ハーバード大学らのチームはNMN(ニコチン酸モノヌクレオチド)という物質を生後2歳マウス(ヒト換算では60歳)の細胞に注入したところ、生後6ヶ月(ヒト換算では20歳)の時点まで若返らせることに成功しました。いったいこのNMNとはどういう物質なのでしょうか?
また、今回慶応大学のチームが解明に成功した糖尿病性腎症の新しい発症メカニズムは、若返りの可能性を秘めたNMNの理解をする手助けになるかもしれません。
マウスの若返り実験
マウス(実験用ネズミ)の実験で、2013年にアメリカ・ハーバード大学とオーストラリア・サウスウェールズ大学の共同研究チームが、NMNを生後2歳マウス(ヒト換算では60歳)の細胞に注入したところ、生後6ヶ月(ヒト換算では20歳)の時点まで若返らせることに成功しました。NMNとは
NMN(ニコチン酸モノヌクレオチド)とは、すべての生物の細胞の中にあって、食べた栄養をエネルギーに変える役目をしている物質を作り出す材料の一つです(ややこしいですが……)。細胞の中でどういう風にエネルギーが生産されているかについては、1970年頃までにはかなり解明されており、NMNもエネルギー生産での役目については、調査と研究が進められていました。NMNは、下の図に示すように人がバーベルを持ち上げているようなおもしろい構造をしています。
最近になり、このNMNが老化と関係の深いサーチュイン遺伝子を活性化できるかもしれない、若返りを可能にするかもしれないと科学者たちが騒いでいるのです。
慶応大学のチームが解明に成功した糖尿病性腎症の新しい発症メカニズム
糖尿病は日本における最大の生活習慣病で、国内の患者数は約 1,000 万人と推定されています。そのうち95%以上の患者は、食事や運動などの生活習慣が関係していることが多い2型糖尿病です。糖尿病になると血液中の糖の濃度が高くなりますが、血液中の高い糖濃度は血管へダメージを与えます。腎臓は血液中の老廃物を濾しとる役目をしています。老廃物を濾しとるために膨大な毛細血管が糸くず状に絡み合った構造となっており、尿細管という袋状の筒で囲われています。濾しとった液体は尿(おしっこ)として尿細管を通って膀胱(ぼうこう)にたまるしくみです。
糖尿病になると、濾しとり役の糸くず状の毛細血管へダメージが出て、濾しとる必要のないタンパクなどが出てしまいます。
慶応大学のチームが、このような毛細血管へのダメージが起こるしくみを詳細に調査した結果、毛細血管を包み込んでいる尿細管から、NMN(ニコチン酸モノヌクレオチド)が放出され、その結果毛細血管の老化が抑えられていることが分かりました。糖尿病の患者では、尿細管からのNMNの放出が低下して毛細血管が老化し機能が落ちるのです。
以上のように、腎臓の毛細血管の調査と研究で、NMNが毛細血管の老化を抑制していることが証明され、今後はNMN を補充するなどの新しい治療方法を検討するとのことです。
NMNの生体内への取り込みや、そのほかの効果や副作用に関しては不明な点も多く、現在精力的に研究が進められています。
ちなみに、NMNは日清製粉グループのオリエンタル酵母工業で精製製造される体制が作られつつあります(もちろん、まだ研究用途のみ)。近い将来「夢の若返り薬」が生まれるかもしれませんね。
■参考資料
- Anti-ageing compound set for human trials after turning clock back for mice / theguardian.com(http://www.theguardian.com/science/2013/dec/20/anti-ageing-human-trials)
- 慶應義塾大学プレスリリース(2013年10月21日)「糖尿病性腎症の新しい発症メカニズムの解明に成功」