世論操作はこうして行われる
これについて調査対象を意図的に選んでいるのではないかという声も出ているが、そうではない。調査に初歩的な手法を加えることで、結果を意図的に導くことができるからだ。
データに潜む落とし穴
現代ではあらゆる分野で調査が行われる。タレントの人気調査もあれば商品の満足度調査もあるし、今回のような政治決断に対する世論調査もある。調査結果は「数字」という形で発表されるが、結果が数字に置き換えられることで、それらは「客観的な結果」ということにされていく。ここに大きな落とし穴が潜んでいる。データは「調査設計」によって意図的に導き出すことも可能だからだ。
調査設計そのものに「バイアス」を仕組む
調査というものになじみがない人が聞けば、まさかそんなことがあるなんて、と思うかもしれないが、これは全然珍しいことではない。むしろ調査の初歩的技術だ。最もよく用いられる結果操作は次のタイプ。
(例)「あなたは○○についてどう思いますか?」
1.賛成
2.どちらかと言えば賛成
3.部分的に賛成
4.条件つきで賛成
5.どちらでもない
6.反対
反対に関しては「反対」という1つの選択肢しかない。一方、賛成に関しては、「賛成度の違い」によって選択肢が4つも用意されている。
日本人は1か0かという回答を嫌うため、「賛成」「反対」という明確な回答はあまり選ばれない。逆に、逃げ道や言い訳など条件付きの選択肢は選ばれやすい。その国民性が悪用される形で、調査そのものにバイアスが仕組まれるのだ。
最初から答えが決まっているアンケートもある
次のアンケートは、ぼくが実際に某保険会社から受け、選択肢のいずれかに○をつけて営業員に手渡さなければならなかったものだ。会社名を仮にABC保険としておく。「下記の質問にお答えください」
(1) すでにABC保険に入っている
(2) ABC保険に加入したい
(3) ABC保険の詳しい説明を聞きたい(希望日時、場所: )
(4) ABC保険の詳しい資料を送ってほしい(送り先住所: )
(5) ABC保険には入りたくない
選択肢は作為的で、どちらかといえば悪質の部類に入る。
まず(1)はほとんど意味がない質問だ。また、保険にいきなり加入する人などいないので(2)を選ぶ人もいない。しかも日本人は相手を否定するようなことを避けたがるため(5)も選びにくい。
事実上、(1)(2)と(5)は何の意味もない選択肢であり、このアンケートは(3)か(4)を答えさせるのが目的とわかる。つまりこのアンケートは(3)か(4)を選ばせ、住所や連絡先を入手することが目的といえる。
手法を知った上で世論調査の結果を見る
ここでようやく冒頭のテーマである、集団的自衛権に関する世論調査に話が戻る。下記は報道各社の世論調査結果(数字は%)。
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■産経新聞・FNN
「全面的に賛成」11.1「必要最小限度で賛成」52.6「反対」33.3「その他」3.0
■読売新聞
「全面的に賛成」11「必要最小限の範囲で賛成」60「反対」24「その他」4
■日経新聞・テレビ東京
「賛成」34「反対」50「どちらでもない・その他」16
■毎日新聞
「賛成」32「反対」58「その他」10
■朝日新聞
「賛成」28「反対」56「その他」16
■共同通信
「賛成」34.5「反対」55.4「その他」10.1
■NHK
「賛成」26「反対」26「どちらでもない」41「その他」7
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メディアによって賛否が両極端であるが、違いをもたらしたのはやはり「調査票の設計」、つまり選択肢の設定だ。
選択肢を整理すると次の通り。
【賛成群選択肢2つ、反対群選択肢1つ】(産経、読売)
結果→「賛成平均」67.35%、「反対平均」28.65%
【賛成群選択肢、反対群選択肢ともに1つ】(NHK、毎日、朝日、共同、日経)
結果→「賛成平均」30.9%、「反対平均」49.08%
選択肢の設計を見ることで、各社が、純粋に世論調査をするのが目的か、ある意図をもって行ったのかが一目瞭然になる。
そこで賛成群の選択肢が2つ用意された社の設計を修正し、賛否に公平なかたちでデータを計算しなおすと、全体の結果は次の通りとなる。
→「賛成平均」31.68% 「反対平均」43.24%
つまり、集団的自衛権の行使に関する世論は、反対が賛成を10%以上も上回っていることがわかるのである。