世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

カタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院/スペイン(3ページ目)

一見派手で奇抜に見えるスペイン版アールヌーボー=モデルニスモ。しかし「芸術は人を癒す」という信念のもとに築かれたドメネク・イ・モンタネールの作品群はやさしさと喜びにあふれ、使用する人々の心に寄り添う工夫に満ちている。今回はガウディと並ぶカタルーニャの誇り、スペインの世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

癒しの空間、サン・パウ病院

サン・パウ病院の内装

アートセラピーのさきがけといわれるサン・パウ病院管理棟の内装。やさしい色彩・曲線は患者への気遣いにあふれている

サン・パウ病院の手術棟

サン・パウ病院の中央を占める手術棟

19世紀末に6つの病院を統合した新たな総合病院の建設計画が立ち上がり、その設計者としてモンタネールが抜擢された。病院は1901年に着工し、1913年には息子のペラが工事に参加。1923年にモンタネールは亡くなるが、ペラがその跡を継ぎ、1930年に完成させた。

世界遺産に登録されたのは病院が営業を続けている1997年のこと。2009年に閉鎖されるまで、病院として実際に稼働しているとても珍しい物件だった。

癒しの空間を演出するために植物の湾曲をモチーフとした柔らかい曲線で構成し、アラベスクの植物文様や花を描いたモザイク・ステンドグラス・装飾タイルを用いて自然に近いやすらぎの空間を創出した。

 

サン・パウ病院の地下をつなぐ回廊

サン・パウ病院の地下をつなぐ回廊

患者の心を浮き立たせるために黄やピンクといった暖色が中心で、窓を大きくとって光をふんだんに取り込み、所々にステンドグラスをはめ込んで心浮き立つような装飾を散りばめた。窓の外にはオレンジやライムなどのフルーツ、あるいはラベンダーやローズマリーなどのハーブを植えて、モデルニスモの建物と見事に調和させている。

病院といっても48棟もの建物を有するちょっとした街で、医者や患者の移動を楽にするため地下通路でつながっている。内部には礼拝堂があって、これも患者の心を支えていた。

なお、サン・パウ病院の見学はガイドによるツアーと自由見学(Self-guided tour)の二種類。ただし、見学できる範囲は限られていて、48棟すべてを見ることができるわけではない。この辺りの事情はよく変わるので公式サイトなどで確認してほしい。

 

バルセロナにあるモンタネールの作品群

カタルーニャ音楽堂の壁や天井・柱

カタルーニャ音楽堂の壁や天井・柱はステンドグラス・装飾タイル・モザイク・スタッコ・絵画などで彩られている

世界遺産名「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院」にあるとおり、世界遺産に登録されているのはこの2作品だ。しかし、バルセロナにはそれ以外にもモンタネールの作品がある。簡単に紹介しておこう。

■カサ・レオ・モレラ
カサ・レオ・モレラ

カサ・レオ・モレラ

レオ・モレラ氏の邸宅で、屋上にはイスラム建築に見られる塔がそびえている。色彩も装飾もシンプルながら優美。1階にはロエベが入っている。

■アントニ・タピエス美術館
出版社を改装した美術館。レンガ造りと鉄筋を組み合わせた造りで、レンガとガラスが調和したファサードが見事。タピエスは現代美術の巨匠で、氏の作品を収めている。

■カサ・ロウラ
元ロウラ邸で、現在はレストラン・カサ・ロウラとして営業している。モデルニスモらしいステンドグラスやモザイクで覆われており、この中で料理をいただくことができる。

 

■動物学博物館
シウダデリャ公園にある博物館で、さまざまな動物の剥製を収蔵している。1888年の万博ではレストランとして使われていた。別名、トレス・ドラゴン(三竜の城)。

カサ・レオ・モレラのあるグラシエ通り沿いにはプッチのカサ・アマトリエ、ガウディのカサ・バトリョがあり、「不調和の一角」と呼ばれている。モンタネール、プッチ、ガウディはモデルニスモの三大巨匠。ぜひ見比べてみてほしい。
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