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世界中の人々の健康に貢献ベーリンガーインゲルハイム

複数の外資系製薬企業のトップを歴任した鳥居正男氏が、2011年1月、ベーリンガーインゲルハイム ジャパン株式会社代表取締役社長に就任しました。今回、鳥居氏と株式会社オールアバウト代表取締役社長江幡哲也との対談を行い、グローバル企業の特徴やマネジメント、鳥居氏の製薬業界にかける思いなどをお聞きしました。

執筆者:All About 編集部

ベーリンガーインゲルハイムは、世界に145の関連会社と42,200人以上の社員を擁する研究開発主導型のグローバル製薬企業です。医療用医薬品、一般医療品、動物用医薬品などの製造・販売を行っています。2011年1月に、日本のベーリンガーインゲルハイムグループを統括するベーリンガーインゲルハイム ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任した鳥居正男氏に、グローバル企業の特徴やマネジメントなどについてお話いただきました。

グローバル時代は「謙虚さ」「気配り」が大切

鳥居さんプロフィール

1947年神奈川県生まれ。1971年ロヨラカレッジ経営学部卒業、1975年上智大学国際学部経営学修士課程修了。1992年ハーバードビジネススクールAMP修了。複数の外資系製薬企業のトップを歴任後、2011年1月、ベーリンガーインゲルハイム ジャパン社長に就任。傘下の日本ベーリンガーインゲルハイム、エスエス製薬、ベーリンガーインゲルハイム ベトメディカ ジャパン、ベーリンガーインゲルハイム製薬を統括し、約3,000人の社員を率いる

江幡:最近は業種を問わず海外への進出が活発になっていますね。外資系企業はもちろん、国内企業に勤務するビジネスパーソンにとっても「グローバル化」が身近に感じられるようになってきました。

鳥居社長は外資系企業で38年間活躍されてきたわけですが、そのご経験から「グローバル化」についてのお考えをお聞かせいただけますか。

鳥居:38年間を振り返って実感するのは、どんな環境でどんな仕事をしても、人間性、誠実さが一番大切ということですね。具体的にいうと、私は「謙虚であること」を心がけています。

江幡:「謙虚さ」。一般に外資系や海外でのビジネスシーンでは、どんどん自己主張していかなければというイメージがありますので、ちょっと意外です。

鳥居:自分の意見をはっきり伝えることは大切ですが、勘違いしている人も多い。直接的で失礼な物の言い方になっている人が多いと思います。英語での会議になると、突然、人が変わったように乱暴な話し方をする日本人をよく見かけます(笑)。

英語を母国語とする人たちのコミュニケーションを見ていると、実はとても配慮しています。たとえば、大きな会議の場では、発表している社員を傷つけるような表現は使わない。「このような選択肢も検討しましたか?」というように、相手に気づかせるように発言します。

メールでも、直接的ではなく間接的に伝える工夫をする人が、実は多いんです。かつ間接的な表現でも受け取る側に内容がしっかりと伝わるよう、丁寧に書かれている。そうした配慮は、ポジションが上に行けば行くほど高まります。

私がベーリンガーインゲルハイムの一員になって以来、本社経営陣と電話や直接会って話をしたり、メールでやり取りする機会が多くありますが、そのたびに彼らの謙虚さを強く感じます。

日本のお客様を満足させる

江幡:外資系企業と聞いてイメージする「成果主義」「個人主義」というものとギャップがあって、新鮮な感じがします。ところで、「外資系企業の社長」という役割も17年間務めてこられたわけですが、どんな心構えで取り組んでいらっしゃったのでしょう?

