MRワクチンとは「麻疹」と「風疹」の予防接種
感染力の強い麻疹、風疹には特効薬がなく、重篤な後遺症や死亡するリスクがあります。効果的な予防法は、あらかじめ予防接種を受けておくことです。
麻疹と風疹の予防接種として行われるMRワクチン。麻疹(measles)のM、風疹(rubella)のRを取って、MRワクチンと呼ばれています。麻疹ウイルスと風疹ウイルスの毒性を減らしたウイルスを使用した「生ワクチン」です。麻疹ワクチンはニワトリの細胞を、風疹ワクチンはウズラの細胞を使って作られています。
アメリカでは、麻疹(measles)、おたふくかぜ(mumps)、風疹(rubella)、水疱瘡(varicella)の4種類を同時に1本の注射で接種する「MMRVワクチン」が行われていますが、日本では「MRワクチン」しかありません。
麻疹はワクチンをすれば、予防できうる病気です。麻疹は感染力が強く、発症すると1人が周りの約20人程度の人に感染すると言われています。また、風疹は妊婦に感染すると胎児の奇形を起こすリスクもあります。感染拡大をさせないためにも、予防接種が重要なのです。MRワクチンの効果や接種方法、副作用について詳しく解説します。
<目次>
MRワクチンの効果……麻疹と風疹を同時に予防
麻疹と風疹の予防のMRワクチンで、溶かすと赤い液になります(写真提供:武田薬品工業)
このワクチンで予防できるのは、発熱と発疹がみられ、肺炎などまだまだ死亡例のある病気である「麻疹(はしか)」と、3日はしかとも言われ、発疹と発熱により妊婦にかかると胎児に先天性風疹症候群を起こすリスクのある「風疹」の2つ。
ワクチンを接種することによって、95%以上の人が麻疹と風疹のウイルスに対する免疫力をつけることができます。麻疹については2016年に国内での感染拡大が報告され、注意喚起されることもありました。詳しくは「麻疹(ましん・はしか)の症状・合併症・診断法」「なぜ麻疹が流行し始めたのか…原因と対策法」もあわせてご覧ください。
MRワクチンの対象年齢・接種時期・間隔
以前は、麻疹ワクチンと風疹ワクチンは別々で、しかも1回のみでした。現在は、麻疹と風疹の混合ワクチンを2回接種します。1期は生後12ヶ月~24ヶ月に1回、2期は5~7歳に1回行います。
以前は1回しか行っていなかったため、1回しか受けていない子供については、平成20年4月から平成25年3月31日まで5年間に限って、第3期として中学1年生、第4期として高校3年生に、接種することになっています。第3期と第4期は1回していない人の2回目ですので、生まれた年齢によって、第3期になるか第4期になるかが決まります。2007年に1回しか麻疹ワクチンをしていない中学生、高校生、大学生で麻疹が大流行をしたために、この第3期と第4期が行われることになったのですが、あまり周知されていません。接種率が悪く、何らかの対策が必要とされています。(第3期、第4期の定期接種は2013年3月31日で終了しました)
平成31(2019)~令和3(2021)年度までの3年間に限って、第5期の定期接種になっておりましたが、令和6年(2024)年度(令和7年3月)まで延長になっております。これは、以前、定期接種になっていなかった世代(1962年(昭和37年)4月2日から1979年(昭和54年)4月1日までに生まれた男性)に対して、無料で風疹抗体検査を行い、抗体価が低かった人に対して、MRワクチンを行うことです。この世代では自然に風疹に罹ってしまっている可能性があることと、効率よくワクチンを行うことで、対象を限定したとされています。
(以前のワクチン行政が未来に影響する1つの例を考えられます。つまり、ワクチンは長い目で見ていく必要があります)
MRワクチンをした後で、MRワクチン以外のワクチンを接種する場合、生ワクチンについては27日以上の日にちを空ける必要がありますが、不活化ワクチンの場合は接種間隔がなくなりました。ただし、新型コロナウイルスワクチンはインフルエンザワクチン以外は2週間空けて接種可能になっています。
MRワクチンは上腕の皮下に注射します。1回0.5mlで注射する時の痛みも少なく、多くの子供が泣かずに受けることができるワクチンの1つです。
MRワクチンの副作用……注射部位の赤みや発熱・蕁麻疹など
副作用としては、注射部位が赤くなったりする局所反応と発熱や発疹、蕁麻疹などがあります。発熱や発疹などは接種後7~10日後に見られます。1期で、発熱が約17%、発疹が約5%、2期で、発熱が約7%、発疹が約2%程度です。これらの症状は1~3日で治ります。「MMRワクチン」と「MMRVワクチン」の違い
以前は、日本でも「MMRワクチン」と言って、麻疹や風疹に加え、おたふくかぜの予防接種(ムンプスワクチン)も定期接種として行ってきました。しかし、おたふくかぜワクチンによる髄膜炎の発症で中止となり、現在まで、おたふくかぜワクチンは任意接種のままで自費となっています。しかしその一方で、おたふくかぜに罹ると、難聴の危険性が高まるという報告がある上に現在、発症後の特効薬もないため、ワクチン接種率の低下から、合併症のリスクが危険視されているのです。さらに、それぞれを個別に接種した場合の子供の負担を考れば、一小児科医としては、一刻も早く、国際的に使われつつあるMMRVワクチンによって、感染症を減らすことが大切ではないかと思います。伝染病は、自分が加害者にも被害者にもなるのです。
1~2歳のMRワクチンの第1期の接種率は95%以上、5~7歳の第2期の接種率は90%以上です。そのため、最近は、小児科医としても、麻疹や風疹を診る機会が減りました。発熱時には麻疹と判らないため、以前は発疹が出る頃に麻疹と判って、隔離したりと大変でした。水疱瘡に対するワクチンも定期接種になりましたが、MRワクチンと水疱瘡ワクチンの2本を接種する必要があります。
その意味でもMMRVとして定期接種になれば、1本のワクチンでさらにおたふくかぜに罹る人も減らせるのではないかと考えています。
このワクチンを2回接種することで、麻疹はかなり減少し、日本は3年間、日本特有の麻疹は撲滅され、輸入される麻疹のみになっているため、2015年3月にWHOから麻疹の排除状態であると認定されました。また、水痘ワクチンは2014年10月から定期接種になりましたので、混合ワクチンの開発が待たれます。
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