メンタルヘルス

寒さに弱い・うつ病的症状の原因に甲状腺機能低下症も

【医師が解説】うつ病を疑うような気持ちの落ち込みの症状は、心の病気ではなく、別の病気が原因で起こることもあります。「気持ちが冴えない」「寒さに弱くなった」と感じる方に一度疑って頂きたいのが「甲状腺機能低下症」です。甲状腺機能低下症の原因、主症状と問題、検査法、見分け方、治療法について解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

甲状腺機能低下症とは……寒さに弱い・うつ病的な気持ちの落ち込み等

読書をする女性

甲状腺の機能低下はうつ病と重なり合う部分もかなりあり、場合によってはうつ病と診断できるレベルにまで、気持ちが落ち込む可能性もあります

気持ちがあまり冴えないこの季節。地球温暖化といわれても、寒い日はやはりとても寒く感じるものです。寒さや、日照時間の短さは、人によっては気持ちが落ち込む要因になります。

「最近急に冬の寒さに弱くなった」「気持ちが冴えなくて辛い……」と感じている方には、一度気にかけて頂きたい病気があります。「甲状腺機能低下症」です。甲状腺の機能低下には、気持ちの落ち込みなどの精神症状が伴いやすいといわれています。診断する上での検査や鑑別方法、また機能低下により出現する症状について、分かりやすく解説します。

<目次>  

基礎代謝の調節に重要な「甲状腺ホルモン」の分泌

甲状腺はのど元にあり、蝶が羽を広げたような形状をしている内分泌腺です。甲状腺は血液中に甲状腺ホルモンを分泌することで、全身の基礎代謝を調節するなど、さまざまな生理機能を担っています。

もしも甲状腺に何らかの問題があって、血液中に分泌されるホルモンがかなり少なくなれば「甲状腺機能低下症」、反対に血液中の甲状腺ホルモンが過剰になれば「甲状腺機能亢進症」と診断されます。機能低下、機能亢進いずれも、気持ちの落ち込みなど精神症状を伴う可能性がありますが、寒さに弱い場合に考えられるのは機能低下です。
 

女性に多い「甲状腺機能低下症」とは

甲状腺の機能低下は男性にも女性にも、どの年代でも発症する可能性はありますが、男性に比べて女性は一般に発症率がかなり高いです。例えば甲状腺機能低下症の一つ、橋本病はその大部分が女性で、発症年齢は20代後半から40代が多くなっています。甲状腺機能低下症は、多くの疾患の中でも女性が気を付けたい疾患の一つになっています。

甲状腺の機能が低下する原因は幾つもありますが、最も一般的な原因は自己免疫反応が甲状腺の組織の一部を損傷させた……といったタイプです。その他、細菌やウイルス感染、場合によっては腫瘍などさまざまな原因が考えられます。
 

甲状腺機能低下症の主な症状……寒さに弱い・疲れやすい・過眠など

甲状腺の機能が低下した際に現れやすい代表的な症状を示します。
  • 疲れやすい
  • 寒さに弱い
  • 皮膚が乾燥する
  • 体重が増加傾向にある
  • 気力があまりわかない
  • 過眠傾向になっている
こうした症状はバイタリティ(生命力)が低下した際の症状ともみれます。しかし、基本的にはうつ病でも心身のバイタリティ低下症状が現れます。つまり、甲状腺機能低下症とうつ病は、その症状にかなり重なり合う部分があるのです。
 

「抑うつ症状」の鑑別診断にはある程度の時間が必要

前述の通り、甲状腺の機能異常はしばしば精神症状を伴います。気持ちの落ち込みから、うつ病を心配されて精神科を初診すれば、通常血液中の甲状腺ホルモンの検査も行います。そして血液検査の結果、甲状腺ホルモンの減少が判明すれば、どの程度減少しているのか、また精神症状の原因が何であるのかを突き止めなければなりません。

甲状腺の機能低下が抑うつ症状の直接的な原因になっていれば、「身体因性うつ病」といった診断名になります。身体因性うつ病は、疾患自体(ここでは甲状腺機能低下症)の治療を開始すれば、身体症状と共に抑うつ症状も軽くなっていきます。

しかし、甲状腺ホルモンの補充療法だけでは、抑うつ症状がいっこうに緩和しない場合もあります。そういった場合、甲状腺の機能低下は抑うつ症状にはあまり関係がなく、たまたま両者が共存していたとみることもできます。

その一方で、細かい話になりますが場合によっては直接的な原因にはなっていなくても、甲状腺の機能低下が抑うつ症状に何らかの形で関わっているということも考えられます。それは、単に抑うつ症状を現わすきっかけになったレベルのものもあれば、機能低下によって抑うつ症状のレベルをかなり上げてしまうものもあります。これを見極めるためには、しばらく治療薬への反応など経過を見る必要があります。
 

甲状腺機能低下症の確定診断前にできる治療法・対処法

精神科領域では初診の後、しばらく診断が確定しないこともしばしば。精神科で病気を診断するということは、どんな精神症状がどのように現れているかを十分に把握し、米国精神医学会やWHOが発行する国際的な診断基準などに基づき、患者さんの病態にマッチする診断名を見出すプロセスだともいえます。

その際の診断基準には、その疾患を診断する際に現れているべき症状や、そうした症状がどのくらい続いたら診断が可能か等、様々な基準が明記されています。そのため、初診の際は「抑うつ状態」や「自律神経失調症」などと暫定的に診断し、その後情報を統合した上で、診断が確定するということはかなり一般的です。そのため、病態によってはかなり時間がかかる可能性もあるのです。

診断がしばらく確定しなければ、患者さんやご家族の方は当惑したり、不満に思うこともあるかもしれません。しかし、診断が確定しない間であっても、精神症状への効果的な対処法はほぼ確立されているので心配無用です。そもそも精神疾患は脳内のどんな問題が原因なのか、明確には解明されていません。そのため治療目的も何かを取り除いて治療するのではなく、現れている症状を治療薬などを使ってできるだけ抑え込むといった面が大きいことも知っておいてください。通常、抑うつ症状に対しては、その原因が何であれ、抗うつ薬に心理療法を組み合わせて、かなり効果的に対処できます。

以上、今回は気持ちが落ち込む原因疾患として、特に、冬の寒さに弱くなったと感じる人に気をつけて頂きたい「甲状腺機能低下症」を取り上げました。こうした身体疾患がしばしば精神症状の原因になり得ること、そして稀ではありますが、妄想や幻覚などかなり深刻な精神症状に繋がる場合があることも頭に入れておいた方が良いかと思います。

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