鳥居: 日本法人代表の大切な役割の1つは、グローバル本社との架け橋になることです。つまり、本社経営陣としっかりした信頼関係を築くことがとても重要です。

一般的に外資系企業では、製品戦略についてのグローバル本社とのすり合わせは極めて重要です。しかし、私たちの仕事は、日本のマーケット、日本のお客様のニーズに対して、提供できる製品・サービスの価値を最大化することです。本社との調整は重要ですが、それは1つの通過点にすぎません。

気をつけないと社員は本社とのやり取りにエネルギーを使いすぎて、本来の日本の顧客への対応がおろそかになってしまうことがあります。そうならないように、日本法人のトップとして、本社経営陣と信頼関係を築き、日本で判断すべき点は日本に任せてもらい、また社員には仕事の原点は日本のお客様であることをいつも話しています。

江幡:よくわかります。当社の場合も、広告料をいただくスポンサー企業様は当然大切ですが、それ以上にAllAboutのサイトを訪れてくださるユーザーさん一人ひとりを意識するようにしていますから。

会社は現場で成り立っている

鳥居:「お客様志向」を実現するには、やはりお客様に直接接している現場担当者が、常に良いコンディションで力を発揮できるようにしなければなりませんね。そのための動機付けや環境整備は会社全体で作っていく必要があります。あくまで「現場主義」。外資系ではおろそかになる傾向があるので、特に気をつけています。

江幡:「現場の声を聴く」……私も経営トップとして肝に銘じたいところです。そういえば、鳥居社長はこれまでMRの方と同行されることがあるそうですね。(※MR=医薬情報担当者。医療機関などを訪問し、医師に対し自社製品の情報提供を行う)

鳥居:私は、MRという仕事を経験することなく今の立場まできてしまったので、現場にいる人の苦労を実感する必要性を強く感じています。現場との距離が離れないよう、大変さを共有していきたい。1日の同行くらいでは本当のつらさを実感するのは難しいと思いますが、少しでも肌で感じたいといつも思っています。MRをはじめ、毎日一生懸命がんばってくれている社員がいるからこそ、会社は成り立っている。それに対して、日頃から感謝を忘れないようにしています。

大崎の本社では、トイレで社員とよく話をするんですよ。廊下でもエレベーターでもチャンスがあれば立ち話をします。そして、1日が終わり眠りにつく前には、今日はこんな社員とこんなことを話したなと振り返るんです。「あのとき急いでいたけれど、一言声をかければよかったなあ」とか。

僕とちょっとでも接点を持った社員には、モチベーションを高めてほしい。一言でも話をして、その結果、「話ができてよかった」と思ってほしい。そういうチャンスを活かせなかったときには反省しますね。毎日がその繰り返しです。

江幡:上司と部下が一緒に飲みに行って膝をつきあわせて話す、というのが最近は減ってきているようです。雑談レベルであっても、日常のコミュニケーションを増やすことが大切ですね。

鳥居:廊下で会ってただ話すだけではなく、その人に「関心」を持つことが重要だと思います。一人ひとり、どんな役割を担ってどんな仕事をしているのか、いつも興味を持つようにしています。

私の仕事はオーケストラの指揮者のような仕事かな、と思っています。指揮者は、楽団員が奏でる個々の音をすべて聴き分けられるようで、尊敬する指揮者の方がこんなことを言っていました。「本番中に音をはずすことがある。でも、一生懸命にやってのことなら怒らないが、取り組む姿勢が中途半端であったら許さない」と。これには共感しました。

当社は多くのすばらしい社員に恵まれていますので、一人ひとりの能力を引き出して最高の演奏ができるステージを作り上げるのが、私の仕事だと思っています。

謙虚さと全力投球でマネジメント

江幡さんプロフィール

1987年武蔵工業大学卒業後、株式会社リクルート入社。ITとマーケティングの融合による新規事業を次々と立ち上げて成功させ、「リクルートの立ち上げ屋」として一躍有名になる。2000年6月には株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパンを設立し、同社代表取締役就任。04年7月、株式会社オールアバウトに社名を変更し、05年9月にはジャズダック証券取引所に上場。日本で注目されている企業家の一人である

江幡:逆に、演奏者たちも指揮者の一挙手一投足に注目していますよね。どういう「社長像」であろうとお考えですか。

鳥居:先にもお話しましたが、「謙虚さ」が必要ですね。座右の銘を聞かれたときは、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」と答えているんです。

