雑貨/ハンドクラフト・工芸

島根県のやきもの巡り

石見から松江まで、横に細長~い島根県を横断してまいりました。島根はやきもの作りの盛んな地域です。普段の暮らしにしっくり溶け込む、心惹かれる窯元をいくつかご紹介します。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド


島根県にはたくさんの陶芸の窯元があります。 出雲地方では、松平藩主だった松平綱近が1677年、萩焼の陶工を招いたことをきっかけに焼物作りが始まったと いわれています。その後、7代藩主の松平治郷(不昧公の名で親しまれている) が江戸時代を代表する茶人でもあったため、茶道具を中心に栄えました。 昭和初期には柳宗悦やバーナード・リーチ、河井寛次郎といった面々による民藝運動の影響も受け、日常を美しく彩る器も多く作られています。 また、県西部の石見地方は良質の陶土に恵まれ、昔から焼物が盛んに作られていました。 粘りがあって腰が強く、硬くて丈夫で水漏れしないことから、 1781年頃より、当時の生活には必需品だった大きな水がめを生産するようになり、 北前船で各地に運ばれて、その名が知れ渡るようになりました。

今回は、松江から石見まで、横に長~い島根県を横断して見つけた、各地の窯元をご紹介します。 (以前の記事で、 出西窯についてもご紹介しています)。


【松江】袖師窯

袖師窯
工房の様子。さり気なく掛っているのは、柳宗悦の言葉。

宍道湖岸に建つ島根県立美術館から、ほど近いところにある窯元です。 美術館の目の前は、宍道湖の夕日が最も美しく見える場所としても有名な絶景スポット。 夕暮れ時になると、カメラを抱えた観光客が多く集まり、場所の取り合いになるほどです。

袖師窯は1877年の創業。初代の尾野友市は、民窯の布志名窯、楽山の上の茶碗屋窯で学び、 良質の陶土が採れる乃木村皇子坂に開窯しました。2代目の岩次郎からは袖師ヶ浦に 移り、瀬戸や四日市などを訪ねて、強く丈夫な器作りのために新たな技術の向上に努めました。 3代目敏郎は民藝運動に参加し、柳宗悦やバーナード・リーチ、河井寛次郎、浜田庄司 等の指導を受けました。 普段の暮らしに役立つシンプルで使い勝手の良い器作りは、今もなお続いています。

袖師窯 器
素朴で温かく、どこか北欧的でモダンな風情も感じさせる器たち。


現在は4代目の尾野晋也さんが作陶しています。 ブリュッセル万国博ではグランプリを受賞するなど、数々の賞を受賞。 出雲に伝わる陶法をベースに、地元の陶土、原料を使い、丈夫で健やかで、 暮らしに潤いをもたらすような器作りを心がけているそうです。

1階が工房、階段を上がった2階に展示スペースがあり、 きちんと整列された器がずらりと並んでいます。所々に花や額、ほのぼのとした民芸品などが さり気なくあしらわれ、ディスプレイにも心が惹かれます。 現代の暮らしにも馴染みやすいデザインで、毎日のテーブルを明るくしてくれそうな 気取らない器が多く、種類がとても多いことも嬉しい。 地釉、柿釉、ゴス釉、藁白釉、糠白釉、辰砂など様々な釉薬を使い、 掛分、抜蝋文、鉄絵、刷毛目、釘彫、櫛目など手法もいろいろ。 ゆっくり時間をかけて、器選びを楽しみたい場所です。

袖師窯 風景
階段の途中に飾ってあった、ひょうきんな風貌の置物たち。


袖師窯

島根県松江市袖師町3-21
tel 0852-21-3974
9:00~17:30 日曜定休



【温泉津】(有)椿窯 ・ 森山窯

椿窯
椿窯の展示スペース。全ての器に椿の模様が描かれています。

温泉津と書いて「ゆのつ」と読みます。1300年の歴史を持つ、文字通り温泉の町。 そして世界遺産に登録された石見銀山の町でもあります。 さらにここは焼物の里として有名であり、観光地の魅力が充分に備わった地域です。 飴色をした「はんど」と呼ばれる 大きな水がめは、温泉津焼きの代名詞として全国に広まりました。 現在は3軒の窯元があり、春と秋には「やきもの祭」が開かれ (2010年春は4月17~18日の土日)、 日本最大級といわれる登り窯に、昔ながらの手法で炎を燃やし、焼物作りを行っています。

(有)椿窯は「椿窯」を開窯した故・荒尾常蔵の息子、荒尾寛さんによる 窯元です。 300年以上続いているという陶芸の家系に生まれ、父である常蔵が河井寛次郎より 受け継いだ釉薬を伝承しつつ、オリジナルの器を制作しています。 器にはどれも椿の絵柄が施されており、「なぜ椿なんですか?」と聞くと、 「椿が好きだから。」というシンプルなお答え。品のある落ち着いた赤が印象的で存在感があり、 テーブルの洒落たアクセントになりそうです。


(有)椿窯 
島根県大田市温泉津町温泉津イ-12-2
tel 0855-65-2022



森山窯
森山窯の工房の様子。ストーブの横には猫がころんと、うたた寝していました。


(有)椿窯のすぐ近くにもうひとつの窯元、森山窯があります。 森山窯の森山雅夫さんは、島根県大田市に生まれ、県立出雲職業訓練補導所の陶磁器科を卒業した後、 陶芸家・河井寛次郎の内弟子となり、6年間修行に励みました。 さらに倉敷の堤窯・武内晴二郎の元で5年の修行を経て、1971年に開窯。 小ぎれいに整った工房と落ち着いた風情のギャラリースペースは、訪れる人をほっと和ませ、 旅の疲れも癒されます。



森山窯 器
独特の色のグラデーションにうっとり。丁寧に作られたかたちは、
実用的でありながら、ただ飾っておいても様になります。


森山さんご夫妻に温かく迎えられ、ギャラリーの一角でお茶をいただきました。 手にした湯のみの収まりのよさ、そして口当りの心地良さにびっくり。 しっくりくるバランスのよい形と深みある色使いに、ただほれぼれするばかり。 ポット、急須、平皿、片口、徳利などなど、普段の暮らしに使いやすくて馴染みやすい、 思わず微笑んでしまうような嬉しい器がたくさん並んでいました。


森山窯

島根県大田市温泉津町温泉津イ-3-2
tel 0855-65-2420
8:30~18:00 日曜不定休


次ページでは、島根県西部、石見焼の窯元2軒を訪ねます。
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