2020年東京五輪に統合型リゾート(IR)の導入へと、観光立国に取り組む日本にとって参考になる点は多い。今回は現地を取材し、そのポイントを探ってみた。
香港からフェリーで小一時間の所に浮かぶ2つのエリアからなる中国の特別行政区、それがマカオである。マカオはかつてポルトガルの施政下にあったが、1999年、行政権が中国に返還され現在に至る。
人口は約64万人、総面積は約30.3平方キロメートルで世田谷区の半分ほど。そんな島がいま観光ビジネスの台風の目となっている。
「マカオ観光局」によれば、2014年における「マカオ総訪問者数」は3,152万5,000人で前年比7.5%増。一日平均で約8万6,000人が訪れている計算だ。
日本では2013年に初めて訪問者数が1,000万人を超えたばかりで、東京五輪の行われる2020年に2,000万人を目指すとしているが、それを達成した場合、一日の訪問者数は55,000人。マカオの8万6,000人はそれをも上回っている。国の面積を考慮すればそれがいかに多いかがわかる。
さらに注目すべき点がある。それは「滞在日数」の変化だ。
マカオはかつて香港から日帰りで行く島だった。たとえば日本人に絞って見ると、2000年にマカオを訪れた人のうち、宿泊者は33.3%、日帰りが66.7%だったが、2007年を境にその比率が逆転し、2014年は日帰りが39.6%に減る一方、60.4%が平均2日以上宿泊するという大きな変化が起きたのだ。
その契機となったのが大規模な外資系IRの導入である。それを起爆剤としてマカオはデスティネーションリゾートとして成長を続け、現在ではIRの本家ラスベガスをはるかに上回る規模のIR先進国となっている。
そんなIRをはじめ、マカオには観光の目玉が様々ある。貿易の要衝だったことから生まれた独特のマカオ料理、美しい世界遺産の街並み、そして古きよき時代をそのまま残す下町などだ。それらの現場を歩くと、観光立国においてマカオが大切にしている「理念」が浮かび上がってくる。
1.「日常を忘れさせる」
一つめが日常を忘れさせること。これは夢を見させると言い換えてもいいだろう。この島にいる間は一時(いっとき)の夢を見させる。その意識が最も感じられるのはIRのホテルである。マカオのホテル客室数は28,892室(2014年末時点)。その65%以上が最高級の5つ星であり、サービスの質はトップレベルだが、とりわけIRのホテルには一つの特徴がある。
訪問客が気恥ずかしくなるほど華やかなのだ。
そのわけは訪問者のテンションを高め、滞在中は思う存分「弾けさせる」効果を与えるためだ。
それはどこかディズニーランドに似ている。いちど正面の門をくぐれば冷静になる暇などなく、ちょっと背伸びしなければ追いつかないほどのテンションで迎え入れられる。マカオのホテルもその精神。きらびやかなものから奇妙な形のものまで様々あるが、それらすべてが、訪問者を日常に返らせないための工夫である。