世界遺産/アジアの世界遺産

昌徳宮/韓国(2ページ目)

ソウル五大王宮の中で、昌徳宮はもっとも長きにわたって王が暮らした宮殿だ。他の王宮と違い、丘や岩・木々など自然の地形をそのまま活かした情緒あるデザインで、多くの王を癒やし、愛された。今回は朝鮮王朝時代の文化をもっともよく残す韓国の世界遺産「昌徳宮」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

自然と建物が調和した昌徳宮

後苑の芙蓉池

王が釣りを楽しんだといわれる後苑の芙蓉池。春は新緑、秋は紅葉が美しい。奥の建物が宙合楼で、その手前の門が魚水門

敦化門の屋根飾り

敦化門の屋根飾り。日本の鬼瓦のように、龍や獅子の像を置いて魔除けとしている

朝鮮王朝は明や清の冊封体制に入っており、文化的にも大きな影響を受けた。ソウルの王宮も北京の紫禁城(故宮:世界遺産)を模して造られている。

たとえば景福宮は平地を城壁で囲い、内部を壁と門で整然と切り分け、主要な門と建物を直線上に配し、左右対称にデザインされている。その外観は紫禁城にそっくりだ。

しかし昌徳宮は違う。正門である敦化門と正殿(中心となる建物)である仁政殿は直線上にないし、向きまで違う。宣政殿や大造殿も同様だ。道も右へ左へ動くので、一直線に奥へと進む景福宮とは雰囲気がずいぶん違う。

 

進善門

進善門。奥に見えるのが粛章門で、その手前左側に仁政門があって仁政殿へと続いている。一直線に奥へと進む景福宮とはまったく異なるレイアウトだ

もっとも特徴的なのが後苑(フウォン)だ。後苑があるのはまさに丘。山道を歩いているとポツリポツリと姿を現す建物が、池や木々と調和してとても美しい。この後苑、実は北岳山という山をそのまま囲ったもの。手を加えるのは必要最小限にして、自然のままの地形や木々をそのまま活用して美しい庭園を造り上げた。

北京の紫禁城が直線からなり、皇帝の庭園である頤和園(世界遺産)が各地の自然をコピーして造られているのは、自然をも支配する皇帝の力を誇示しているから。それに対して昌徳宮には自然に対する素朴な想いが感じられる。

自然と調和したその姿が王や王妃の心を癒やしたからなのか、文禄の役で景福宮が破壊されたあと、昌徳宮は250年以上にわたって正宮として利用された。王たちにもっとも長く愛された朝鮮王朝のふるさとが、この昌徳宮なのだ。

 

昌徳宮の建造物と見所1 前苑

昌徳宮の仁政殿

昌徳宮の象徴、仁政殿。二層に見えるが内部は吹き抜けになっており、高く広い空間の中に王が坐る玉座が置かれている

楽善斎

こちらは楽善斎(ナクソンジェ)。王の母や妾、女官たちが生活していた空間で、この建物の柱や梁は彩色されていない

昌徳宮は前苑と後苑に分かれている。ここでは13棟が残る前苑の主だった建物を紹介しよう。

■敦化門(トンファムン)
昌徳宮の正門で、1412年に建築されたがのちに焼失。現在の門は1609年に再建されたものだ。王はこの門から出入りしたが、一般には金虎門が使われた。門を入ると道が3つに切り分けられているが(三道)、中央は王専用の道だった。

■錦川橋(クムチョンギョ)
ソウル最古の石橋で1411年に架けられたもの。風水の影響を色濃く残しており、悪い気が入るのを防ぐために伝説の獣ヘテや亀、龍などが彫られている。

 

■仁政殿(インジョンジョン)
品階石

仁政殿の前庭に並んでいる品階石。ここに示された位の順に並んで謁見を賜った

昌徳宮の正殿。仁政門(インジョンムン)の先にあり、重要人物との接見や王の即位式、重要な祭祀などが行われた。前庭にはやはり三道があり、両脇には位の書かれた碑=品階石が置かれている。20世紀に入って内装が洋風に改められ、玉座とシャンデリアが混在する不思議な空間を生み出している。

■宣政殿(ソンジョンジョン)
王の執務室であり会議室。ここで王が指示を出したり、臣下を集めて会議を行った。有名なのは屋根。青い瓦は非常に珍しいのだとか。

■熙政堂(ヒジョンダン)
もともとは王の寝殿で、王はここで生活を送っていたが、やがて宣政殿と並んで執務室としても使われるようになった。この建物は景福宮にあった康寧殿を移築したもの。

 

■大造殿(テジョジョン)
王と王妃の寝殿。1917年に焼失し、現在の建物は1920年に景福宮の交泰殿を移築したもの。立ち並ぶ小さな部屋は女官たちのもので、王や王妃の世話を行っていた。
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