。

ただし、明らかに以前とは異なり、最近の傾向として特筆すべきことは、いわゆるオピオイド系の化合物が増えている点が挙げられます。とくにフェンタニルという強力な麻薬の誘導体が多くなっています。

2007年~2015年5月の間に指定薬物となったフェンタニル誘導体はわずか1個(アセチルフェンタニルのみ)でしたが、2015年11月に、4-FBF(4-フルオロブチルフェンタニル)という新規のフェンタニル誘導体の市場流通が確認されてからわずか7年半で合計20個が見つかりました。

それらのフェンタニル誘導体の化学構造を見比べてみると、一見しただけではどこが違うのかわからないくらい似ています。しかし、一部でも違えば「別物質」とみなされるため、供給元は、法規制をかいくぐるために、意図的に少しずつ化学構造の異なる薬物を合成しては、ばらまいているとしか思えません。

また、20個のフェンタニル誘導体のうち、ほとんどが指定薬物とされてから1年以内に「麻薬」に格上げ指定されています。フェンタニル誘導体がそれだけ危険性が高いとみなされているということでしょう。
 

合成麻薬「フェンタニル」の危険性……11万人を超えるアメリカでの死亡者数

合成麻薬のフェンタニルは、昔から使われてきた麻薬性鎮痛薬のモルヒネより副作用が少なく強い鎮痛作用が得られる薬として、1960年にベルギーのヤンセン社で初めて合成され、開発・実用化されたものです。日本でも貼付剤を中心に用いられ、末期がん患者の緩和医療には欠かせない正統な医薬品です。ただし、不適切な連用により身体的依存を形成しやすいため、近年急激に不正な使用数が増えて、アメリカをはじめとして世界中で問題となっています。

薬物乱用というと、恵まれない貧しい国や地域ではびこるものと思われがちですが、フェンタニルの乱用は、北アメリカや東ヨーロッパの白人層を中心に広がってきました。つい最近(2023年7月)、俳優のロバート・デ・ニーロさんの孫であるレアンドロ・デ・ニーロ・ロドリゲスさんが19歳という若さで亡くなった死因も、フェンタニルの過剰摂取であることが報じられました。それ以前にも、2016年4月には、歌手のプリンスさんが急死し、同じく死亡当時の体内から異常に高濃度のフェンタニルが検出されており、フェンタニルの過剰摂取が死因と考えられています。2017年10月に急死したロック・ミュージシャンのトム・ペティさんも、同じフェンタニルの過剰摂取が死因とされています。
 
アメリカにおけるフェンタニル及び関連する危険ドラッグの過剰摂取による死亡者は、2020年の1年間で5万人、2021年に7万人、2022年には11万人を超えたと伝えられています。10万人規模の都市に住んでいる人が1年で全員消え去ってしまうほど、命を落としているのです。信じられないかもしれませんが、これは現実なのです。
 

日本国内でも注意が必要な「オピオイド危機」

日本ではまだ、アメリカのような「フェンタニルを中心としたオピオイド危機」が訪れていませんが、上述したようにすでに数多くのフェンタニル誘導体が知らぬ間に出回っています。中国から入手した原薬をもとに、危険ドラッグを製造する個人や業者が日本国内にもいるという情報もあります。ほとんどの危険ドラッグ製品には製造元が記されていませんし、販売業者はインターネットやSNSを利用し、ホームページの開設と削除を繰り返すことで雲隠れしてしまうため、製造や販売ルートの実体がわかっていません。

徐々に忍び寄る影に注意を払い、適切な対応をとっておかないと、アメリカの二の舞になる可能性があるということを私たちは知っておく必要があります。
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