中途退職したとき退職金をもらうのは当たり前?
今勤めている会社がイヤになったり、転職をすることになった場合、定年退職を待たずして会社を辞めることになります。退職をすると、会社とのいろいろな関係がリセットされることになりますが、その中で「お金がもらえる関係」がひとつあります。それが退職金や企業年金です。会社が退職金や企業年金制度を用意していた場合、賃金やボーナスとは別にお金を積み立ててくれており、退職時に精算して支給してくれることがあるのです。
この退職金をアテにしてしばらく無職で過ごしたり、転職を機に引っ越し資金に使ったり、独立開業する資金にする人もいます。
しかし、この退職金、もらうのが当たり前だと思っていたら、ちょっと見直したほうがいいかもしれません。今の時代、もらわないほうがいいかもしれないのです。
でも、もらわないってどういうことでしょう?
中途退職したときの退職金はずいぶん減らされる
まず基本ルールのおさらいです。中途退職した人が退職金をもらえるかどうかは、退職金規程ないし企業年金の規約に定めたルールによります。退職金や企業年金は社長がなんとなく金額を決めるものではなく、何らかのルールがあるのです。
しかし、こうしたルールは定年退職者に優しくても中途退職者には厳しいことが多いのです。具体的には「短い勤続年数で辞めた場合、定年退職の場合の勤続年数の按分にはならない」うえに「自己都合退職の場合、通常の計算より数割カットする」ことが多いのです。
仮に40年勤続で1200万円の退職金という会社があったとします。なんとなく「10年働くと300万円かな」と思います。しかし勤続20年より短くて辞めた場合、半分ではなく受取額はそれより少なくなることがほとんどです。
さらに、会社都合(リストラや倒産)の場合と自己都合(本人希望による転職等)とは数割の差をつけます。仮に10年勤続で250万円の退職金(すでに50万円ダウン)であっても、自己都合退職の場合20%カットとなっていた場合、さらに50万円が減って200万円になったりするのです。
こうしたルールは各社ごとに自由に決められます。自分の会社のルールは退職前にしっかり読み込んでおきましょう。退職金や企業年金の諸規定は必ずどこかに開示されているはずです。
長い目でみると転退職のときに貰った退職金は大きな損
最初に「退職金もらわないほうがいい」というのは、何も受取を辞退しろという意味ではありません。マネーハック的逆転の発想で「今はもらわないが、どこかに残して本来なら定年の頃に受け取る」方法を考えてみて欲しいのです。
というのも、退職金を受け取ってしまうと、その後に何も残らないからです。ほとんどの場合、20代や30代でもらう退職金額は小さいため、何かに使ってしまいます。しかし、これは定年まで勤めていたら1000万円以上に育ったかもしれないお金です。私たちはそれを途中でリセットしてしまうことになります。
新しい会社に転職して退職金がまた積み上がっても、ゼロからの積み上げですから本来もらえた額には達しない可能性があります。だとすれば、現金でもらって使っている場合ではないわけです。
ただでさえ、公的年金の水準低下が心配されている時代に、転職したからと退職金を使っていていいのか、しっかり考えてみる必要があります。
401kを中心に、60歳以降に繰り延べする方法はいくつかある
実は、「もらわずに残しておく」方法がいくつかあります。まず、確定拠出年金(日本版401k)を採用していた会社であれば、制度そのものが60歳まで残しておく設計になっています。ポータビリティという仕組みがあって、どこかの確定拠出年金口座に通算し、60歳まで運用したり追加の拠出をして退職金を増やしていけるのです。約500万人はこの選択肢の対象です。
また、確定給付企業年金という仕組みを採用している会社の場合、20年以上加入すれば60歳まで受取を猶予し60歳以降年金として受ける選択肢があります。
退職時に「今は受け取らず、将来年金で受けます」と意思表示すればOKです。追加入金はできませんが、運用は完全にお任せできます。ただし、企業が企業年金運用を維持できなくなった場合、給付引き下げや解散のリスクが少々あります。約800万人がこの対象です。
もし20年勤めていない場合など、一時金でもらうしかない企業年金の場合、企業年金連合会に預けて増やしてもらい、将来年金受け取りすることも可能です。この場合は、確定拠出年金に移すこともできます。この場合のポイントは「一時金で受け取ったらNG」ということで、退職時にあえて現金精算はせず、転職先ないし企業年金連合会に直接資産を移してもらう手続きをします。
いずれも税金を引かれずに全額引き継げるのがポイントで、将来さらにお金が増えるチャンスを作ることができます。詳しくは退職前の会社ないし企業年金連合会などに相談してみてください。
実は中途退職時にもらわず残すことが法律上もルールになるかも
実はこのような話をしているのは、中途退職したときの退職金受取のルール見直しが法律上も議論されているからです。企業年金制度の今後を検討する社会保障審議会企業年金部会(厚生労働省)では、企業年金については原則として60歳まで受取を先送りする仕組みの検討を示しました。退職金を今もらわず老後に残す枠組みの創設も提言がされています。
実際には実現は難しいとみられていますが、国の年金水準が下がっていく中、企業年金の仕組みを拡充していく方向性が打ち出されており、さらに「使い切ってなくなっちゃった」という人を減らす仕組みも整備しようという国のメッセージが透けて見えます。
もしかすると10年後は20年後には「60歳まで持ち運ぶのが当たり前」になるかもしれませんね。
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