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衆議院再可決、その手続きと歴史

「ねじれ国会」のなか、新しいテロ特別措置法をめぐって「衆議院の再可決」が行われる可能性が次第に高まっています。これはいったいどういうものなのでしょうか。簡単かつ詳しく解説してみました。

執筆者:辻 雅之

(記事掲載日/2007.11.15)

衆議院の優越と衆議院に認められた再可決。これらは何のためにあるのでしょう。そして、どのようにして行われるのでしょう。今までの歴史は? わかりやすく解説してみました。

1ページ目 【衆議院が優越するもう1つの理由?】
2ページ目 【両院協議会と衆議院再可決の手続き】
3ページ目 【50年行われていない衆議院再可決】

衆議院の議決が優先する場合

衆議院の優越条件
衆議院の議決が参議院の議決よりも優越する条件
国会には衆議院と参議院がおかれていますが、一定の場合、衆議院の議決が参議院の議決よりも優先し、そのまま国会の議決となる場合があります。

つまり、参議院がどんな議決をしても、衆議院の議決だけを国会の議決にしてしまうことができるのですね。

その場合は2つに分けることができます。

1)衆議院で可決した法律案

これを参議院で否決や修正など、衆議院と異なった議決をした場合は、衆議院で出席議員の3分の2以上の特別多数決で再可決することによって法律案は法律として成立する。

また、参議院が国会休会中の期間を除いて60日以内に議決しないときは、参議院が否決したものと見なして、同じように再可決をして法律を成立させることができる。

2)衆議院で可決した予算・条約の承認、衆議院で指名した内閣総理大臣

これを参議院が否決など異なった議決をしたり、あるいは別の内閣総理大臣を指名したときは、必ず衆参両院の代表による両院協議会を開く。ここで意見が一致しない場合、衆議院での議決が国会の議決となる。

参議院が衆議院の議決後、予算と条約承認のときは30日以内、内閣総理大臣は10日以内に議決しないときは、その時点で衆議院の議決が国会の議決となる。

2)では、衆議院の優越が絶大です。参議院なんかなくてもいいじゃないかということにもなりかねないので、両院協議会を必ず開くことにしています。

1)では、3分の2以上の賛成で特別多数決をして可決することは結構難しいことと考えられているため、両院協議会は開いても開かなくてもいいことになっています。

なぜ衆議院が優越するのか、本当の理由?

衆議院優越の意味
衆議院の優越など、一つの議院の優越がなければ、図のように可決と否決の応酬となり、永遠に決定しないことも予想される。
衆議院がなぜこのように優越するのか。教科書のような本には、このように書かれています。

つまり、「参議院よりも、衆議院のほうがそのときの国民の意思をもっとも正確に反映するから」という理由です。……しかし、必ずしもそうでしょうか。これをしっかり根拠づける研究は、実はありません。

本当のところは、「可決→否決→可決→……の無限のループを避けるため」といわれています。

例えば、衆議院が可決した法律案が参議院に送られ、参議院で否決する。ただし、知らないふりはできませんから衆議院にその旨を伝える。そうすると衆議院は反発して再可決して参議院に送る。参議院はまた……衆議院の優越を決めないと、このようなことが無限に起こってしまう可能性があるわけです。

これをどうするか。アメリカのように両院対等なところでは、両院協議会のシステムを強固なものにしています。

しかし、多くの国では、下院(日本では衆議院がこれにあたるわけですが)の優越を定め、下院が何かをするとこの「無限のループ」が止まり、下院の議決が議会(国会)の議決となるよう工夫されているわけです。

たとえばイギリスの場合、基本的に上院は下院が可決した法律案の修正しか行うことはできず、また1年経てば上院の承認なしに法律として成立することになっています。予算関連法案は、最初から上院の承認は必要ありません。

フランスでは、上院と下院の議決が異なった場合、両院合同委員会で調整が行われますが、これがうまく行かなかった場合は、政府(内閣)の要求に基づいて下院が最終的な議決をおこなうようになっています。

衆議院の優越も、このような技術的、実際的な観点から作られた制度といえなくはないのです。

では実際、衆議院の「再可決」はどのように行われるのでしょうか。次ページで見ていきましょう。
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