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泉岳寺、山手線新駅誕生で変化への期待

2020年、東京五輪の年に暫定開業を予定する山手線新駅。場所は品川~田町間で、都営浅草線、京急線泉岳寺駅(港区)からは300mほどの場所。当然、新駅誕生でエリア全体が変わるはず。泉岳寺周辺の今を見てきました。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

赤穂浪士の墓所で有名な泉岳寺門前近くに立地、
京急線、都営浅草線の2線が利用可

泉岳寺

広大な敷地の中には赤穂浪士関係の墓所のほか、僧侶になる勉強をしている人たちのための宿舎などもある(クリックで拡大)

港区高輪にある泉岳寺は曹洞宗では青松寺(港区愛宕)、総泉寺(板橋区小豆沢)と並んで江戸江戸三箇寺のひとつという古刹。元々は慶長17年(1612年)に徳川家康が外桜田に創建したもので、寛永18年(1641年)寛永の大火で焼失したものの、徳川家光の命により、現在の地に再建されています。この再建に当たった大名のうちに浅野家があり、以降泉岳寺は浅野家の菩提寺に。そのため、元禄赤穂事件では討ち入り後の義士たちが泉岳寺に仇討を報告に向かったわけです。

 

赤穂浪士の墓所

赤穂浪士たちの墓所。外国人観光客などの姿も多い。敷地内には墓所以外にも赤穂浪士にまつわる遺物なども多く存在する(クリックで拡大)

その事件の主役となった浅野長矩と赤穂浪士の墓所は国指定の史跡となっており、多くの参拝客が訪れる場所。毎年4月、12月14日には義士祭が催されてもいます。泉岳寺駅はこの寺の門前にあることから名づけられたわけですが、当初、泉岳寺側は寺名が駅名になるのに難色を示し、訴訟沙汰に。最終的には寺院と駅が混同されるはずはないとして、現在の駅名になっています。

 

伊皿子坂

泉岳寺門前近くから台地へ続く坂道。けっこうな傾斜がある。通り沿いにはマンション、一戸建て多数(クリックで拡大)

さて、その泉岳寺駅ですが、駅が第一京浜沿いにあり、第一京浜の東側はJRの敷地になっているため、住宅も含め、一般の人が利用できる土地はほとんどすべて第一京浜の西側になります。さらに過去の地図で見ると、現在の第一京浜(かつての東海道)のすぐ脇は海となっています。泉岳寺駅から泉岳寺、さらに西側に向かう道はすべて上り坂となっているのは海岸から武蔵野台地に上がるためのものなのです。

 

御田八幡宮

御田八幡宮。第一京浜から見ると高台にあることが分かる。ちなみに御田、三田はともに神領に寄進されたことに由来する地名とか(クリックで拡大)

そのあたりがよく分かるのが第一京浜沿いのある御田八幡神社。公道から急な階段を上がったところにお社があり、崖からは湧水。港区立亀塚公園も同様にかつては海辺に突き出した台地だったようで、現在も急傾斜の崖面からは湧水が見られます。港区と聞くと、都会まん真ん中と思われるでしょうが、意外に自然は残されているのです。

 

第一京浜沿い

泉岳寺駅近くの第一京浜。古いマンション、ビルなどが建ち並び、最近は工事中あるいは駐車場となっている場所も多い(クリックで拡大)

そうした立地に加え、地下駅ということもあり、駅周辺、第一京浜沿いには多少の飲食店、クリニックなどはあるものの、商店街と認識できるほどではありません。それは第一京浜から坂を上って行っても同様で、伊皿子坂のあたりにスーパーはあるものの、それができるまでは買い物には便利とは言い難い場所でした。

第一京浜を並行するように、馬の背状になった高台にはメリーロード高輪(かつての奥州街道、江戸初期には東海道として使われていた)という商店街があるのですが、そこもそれほどは繁華ではありません。今後、新駅などで利便性が大きくアップすることを期待したいところです。

 

古いアパート

急坂が多いためか、少し入ると古いアパートや寮などで使われていないような建物も散見された。車が入りにくい場所もある(クリックで拡大)

では、泉岳寺駅周辺はどのような場所なのでしょうか。簡単に言うと、古くから開発された住宅街でお屋敷やグレードの高そうなマンション、古いマンションなどが並ぶ場所。寺社も多く集まっています。とはいえ、高台と低地の間の一部には小規模な一戸建て、木造、コンクリート造を問わず、古いアパートが密集するエリアも。

地元の不動産会社店頭には、住宅として募集すると安全性が求められるからという理由で、古いアパートを倉庫として広告している例もあり、接道が悪いなどで建替えられない住宅が少なからず残されていることが分かります。その意味では表通りを見ている限りでは、新駅ができても変わる余地は少なく思えますが、実際には大きくはないものの、変化の可能性は随所に秘められているとも考えられます。

 

