糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

インスリン抵抗性とは何か…原因・メカニズム・改善法

日常的によく使う言葉でも、改めて説明しようとすると、とても難しいことがあります。「インスリン抵抗性」もそうです。インスリンが十分に働かないことは分かりますが、その原因はなんでしょうか? インスリン抵抗は何故起きるのか、改善法とあわせて解説します。

執筆者:河合 勝幸

インスリン抵抗性とは何か……インスリンの役割・メカニズム

考え込む男性

糖尿病の知識としてよく耳にする「インスリン抵抗性」。何となくわかっているつもりでも、改めて説明しようとすると難しいものです

日常的によく使う言葉でも、改めて説明しようとすると、とても難しいことがあります。「インスリン抵抗性」もそうです。インスリンが十分に働かないことは分かりますが、その原因はなんでしょうか?

まず、インスリン抵抗性とは、体がすい臓から分泌しているホルモンのインスリンが、標的とする細胞(筋肉や脂肪)に十分作用しない状態をいいます。

私たちはインスリンがないと大切なエネルギー源のブドウ糖が体の細胞に入れないと思いがちですが、体の多くの細胞や組織はインスリンの有無に関わらず必要とするブドウ糖を取り込むことができます。

細胞は細胞膜にGLUT(グルット:糖輸送担体)というタンパク質を出現させてブドウ糖を取り込むのですが、これにも5~6種類のタイプがあって、特別に骨格筋と脂肪組織でインスリン依存的にブドウ糖を取り込むのがGLUT4という糖輸送担体です。インスリンが必要なのはこれだけです。

筋肉や脂肪組織は大口のブドウ糖受け入れ先で、食後の血糖上昇の80%位は筋肉が取り入れて血糖を下げるそうですから、もし、他の組織のようにインスリンと関係なく血液中のブドウ糖をどんどん取り入れていたら、とても一定の範囲に血糖値を維持することはできません。

インスリンはむしろ、勝手に筋肉や脂肪細胞がブドウ糖を取り込まないように体が発行している整理券のようなものです。

整理券(インスリン)を出しているのが膵臓のベータ細胞で、ここにはGLUT2という糖輸送担体があって、血糖値が100mg/dlを超えるとブドウ糖を取り込み始めて、それがいろいろな反応を引き起こしてインスリン分泌へとつながります。100mg/dl以下になるとブドウ糖は取り込みません。

体はこのように精緻を極めて血糖値を一定の範囲に保っているのですが、何らかの理由で整理券(インスリン)が十分に通用しなくなると、体はもっと大量の整理券(インスリン)を出して血糖値を調節しようとします。この状態を「インスリン抵抗性の増大」あるいは「インスリン感受性の低下」といいます。

人によってはやがてその能力が衰えて高血糖になり、メタボから2型糖尿病へと進行します。ベータ細胞の力が強い人はインスリン抵抗性増大と見合うインスリン分泌が維持できるかぎり糖尿病にはなりません。ただし、限りなく太り続けて血液中のインスリン濃度も高くなります。

インスリンは細胞にブドウ糖を取り込ませて血糖値を調節する役割だけではありません。腎臓が尿中のナトリウムを再吸収するようにしたり、交感神経を刺激したりします。インスリン抵抗性のため血液中にインスリンが過剰にあると動脈硬化の危険因子である中性脂肪値が高くなったり、高血圧、肥満、HDL低下、血液凝固亢進などが生じます。つまり、メタボリックシンドロームそのもので、メタボは以前は「インスリン抵抗性シンドローム」と呼ばれていたのです。

この段階ではまだ2型糖尿病と診断されないこともありますが、危険因子がいくつも重なるのでインスリン抵抗性そのものがすでに心血管疾患の原因になるのです。

インスリン抵抗性の原因は肥満? 運動不足・食事・加齢等も

肥満

太るからインスリン抵抗性が増大するのか、インスリン抵抗性があるから太るのかはまだ解決されていません。写真はイメージです。

なぜインスリン抵抗性が生じるかは、まだ十分に解明されていません。関与していると見られる遺伝子もいくつか発見されていますが、それらによるインスリン受容体の異常、糖輸送担体、細胞内の情報伝達のトラブルなどが考えられますが大部分が不明です。

後天的なものとしては運動不足、食事、薬剤、糖毒性、遊離脂肪酸上昇、加齢などが挙っていますが、なんと言っても肥満が大きな問題であることは確かです。

悪い生活習慣がインスリン抵抗性を増す機序は明らかではありませんが、研究者たちは脂肪組織の増大による炎症や身体的なストレス、まだ未発見のアディポサイトカイン等も影響しているのでは?と考えています。

どうしても高齢者はインスリン抵抗性が高くなるのですが、これは糖輸送担体のGLUT4が減ってくるためという説が有力です。

インスリン抵抗性を測定する方法は2~3あるのですが、設備も時間も費用もかかるので日常の糖尿病治療には用いられません。

また、日本人ではインスリン抵抗性がなくても2型糖尿病になる人がかなり存在するので、インスリン抵抗性だけで糖尿病のリスクを判断することはできません。

インスリン抵抗性の改善法……糖尿病薬・エクササイズ等

インスリン抵抗性を改善する薬としてはアクトスのようなチアゾリジン薬やメトホルミンのようなビグアナイド薬があります。ただし、これらは糖尿病薬ですから健常者が使えるものではありません。

自分で出来る最良の方法は、何と言っても身体活動を高めることです。エクササイズは劇的にインスリン感受性を高めます。運動で筋肉が増えればそれだけブドウ糖を吸収できますね。

運動するとインスリンの作用とは別のルートでブドウ糖を細胞内に取り込めますし、その効果も一日位は続きます。インスリン抵抗性そのものを直すわけではありませんから継続することが大事です。

減量がインスリン抵抗性を減らすことは確かですが、皆さんがベストだと信じで疑わない「ローファット・高炭水化物食」が逆にインスリン抵抗性を増悪する!?という可能性もあることを頭のどこかに入れておいてください。

木の上からサバンナに降り立った人間の祖先は果物などの高炭水化物食だったから、遺伝的に高炭水化物食が基本だという意見と、度重なる氷河期で人類は肉食と低炭水化物食の遺伝子を獲得したという意見が相変ず論争しています。肉食で低炭水化物食なら血中インスリン濃度が上がらないからむしろ安全だという考えです。

この論争はどこかユーモラスですが、インスリン抵抗性は手強い相手ですから、どうぞ油断のないように!

関連してより詳しく知りたい方は、「主食を抜けば糖尿病は良くなる!ってホント?」「糖尿病は慢性炎症!その炎症を鎮める理想食は?」もあわせてご覧ください。
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