認知症

BPSDとは…認知症による精神症状・行動異常の原因と対処法

【認知症研究者が解説】BPSDは認知症の周辺症状で、幻覚・妄想・不安・抑うつなどの精神症状や、徘徊・暴言・暴力・異食などの行動異常が見られます。記憶障害や見当識障害と違い個人差が大きいですが、家族や介護現場にとっては切実な問題です。BPSDの具体的な症状例と原因、身近な人ができることをわかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

BPSDとは……家族や介護現場の切実な問題となる認知症の行動・心理症状

認知症の周辺症状であるBPSDとは

認知症の周辺症状であるBPSDでは、不安や抑うつ、暴言や多弁などのさまざまな精神・行動の症状が見られます

認知症では、記憶障害や見当識障害などの「中核症状」の他に、さまざまな精神や行動の異常が現れることがあります。そのような症状を一般に「周辺症状」といいます。専門用語では「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動・心理症状)」というもので、略して「BPSD」とも呼ばれます。

BPSDには、個人差があり、すべての認知症患者に共通して見られるわけではありません。ですから、認知症と診断する上で必要な所見ではありませんが、実際のご家庭や介護現場では、中核症状よりもBPSDの方が切実な問題となることが多いようです。
 

認知症のBPSDの主な症状

BPSDに含まれる具体的な症状として、以下のようなものが挙げられます。

■精神症状
  • 幻覚…実際には存在しないものが見えたり、聞こえたりする
  • 妄想…実際には起きていないことを考え、思い込んでしまう
  • 不眠…夜に眠れなくなり、日中うとうとする
  • うつ…理由もなく気分がふざぎこんでしまう
  • 不安…心配に感じて、気持ちが落ち着かない
■意識障害
・せん妄…軽く混濁した意識障害により、場所や時間を認識する見当識や覚醒レベルに異常が生じ、突発的に精神不安定になる

■行動異常
  • 徘徊…家の中や外をうろうろと歩き回り、迷子になって行方不明になることもある
  • 失禁…小便または大便を自分の意思によらず排泄してしまう
  • 暴言・暴力…大声で怒鳴ったり、抵抗して暴れる
  • 過食…食べることを止められない
  • 異食…食べ物でないものを口に入れる
  • 多動・多弁…場面や状況に応じて集中することが難しく、絶えず動き回る。相手の話を聞かず、必要以上に話し続ける
BPSDへの対処法は、ケースバイケースで、マニュアル化されたような確実なものはありません。しかし、なぜ起きるのかを理解しておくと、周囲の方が余計な心配や苦労をしなくて済みますし、それがご本人への接し方にも反映され、結果的にご本人が精神的な落ち着きを取り戻すのにも役立つと思われます。

そこで今回は、上記に挙げたBPSD症状のうち、特によくみられる「不安」「抑うつ」「暴言・暴力」「多動・多弁」の原因について解説します。
 

認知症のBPSDで見られる「不安」の原因

一般に「不安」とは、心配に思ったり、恐怖を感じたりすることです。時には、恐怖とも期待ともつかない漠然とした気味の悪い感じがしたり、よくないことが起きるのではないかと予期する感覚なども含みます。

しかし、これは決して悪いことではありません。たとえば、暗い夜道を歩くときに「誰かに襲われたら…」と思い警戒しながら足を進める。結婚式の披露宴で挨拶を頼まれ「本番で失敗したらどうしよう…」と思って何度も何度も練習をする。車を運転していて道の脇に駐車車両を見つけたとき「陰から子供が飛び出してきたら…」と思い減速する。こうした行動は、防衛反応の一種であり、不安を感じることによって変化に備えるという意義があります。なので、適度な不安は、周囲の変化に対して正常に脳が応答している証拠であり、むしろ好ましいととらえていいでしょう。

しかし、自分でも何を恐れているのか対象物がはっきりしないとか、心配事がすべて解消されたのにもかかわらず、漠然とした不安がずっと続き、生活に大きな支障が生じるようであれば、それは「過度な不安」であり、病的状態をみなすべきでしょう。その状態がずっと続くと、心や体が耐えきれなくなり、神経症やうつ病へと発展することもあります。

認知症のBPSDとしての不安は、どちらかというと発症初期の方が顕著です。

「認知症は自分で気づくのが難しい」と言われることもありますが、たいていの場合そうではありません。認知症はある日突然発症するのではなく、長い年月をかけてゆっくりと進行することが多いですので、その経過の中で、「自分の脳に何か異変が起きているかもしれない」ことは、実は本人が一番最初に気づき、「不安」を抱くにちがいありません。ところが「認知症なんて恥ずかしい」「迷惑をかけたくない」と考えて隠そうとしたり、中には「年のせいだ」「がんばれば何とかなる」と自分に言い聞かせて不安を封じ込めようとする方もいます。そうした無理が、不安をさらに増幅させてしまうのです。
 

認知症のBPSDで見られる「抑うつ」の原因

高齢者のうつ病は認知症と間違われることがあります(詳しくは「認知症と誤解されやすい高齢者のうつ病…違い・見分け方は?」を参照してください)。誤った判断により適切な治療を受けられないだけでなく、うつ病を放置することで、実際に認知症になってしまうこともあります。