山手線新駅は約13haにタワー8棟、
住宅、オフィスに商業施設が生まれる予定

JRの敷地

品川、田町間の広大なJRの敷地。都心でこれだけの広さが車両基地として使われてきたわけだ(クリックで拡大)

渦中の山手線新駅ですが、立地するのは泉岳寺駅と第一京浜を挟んで300mほどの場所。これだけの近さですから、連絡通路でつなぐ、あるいは駅自体を一体化するという案もあり、泉岳寺駅そのものはもちろん、京急、都営浅草線の利便性も向上すると言われています。

 

空き地が多い

第一京浜沿いでは将来の開発を見越してか、空き地、コインパーキングになっている場所が少なくない(クリックで拡大)

その新駅近くに創出される13haには現時点ではタワー8棟が計画中だそうで、うち、3棟はマンション、残り5棟はオフィスと商業施設になるとのこと。街の規模としては10万人を見込んでおり、これは六本木ヒルズの3倍以上。かなりの規模です。

 

品川駅

品川駅では現在2階にある京急の駅を1階あるいは地下に持ってくる案なども出ているという(クリックで拡大)

それ以外でも品川では今後いくつもの変化があります。ひとつは2015年3月の東北縦貫線の開業。これにより東北線、高崎線、常磐線などが品川まで延伸し、東海道新幹線などが利用しやすくなります。もうひとつ、しばらく先になりますが、2027年にはリニアが開通、品川の地下が始発駅となります。

こうした、すでに予定されている変化に加え、東京都では品川周辺の開発に関して平成19年に策定した「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン」を改定、エリア内での複数の開発を見込んでいます。現状、あまり繁華とはいえない泉岳寺周辺、その背後の高輪エリアにも大きな影響が出るであろうことは想像に難くありません。

 

駅名のポスター

地元では駅名を高輪にすべきとポスターなどが作られている。最終的にどうなるにせよ、地元の意見は尊重すべきだろう(クリックで拡大)

ちなみに駅名については様々な案が出ていますが、地元では由緒ある地名「高輪」を押しています。都営浅草線の隣駅は高輪台ですから、微妙に紛らわしい気もしますが、無味乾燥は組み合わせ駅名やきらきら感のある駅名になるよりは、すっきりしていて良いかもしれません。

 

泉岳寺門脇で進むマンション建設

泉岳寺門脇で進められようとしているマンション建設。地元では反対運動が起きており、港区は住民の請願を採択したが、今後どうなることか(クリックで拡大)

ところで、個人的に懸念しているのは現在、泉岳寺の門の脇に建設中のマンション。かなりのボリュームがあり、予定通りに建つとすると景観が台無しになる可能性は大。今後、品川周辺が都、JRなどが目論むように世界のビジネスセンターになるためには、駅も含めてこのエリアを単なる通過点にしないような努力も必要だろうと思いますが、そのためにはこの地の歴史を利用しない手はありません。

京急沿線の東海道品川宿や泉岳寺、メリーロード高輪沿いに残る寺社や史跡などは他の地域にない、品川エリアの財産のはず。都も港区も長期的な視野でこうした財産を大事にしてもらいたいものです。

 

通り沿いのマンション

通り沿いなどに建つマンションの多くは億ション。今後新駅登場に伴い、さらに高額になることが想定される(クリックで拡大)

最後に現状の住宅事情を。まず、賃貸ではマンションが中心で賃料はワンルームで10万円~。2DKになると20万円近くと、都心立地だけある価格です。現時点では新築マンションはなく、中古では築30年、40年という物件も。古くてもさほど安いわけではなく、築40年以上、40平米前後でも2000万円はします。さらに築年数が10年以内であれば60平米で数千万円以上。当然、70平米、80平米となれば1億円オーバーも。今後、このエリアで新築が出るとすれば、7000~8000万円からそれ以上になるでしょう。

 

低いトンネル

第一京浜から芝浦へ抜ける高輪橋架道橋。高さ制限1.5mの低いトンネルが250mほども続く。いずれ無くなる予定(クリックで拡大)

ちなみにJRの敷地を超えた芝浦エリアは比較的平坦で土地もあり、これから新築マンションなどが建ちやすそうな場所。ただし、現在は敷地の下を通る長くて低いトンネルがあるものの、工事が始まるとそれが使えなく可能性があります。何かしらの通路が用意されればよいのですが、そうでないと直線距離としては泉岳寺駅とそれほど離れていないとしても、実際には迂回が必要ということもあり得ます。

 

松島屋

観光を兼ねて泉岳寺を訪れるなら、少し足を延ばして伊皿子坂からメリーロード高輪方面に少し入ったところにある松島屋へ立ち寄ることを勧める。旨い豆大福がある(クリックで拡大)

品川に近い場所ながら、これまで忘れられたようにのんびりした風情のあった泉岳寺駅周辺。その雰囲気を残しつつ、利便性アップは難しいのかもしれませんが、世界の人を迎える街にというのであれば、これからのこの地の街づくりではそうしたチャレンジをしてみていただきたいものです。

 

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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