世界遺産/アジアの世界遺産

ボロブドゥール寺院遺跡群/インドネシア

世界三大仏教遺跡のひとつであるボロブドゥールは、一辺約120mの基壇をベースに200万個に及ぶブロックを積み上げた階段ピラミッド。仏教寺院だといわれるが、悟りに至る道を示した「経典」であり、世界の在り方を表した「立体曼荼羅」のようにも感じられる。今回は、ジャングルにそびえる雄大な景観と精緻なレリーフが美しいインドネシアの世界遺産「ボロブドゥール寺院遺跡群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

世界三大仏教遺跡のひとつ「ボロブドゥール寺院遺跡群」

ジャングルの中にたたずむボロブドゥール

ジャングルの中にたたずむボロブドゥール。最上段の塔が大ストゥーパだ。もともと高さは42mあったと見られているが、頭頂部が欠損して33.5mになった

世界三大仏教遺跡のひとつであるボロブドゥールは、欲界-色界-無色界の3界9層からなる階段ピラミッドだ。ピラミッド上には1,460面のレリーフと504体の仏像を中心に多数の神像やストゥーパが祀られており、世界の秘密や悟りの境地が描き出されている。

今回はボロブドゥールを中心に、ムンドゥ寺院とパオン寺院を含むインドネシアの世界遺産「ボロブドゥール寺院遺跡群」を紹介する。

神域としてのボロブドゥール

ボロブドゥールを東正面から見上げる

ボロブドゥールを東正面から見上げる。山のような構造は、世界の中心に立つという伝説の須弥山(メール山)を模しているともいわれる

斜めから見たボロブドゥール

斜めから見たボロブドゥール。階段構造が見て取れる

アンコールバガン、ボロブドゥールは世界三大仏教遺跡と呼ばれている。

このうち、アンコールはクメール人が建てたアンコール朝(クメール朝)の首都遺跡で、バガンはビルマ人初の王朝であるバガン朝の首都遺跡。アンコールには数十~数百の寺院や宮殿が残されており、バガンには数千のパゴダ(仏塔。ストゥーパ)が立ち並んでいる。

これに対してボロブドゥールはたったひとつの仏教遺跡を示す(世界遺産「ボロブドゥール寺院遺跡群」といった場合はボロブドゥール、ムンドゥ寺院、パオン寺院の3寺院を指す)。ボロブドゥールを歩いていると、たったひとつで数十~数千に匹敵する理由がなんとなくわかってくる。

 

第三円壇から上の眺め

第三円壇から上の眺め。ここより上は欲も色(物質)も消え去った悟りの領域。右奥がボロブドゥールの中心である大ストゥーパだ

ボロブドゥールで感じるのは、これが単なる「寺院」ではないということだ。

日本のお寺にはご本尊を祀るお堂があり、お堂の中には仏像を並べた聖域がある。キリスト教の教会も同じで、聖職者のみが入れる聖域に主祭壇が置かれている。こうした聖域は「内陣(ないじん)」と呼ばれており、人々が祈りを捧げる「外陣」とハッキリ区別されている。

しかし、ボロブドゥールには外陣らしい場所も礼拝堂も僧院も見当たらない。そこで感じるのは、ここが聖域であるという強烈な主張。人がいるべき場所ではないという得体の知れない神々しさだ。


 
角から見たボロブドゥール

角から見たボロブドゥール。方形(四角形)といっても角は20ある。ここと次のページの「隠された基壇」を比べてほしい

個人的な感想だけれども、ボロブドゥールは全体が内陣で、寺院というよりも絵や記号によって世界の在り方や心の在り方を表した「曼荼羅(まんだら)」であり、悟りへの道程を示した「経典」なのだろう。

そんな空気をひしひしと感じる。

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