糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

「やめられない止まらない♪」食べ過ぎの誘惑

カルビーのCMはいつでも鼻歌になりますが、スナック菓子の本家USAには、それこそ数え切れないキャッチコピーがあります。レイズのポテトチップス"Betcha can't eat just one"(きっと、一つじゃやめられない)、プリングルズのポテトチップス"Once you pop, you can't stop"(開けたら最後、止まらない)などがそうです。一つ食べたらホントに止まりません。

執筆者:河合 勝幸

ビュッフェ効果(buffet effect)にご注意!詳しくは本文で。(c)KAWAI Katsuyuki 2010

ビュッフェ効果(buffet effect)にご注意!詳しくは本文で。
(c)KAWAI Katsuyuki 2010

カルビーのCMはいつでも鼻歌になりますが、スナック菓子の本家USAには、それこそ数え切れないキャッチコピーがあります。レイズのポテトチップス"Betcha can't eat just one"(きっと、一つじゃやめられない)、プリングルズのポテトチップス"Once you pop, you can't stop"(開けたら最後、止まらない)などがそうです。一つ食べたらホントに止まりません。

どうやら「意思の力」では、ないようです

手と口は無意識にも動くのです。これにブレーキを掛けるのは、強い意思の力が必要なのではなく、ちょっとした周囲の状況を変えるのが一番いいという論文があります。サイエンスでもあり、解決手段の発見でもありますから紹介しましょう。

コーネル大学(米国)の栄養学、消費行動心理学講座の教授、Brian Wansink PhDによると、食べ物は多くの人を"いつでも"だますことが出来るのだそうです。

ここで紹介するのは、ユニークな発想でコンスーマーの摂食行動の盲点を暴くことで著名なWansink教授が、2011年の米国心理学会で発表したものです。

シカゴの映画館で昼間の上映に集まった168人の観客に、なんの予告もなくポップコーンの入ったジャンボサイズ容器とミディアムサイズの容器を無作為に渡しました。「ご自由に召し上がれ」です。お帰りの際に容器を回収しました。

もちろん、この実験には「種も仕掛け」も用意してあります。まず、昼間(マチネー)の上映ですから、観客はランチを済ませています。つまり、空腹ではありません。

中身のポップコーンにも2種類あって、作りたてのフレッシュなものと、5日前に作った古いものです。これによって、上の空のつまみ食いでも、おいしさの関与度が分かります。

回収した容器を計量したところ、フレッシュ・ポップコーンが入ったジャンボサイズ容器を受け取った人は、フレッシュ・ポップコーンが入ったミディアムサイズ容器の人に比べ、45%も多く食べていました。

おいしくない古いポップコーンが入ったジャンボサイズ容器の人でも、フレッシュポップコーンが入ったミディアムサイズ容器の人よりも34%も多く食べていました。

つまり、容器(バケット)の大きさが鍵でした。Wansink教授によると、容器の大きさは私たちに無意識の「消費ノルマ」を提示します。そして、それを手に持つことで、空腹でもないのにスイッチが入って『やめられない止まらない♪』になってしまうのです。

口から脳へ、脳から口へ

つい食べ過ぎてしまうのにはなにか理由があるはずです。周囲の状況や根強い習慣、食品の化学成分などです。

とくに子どもが好むハンバーガーやフライドチキン、ピッツァやアイスクリームなどは高脂肪食品です。ポテトチップスやベーコン、フレンチフライなどは高塩分です。もちろん甘い物も大好物です。

この脂肪塩分砂糖が揃うともう止まらなくなります。チョコレートは脂肪と砂糖、ピーナッツは脂肪と塩分、キャラメルは砂糖と脂肪…挙げていったらきりがありませんが、食品メーカーはこの3つの味のバランスをしっかりとつかんでいるので、計算どおりに手を出すと止まらなくなる仕組みです。

脂肪・砂糖・塩のトリオは脳内の快楽領域を刺激するので、薬物中毒と同じようなものです。ただひとつ、根本的に違うのは、食べ物にはアルコールや薬物のように完全に「断つ」選択肢がないことです。誘惑にさらされつつ生きるために食べなくてはなりません。

生活習慣の力

スナック食品メーカーの経営者の話をテレビで聴いていると、子ども時代に植えつけた好みの味を、大人になってもいかに継続させようかと努力している姿が伝わります。

愛情に守られて楽しく過ごしていた時代の記憶に結びついた味覚は、成人しても安らぎを与えてくれます。ストレスにつぶされそうな毎日、ふと手に取るなじみの味覚が「止まらなく」なるのも無理はありません。問題は過去の時代にとても貴重で高価だった脂肪・砂糖・塩が、現代は典型的な安価な物になってしまったことです。肥満が全世界の問題になってしまったのは、この容易さがあると思います。2型糖尿病になってから急にヘルシー食を習慣にしようとしても、なかなか身に付くものではありません。

Wansink教授はヘルシーな習慣を得るにはコツがあると言います。まず、現代人は空腹だから食べたくなるのではなく、周囲からキュー(暗示、合図)が出るから食べるようになることを理解することです。

同教授によると、私たちは1日に250回以上も食べ物について意思決定をしています。

例えば、スープとサラダのどちらを選ぼうかと考えるだけでなく、サラダの種類、その量、どのドレッシングにするか、ドレッシングは少しにするか、たっぷりと掛けるかなど、確かにいろいろな状況によって全てが左右されます。

そこで「無意識に食べている物を、無意識にヘルシーに食べる」ようにしようと、次のような提案をしています。

□ 冷蔵庫やキッチンの食材を、ヘルシーな物が最初に目に入るように配置換えをすること

□ 買ってきた料理、食材をそのままテーブルに出さないで、必ず少量ずつ自分で皿に盛ること

□ 一回り小さな皿を選ぶこと。12インチの皿に料理を盛っていたのを、10インチの皿にダウンサイズすると、食べる量が22%減ります

□ ジュースやアルコールなどのグラスは、背の高い、薄手のガラスのものを使うこと。同じ容量のグラスでも、背の低いずんぐりとした厚手の口の大きなグラスにジュースを注ぐと、37%も多く入れてしまいます

□ 無意識の飲食習慣を付けないように、食事の時はテレビを消すこと。誰でも知っているけど、なかなか守りづらいことです

ビュッフェ効果にご注意! たくさんの料理が手を替え品を替えてずらりと並ぶと、目も舌も飽きがこないので食欲が進みます。でも、よく見ていると、標準体型の人たちは自分の好みのものをきちんと選んでいますよ!

□ カクテルパーティやビュッフェで、取り皿をきれいな新しいものに取り替えると、どのくらい食べていたのかすぐ忘れてしまいます。食べた跡の汚れや骨が皿に残っていると、摂食量が減ることが確認されています

□ 摂食心理、行動をサーチすると、2人で夕食を楽しむと、独りで食べる時の35%も余計に食べています。アメリカ人は7人でにぎやかに盛り上がると、普段の食事の1.9倍も食べてしまうそうです。食べた量にまったく注意が向きません。また、女性同士が向い合って食事をしているのを観察すると、一人が何かを口に入れると相方も5秒以内に必ず同じ行動をとるという発表もありました

日常生活にはこのように無意識に食べてしまうキュー(cue)がありふれています。手と口が止まらなくなったら、以上のことを思い出してください。
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