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証人喚問・国政調査権の基礎知識(2ページ目)

国会の「伝家の宝刀」などといわれながら、いつも運用がうまくいかない「国政調査権」。国政調査権の歴史から、現状、そしてこれからについてわかりやすく解説していきます。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【国政調査権の発祥・イギリスとアメリカの歴史をひもとく】
2ページ目 【議院証言法をみて日本の国政調査権について知ってみよう】
3ページ目 【どうすれば国会の国政調査権をもっと意味あるものにできるのか?】

【議院証言法をみて日本の国政調査権について知ってみよう】

憲法による規定と「議院証言法」の制定

戦前の大日本帝国憲法では、国政調査権の規定はありませんでした。議員の質問権などは「議院法」によって規定されていましたが、同時にこの法律では証人などを召喚する権利を否定していました。

戦後、日本国憲法の制定の中で大きな影響力を持った「マッカーサー草案」では、国政調査権が盛り込まれることになりました。

ただ、国政調査権をさらに強化する「国会侮辱罪規定」も、マッカーサー草案には存在していました。つまり、召喚された証人などが証言拒否をしたり、そもそも出頭しなかった場合、処罰ができるというものです。

しかし、結局この規定は憲法には盛り込まれず、日本国憲法に合わせて制定された「議院における証人の宣誓及び証言に関する法律(以下「議院証言法」と呼びます)」に盛り込まれることになりました。

これによっていわゆる「国会侮辱」にあたるであろう、証人の宣誓拒否・証言拒否・出頭拒否に対しては、「一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金」という刑事罰が科せられることになっています(議院証言法第7条)。

また、宣誓した上での「偽証」については「三月以上十年以下の懲役」という強い刑事罰が科せられることになっています(議院証言法第6条)。もっとも、証言したことで別の刑事罰に科せられる恐れのある場合には証言を拒否することもできます(議院証言法第4条)。

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1988年の議院証言法改正

国政調査権
「議院証言法」は証人にとって委員会のドアをあけるのさえためらわれるようなプレッシャーを与えている?
ただ、宣誓や証言の拒否などについてはともかく、偽証まで罪になっていることは、召喚された証人に大きなプレッシャーを与えているという意見もあります。

これは特に「ロッキード事件」における証人喚問以降、たびたび見られた「パフォーマンス的」あるいは「糾弾のみ目的」の証人喚問のあり方について、証人の人権を守る必要があるのではないかといわれはじめました。

そこで1980年から議院証言法の改正が審理されるようになり、1988年、改正が実施されました。これによって、以下の改正が行われました。

(1)証人が委員長などの許可を得て補佐人を同席し、証言の拒否ができるかどうか相談できる(議院証言法第1条の4)。

(2)委員長などは議員による無関係、威嚇的な証人への尋問を制限できる(議院証言法第5条の2)。

(3)偽証罪の告発などは、出席委員の3分の2の賛成が必要(議院証言法第8条)

(4)証言中の証人の撮影などの原則禁止(現在は改正)

特に議論が沸騰したのが(4)でした。国民の知る権利の確保の立場から、証言中の撮影・録音は常に許可すべきであるという意見も強くありましたが、このように改正されてしまいました。

しかし、それでも止まないスキャンダルに対する国民の強い批判から、その後の再改正(1999年)で委員長の許可のもと撮影・録音ができるという形(議院証言法第5条の3)に再度改められました。

国会以外の場所でも行える証人喚問

証人喚問は、国会議事堂以外の場所でも行うことができます。具体的にいうと、証人が入院している病院などでも、委員が出向き、行うことができます(議院証言法第1条の2)。

実際、1976年、衆議院予算委員会が「ロッキード事件」に関連して、後に被告となる人物の病床に委員を派遣して証人尋問をしています。

このようなことも「国政調査」ということが

国政調査権
議員1人でも「国政調査」ができないわけではない……うまく使えばおもしろい「質問主意書制度」
さて、よく私たちが目にするこのようなことも、「強制力のない国政調査権」ということがあります。

・国務大臣などからの意見聴取
・内閣、官庁に対する報告や記録提出要求
・参考人からの意見聴取

ただし、「強制力がない」というのはあくまで「刑事罰がない」ということです。特に国務大臣や内閣、官庁は議院の求めに応じなければなりません。

たとえば委員会が特定の大臣の出席を要求する権利は国会法で規定されています(第71条)。また、議員個人が「質問主意書」を内閣に提出して質問した場合、内閣は原則7日以内に答弁しなければなりません(国会法第74条、ただし議長の承認必要)。

この「質問主意書制度」は、議員個人が行うことのできる国政調査権ということができるでしょう。菅直人・元民主党委員長は、小政党に所属していた頃、この権利の利用の有効性を発揮したと言っています(菅氏の著書『大臣』に詳しくあります)。最近は鈴木宗男議員がよく利用して話題になっていますね。

国政調査権でいう「国政」の範囲とは?

裁判所
憲法上尊重されるべき「司法権の独立」を守るため、国政調査権は司法権には及ばないとするのが現在の通説になっている
さて、ただし、どこからどこまでを「国政」と考えるのか、については、いろいろと議論があります。

まず、「国民の権利や自由を害する」ような国政調査はできない、と考えるのが普通でしょう。国会という公の場で行われる調査である以上、たとえばプライバシーや思想、信仰といったきわめて個人的なことを追求することはできないと考えられています。

次に問題になるのが、「司法権との関係」です。裁判は国政といえば国政かもしれませんが、むやみに国会が裁判調査をすると、裁判官が萎縮してしまい、「司法権の独立」が侵されてしまう危険性があります。

実際、憲法制定間もないころ、ある無理心中事件をめぐる裁判と判決について参議院が意義を唱えるかたちで国政調査権を発動し、これに対し最高裁判所が猛抗議する事件がありました(浦和事件)。

このときの議論は結局これといった結論が出ないまま終了したのですが、これ以後、同じように裁判・判決について国政調査権が発動されることはなくなったまま今日に至っているので、「裁判や判決などは国政調査権の対象外」というのが確立した形です。

なお、検察の情報などについても、司法権と同様、独立性が必要として国政調査権の対象外とするというのが、大方の学説の意見です。

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