上に行けば行くほど注意する人がいませんから、手抜きをしようと思えばできてしまいます。何をしても誰からも注意されない。自分自身が唯一の審判ですから、自分に正直に常に全力投球でやっていこうと。常に100%を越す負荷を自分にかけるようにしています。そうしないと成長が止まってしまうからです。自転車と一緒で、少しでも緊張がゆるむと失速して倒れてしまう。

一切手抜きをしないで、社員の誰からも「鳥居さんはいつもがんばっているな」と思われるよう努めています。

江幡:そういえば、社長室が一面ガラス貼りですね。社長が働いている姿がいつも見えるわけですね。中の様子がわかるので、相談事などがある場合も入室しやすそうです。

さて、今年から日本のベーリンガーインゲルハイムグループのトップに就任されたわけですが、力を入れていかれるのはどういった点でしょう。

鳥居:これまでも、日本人の良さ……「潔癖さ」「ひたむきさ」「チームワーク」「完璧主義」などの強みを活かしながら、西洋の「数字やデータをベースにした論理的発想」「効率的な時間の使い方」といった良い点をブレンドし、強い組織作りに取り組んできました。それは、これからも目指すところです。

江幡:御社は株式を公開されていませんが、そのメリットはどこにあると感じていらっしゃいますか。

鳥居:メリットはとても大きいと思います。長期的な視点で経営目標を立てられることです。短期的な利益のみを追求するのではなく、長期的かつ持続的な視野で考え、活動することができます。そのせいか、一般的な外資系企業に抱かれがちなイメージとは異なり、比較的穏やかな落ち着いた社風だと思います。それがスムーズなチームワークにつながっています。

ただし、いくらよい社風でも、成果を出して業績が上がらなければ意味がありません。競合が増え、外部環境は厳しくなっています。私たちが掲げるビジョン「Value through Innovation-革新による価値のクリエーション」が、正しい方向に導いてくれます。何らかの経営判断を行う際にも、まずビジョンを意識しています。

また、このビジョンを実現させる道しるべとなるのが「Lead & Learn」。「Leadとは、自らが確信していることに信念をもって行動し、他者も同様な行動を起こすよう導いていくこと」、「Learnとは、知識や着想を社内外から学び取り、従来のやり方をより新しい優れた方法へと練り上げていくこと」です。わずかな改善も、積もっていけば大きな変革につながります。大なり小なり、今までと違ったことにチャレンジしてみようという気運を高めていきます。

また、人財(当社では、人材は材料の材ではなく財産と考え、人財と表現します)のグローバル化も図っていきます。当社はドイツを本拠とする製薬企業ですが国籍・性別・宗教に関係なく、多様性を重視し、すべての社員に成長できる機会を提供しています。多様性はいろいろな意味でプラスになります。異なる文化、経験を持つ人が集まれば、新しい発想が生まれます。グローバル化の流れの中では、英語が必要になる場面が増えていきますが、英語の上手・下手ではなく、異なる文化と接することに違和感を持たない人財を育成したいと考えています。

医療現場のより良いパートナーとして貢献したい

江幡:最後に医療・製薬業界に対する思いをお聞かせいただけますか。

鳥居:人類の健康は永遠のテーマです。それに貢献できる製品を扱えるこの仕事はすばらしいと思っています。病気で苦しむ人を助けるために、膨大な仕事をこなされる立派な先生方のお役に立てることも、この仕事の恵まれた点です。

当社では、このところ新製品が立て続けに発売されています。新薬の発売は、社員にとって疾患についての知識を広げ、これまで接点がなかった先生方とお会いする機会をもたらします。会社としても個人としても、成長するチャンスになります。社内を活性化し、一人ひとりのモチベーションをさらに高めることで、医療現場のよりよいパートナーとして貢献していきたいと思います。

江幡:ありがとうございました。
対談

 


<関連サイト>
ベーリンガーインゲルハイム ジャパン株式会社

(文責・All About編集部)

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