世界遺産/ヨーロッパの世界遺産

ジェロニモス修道院とベレンの塔/ポルトガル

辺境の小国にすぎなかったポルトガルだが、エンリケ航海王子による大西洋開拓に成功し、ヴァスコ・ダ・ガマらの活躍によってブラジルから日本に至る海上帝国を成立させる。このふたりの偉業を称え、世界中からもたらされる富を背景に建立されたのがジェロニモス修道院とベレンの塔だ。今回はポルトガルの象徴である世界遺産「リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

海上帝国ポルトガルの象徴「リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔」

ジェロニモス修道院の南ファサード

白大理石がまぶしいジェロニモス修道院の南ファサード。エンリケ航海王子が航海士たちのためにこの地に礼拝堂を建てたことにはじまるという。入口上部には聖母マリアをはじめ聖人たちが、左右の扉の間にはエンリケ航海王子の像が置かれている

15世紀、ヨーロッパとオリエントが地中海貿易に沸き返っていた頃、辺境の国・ポルトガルは目を大西洋に転じ、伝説のインド航路や黄金の国の発見に漕ぎ出した。

大西洋がどこまで続いているのか、その向こうに何があるのか誰も知らなかったこの時代、命知らずの航海士たちの活躍によってついにアフリカ航路、インド航路、南アメリカ大陸を「発見」し、小国・ポルトガルはブラジルから日本に至る海上帝国を成立させる。

今回はポルトガル全盛期に築かれた世界遺産「リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔」を紹介する。

ジャングルを思わせるジェロニモス修道院の内観

ジェロニモス修道院、サンタ・マリア教会の身廊・翼廊

ジェロニモス修道院、サンタ・マリア教会の身廊・翼廊。林立する柱と、柱から伸びたクモの巣状のリヴが、森のように空を覆っている。ステンドグラスやバラ窓の光が木漏れ日のようだ

世界中で大聖堂や修道院を見てきたが、ジェロニモス修道院のファースト・インプレッションは強烈だ。森の中にいるような落ち着いた空気感、それでいて宇宙船を思わせる近未来的な雰囲気もある。

ジェロニモス修道院の展示室

ジェロニモス修道院の展示室。これを見て世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群」のコロニア・グエル教会を思い浮かべる人も少なくないだろう

身廊に入ってまず目につくのは柱と天井だ。細く高い柱が林のように連なっており、柱と天井は枝のように広がるリヴによって接続されている。これが木々の下にいるような錯覚を起こさせるのだろう。こうした木漏れ日のような演出はゴシック建築特有のものなのだが、フランスやイタリアのゴシック建築がトゲトゲしくて針葉樹林を思わせるのに対して、広がりは柔らかく熱帯雨林のよう。

それもそのはず、柱はヤシの木を象ってデザインされているらしい。たしかに柱と天井の接続部分はヤシかバナナのようだ。柱には細かな彫刻が施されており、これが幹の模様に見える。

このデザイン、スペインからポルトガルに入った人はどこか見覚えがあるのでは? 繊細な彫刻はアルハンブラ宮殿(世界遺産「グラナダのアルハンブラ、ヘネラリーフェ、アルバイシン地区」)で見たアラベスクのようだし、森のイメージや立ち並ぶ柱はサグラダファミリア(世界遺産「アントニオ・ガウディの作品群/スペイン」)の内観を思わせる。

 

世界各地の建築様式の集大成・マヌエル様式

ジェロニモス修道院の回廊

ジェロニモス修道院の回廊。四分割された庭や繊細な装飾はイスラムの四分庭園(チャハルバーグ)を彷彿させる。貝殻や綱など、装飾にはマヌエル様式特有のデザインが取り入れられている

マヌエル様式の傑作、ベレンの塔

マヌエル様式の傑作、ベレンの塔。堡塁部から塔を見上げる。塔の最上階(4階)は礼拝堂、3階は謁見の間として使われていた

スペインとポルトガルのあるイベリア半島はもともとローマ帝国の支配下にあった土地。ローマ時代にローマ式の建物とキリスト教が浸透した後、ウマイヤ朝(アラブ帝国)が8世紀にイベリア半島を支配するとイスラム教が拡散。その後キリスト教徒による国土回復運動・レコンキスタが巻き起こり、15世紀には完全にキリスト教徒の土地に回帰した。

こうした土地柄がキリスト教建築とイスラム教建築の融合を生む。たとえばアラベスク。イスラム教では人や動物の絵を描いたり彫刻を彫ることが禁じられていたので幾何学図形や植物・文字を装飾化したアラベスクが発達した。ジェロニモス修道院の精緻な紋様はこのアラベスクの影響を受けている。これがアルハンブラ宮殿との共通点だ。

 

サンタ・マリア教会の祭壇

サンタ・マリア教会の祭壇。周囲の絵にはイエスにまつわる物語が描かれている

ポルトガルは15世紀以降、他国に先駆けて大西洋探索に乗り出し、大航海時代の幕を開ける。そしてアラベスクの模様にロープや錨・天球儀などの船具や船、海藻・貝殻・サンゴなどの海産物、熱帯地方の植物等々を織り込んだ。マヌエル様式のひとつの特徴だ。

そして16世紀に全盛期を迎え、これまでの建築様式を集大成した作品を創出する。これがジェロニモス修道院とベレンの塔だ。当時最先端を行っていたゴシック建築をベースに、イスラム建築のドームや出窓を取り入れ、華麗な装飾を散りばめてマヌエル様式を完成させた。

ポルトガルの繁栄は長くは続かなかったが、その芸術は後代、大きな注目を集めた。たとえばイスラム・キリスト美術の融合や植物や貝殻を折り込んだデザインは20世紀のモデルニスモ(スペイン・ポルトガル版アール・ヌーヴォー)に多大な影響を与え、アントニオ・ガウディらを強くインスパイアした。その影響はサグラダファミリアなどで確認できる。

 
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