その名の通り、対人状況で強い不安感や恐怖感が生じる対人恐怖症。「社会不安障害」「社会恐怖症」とも呼ばれます
しかし苦手が昂じて恐怖や強い不安感をもたらす対人恐怖症となると、単なる内気、シャイといった言葉ではすみません。対人恐怖のために人と関わる状況を避けてしまい、親しい友人ができない、仲間に溶け込めない、人と関わる仕事を避けて不本意な仕事につかざるをえないなど、その人本来の能力が生かせなくなってしまうこともあります。
今回は対人恐怖症の特徴、原因、症状について詳しく解説します。
対人恐怖症の特徴
対人恐怖症の特徴は、その名の通り、初対面の人と会う、人前でスピーチをするなど、対人状況で生じる強い恐怖感と不安症状です。特に日本人に多い病気と言われています。日本では場の空気を読むことが大切にされがちなためか、対人恐怖症はしばしば見られ、決して珍しくない病気です。これに対して欧米社会では自分の個性を出し、堂々と自己主張することが望まれる風潮があるためか、対人恐怖症という病気は、かつて認識されていませんでした。欧米では対人恐怖症を「taijin kyofu sho」とそのままの名で呼び、日本人特有の心の病気とされたほどです。
しかし近年、欧米でも対人状況を含めて広義に社会的状況で生じる強い不安感、恐怖を特徴とする心の病気が認識され、「社会不安障害(または社会恐怖症)」という名で認識されるようになりました。対人恐怖症も社会不安障害の一種と考えられています。社会不安障害はアメリカでも生涯に罹患する人は約10%となり、日本同様、頻度の高い病気であることがわかっています。
対人恐怖症の原因
社会不安障害は、多くが思春期に始まります。異性を意識するようになる思春期は、他人の目が気になりやすいものですが、時には対人恐怖が行き過ぎてしまう場合があるようです。例えば、学校の授業中に黒板の前で問題を解く事になった。どうしても答えがわからず頭が真っ白になってしまい、その場で固まってしまった、といった些細なことがきっかけになることも少なくありません。もともと内気で引っ込み思案な性格だった場合、そのような失敗をきっかけに自信がなくなり、他人の目を意識しやすくなり、意識しすぎる上に、また何かの折に失敗してしまうことがあります。ますます自分に自信が持てなくなる悪循環に陥り、ついには対人状況において強い不安感が生じるようになってしまうのです。
対人恐怖症になる原因は、単一の要因ではなく複数の要因が関与しているもの。本人のもともとの内気な気質や、本人の中で心の傷になってしまうような対人状況における失敗、不安や恐怖感が増幅されやすい脳内環境。さらには、家庭環境などが挙げられます。原因となる家庭環境もさまざまですが、例えば厳格な家庭でいつも叱られて育てられた場合、自分に自信が持てず、他人の前で不安を覚えやすくなることがあります。
対人恐怖症の症状
対人恐怖症になると対人状況で緊張や不安が高まり、以下のような症状が出現します。- 頭痛
- 動悸
- 手足の震え
- 顔面の紅潮
- 胸苦しさ
- 発汗
- 呼吸が浅く、速くなる
- 気が遠くなる
- 便秘や下痢
対人状況で適切に振舞えることは社会生活を首尾よく送っていく上で必要なことです。対人状況を避けるようになってしまうと、生活の質に大きな影響が出てきます。自分に自信が持てず、孤独感が強まり、将来の展望が見えなくなってしまったり、さらには対人状況での強い不安感が原因で、職を転々としてしまうこともあります。対人恐怖が深刻化してしまうまで、未治療のまま放置されることも少なくありません。対人恐怖が起きるのは、決して性格的、能力的に直せない問題を抱えているからではありません。対人恐怖症という治療可能な病気にかかっているためだということをまずは知ることが大切です。