また逆に、認知症に伴って、うつ病のような状態になる方もいます。上述したように、初期段階で自分の異常を自覚したとき、ほぼ全員が大きな不安に襲われますが、そうした不安に対する反応は、その方がもともと持ち合わせた性格や育ってきた環境などで異なり、様々です。

過度の不安が、抑うつ状態に発展してしまう方は、どちらかというと真面目で周囲を気遣うタイプであることが多いようです。そのようなタイプの方は、自分の異変に薄々気づいたとしても、「迷惑をかけたくない」と考え、周囲に相談せず、無理をして一人で頑張ろうとする傾向にあります。それが、最終的には、抑うつ状態を生じてしまうのです。
 

認知症のBPSDで見られる「暴言・暴力」の原因

自分自身の異変に薄々気づきながらも、うまくいかないことを周囲のせいにして、不安を怒りで紛らわそうとする方もいます。そのようなタイプの方は、不安が「暴言・暴力」につながります。

認知症を発症していなくても、元々の性格として、自己中心的だったり、暴力的な方はいます。とくに脳梗塞や脳内出血の後遺症として起こる脳血管性認知症の場合は、その方が持ち合わせていた性格がより強く現れやすいと言われており、このために暴言・暴力が激しくなると考えられます。
 

認知症のBPSDで見られる「多動・多弁」の原因

私たちは、何か困ったことが起きたけれど一体どうしたらいいのか分からないというときに、とりあえず違うことをやってストレスを解消しようとすることがありますね。たとえば、全然違うことをやってみたり、運動をしてみたり、人とおしゃべりをしてみたり…。本当はそれで問題が解決するわけではないのですが、これは、自分を守るために私たちに備えた本能的な反応の一つと考えられます。

脳の老化または認知症により、本能的な衝動を抑える役割を果たす前頭前野が衰えてくると、ブレーキがかけられなくなります。元々体を動かすことやおしゃべりが好きだった方が認知症を発症した場合には、体を動かしたり、次々と言葉を発することで不安を解消しようとする傾向がより強くなり、それが多動(じっとしていない)や多弁(おしゃべりが止まらない)につながると考えらえます。
 

高齢者の服薬とBPSDの関係…「おくすり手帳」を活用し積極的に情報共有を

高齢になると、多くの方が何らかの基礎疾患を抱えていて、日常的にたくさんの薬を飲んでいます。実はこうした薬がBPSDの原因になっていることもあります。

とくに近年は、医薬の進歩によってたくさんの薬が利用できるようになった反面、一度にたくさんの薬剤を使い過ぎて、かえってそれが害をもたらしているケースが増えています。このような状態を「ポリファーマシー」と言います。「ポリ(poly)」は「複数」を意味し、「ファーマシー(pharmacy)」は「調剤(薬局)」を意味します。繰り返しますが、単に「飲む薬の数が多い」ということではありません。必要以上の薬が処方されていることによって、リスクが増加したり、薬の飲み間違いや飲み忘れなどの問題につながっている状態をさします。

たくさんの病気を抱えているだけでなく、複数の医療機関にかかったときに重複している薬剤に気づかないケースや、患者や家族の判断で病院でもらった薬以外に薬局で市販薬を購入して使っているケースなど様々です。

また、認知症を食い止めることのできる医学的方法はないのが現実です。そのため、認知症と診断した医師にできるのは、「対症的な薬物療法」だけです。アルツハイマー型認知症の記憶障害に用いることのできる薬はいくつかありますので、まずはそれらが処方されることでしょう。ただし、症状は軽減されたとしても病気の進行そのものが止まるわけではありません。その一方で、不安、抑うつ、幻覚・妄想などの精神症状、不眠、食欲不振などの身体的症状、徘徊、暴言・暴力、多動・多弁などの行動異常など、多様なBPSDを患者本人もしくはご家族などが訴えるたびに、医師が対症薬を追加処方することになれば、自ずと過剰処方になりがちです。ある薬を飲んだら副作用が現れたので、その副作用を軽減するために新たな薬を追加するということが繰り返されるという悪循環に陥り、とんでもない数の薬を一度に使うことになる方もいらっしゃいます。

患者さんの病気の種類や重症度に加え、生活環境などによっても、薬の使い方は変わりますので、正確に定義することはできませんが、薬の数が「6種類を超える」と有害事象の発生頻度が大きく増えるというデータがあります。「おくすり手帳」をしっかり活用しながら、ご本人が使用している薬について担当の医師や薬剤師に相談し、積極的な情報共有を行うことで、ポリファーマシーによるBPSDをできるだけ防ぐようにしましょう。
 

認知症患者さんの心の安定をもたらすために家族や介護者ができること

「病は気から」という考え方は非科学的だと思われるかもしれませんが、一概に間違いとも言えません。特に認知症は、精神疾患の一種であり、患者さんの心の状態によって、症状や進行が実際に大きく左右することが知られています。たとえば、患者とご家族と医療関係者の間にしっかりと信頼関係が築かれているケースと、お互いが責め合いいざこざが絶えないようなケースでは、病状の経過が大きく違ってきます。

認知症への対応は、単に「手術や薬で治す」といったものではありません。患者さんの心を安定させるために、周囲の関わり方がいかに大切かを理解してください。

BPSDのそれぞれに対する具体的な接し方のコツなどについては、改めて別記事で解説したいと思います。
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