1ページ目 【代執行=行政命令などに従わない人にかわって命令の内容を実行すること】
2ページ目 【行政代執行の具体的手続……どういう手順で行われる?費用の負担者は?】
3ページ目 【行政代執行にはなぜ刑事強制措置のように裁判所による監視がないのか?】
【代執行=行政命令などに従わない人にかわって命令の内容を実行すること】
行政機関の命令などに従わない場合、強制的にできる行動が「代執行」
行政機関命令などに従わない人たちがいた場合、法律に基づいて行政機関が代わりに撤去・排除などを行うのが行政代執行という行為。 |
つまり、行政機関による撤去命令などに応じない人たちに代わって、それらのものを行政機関が強制的に撤去する、などの措置がそれにあたるわけです。
もちろん、これには法的根拠が必要です。なぜなら、日本国憲法では、人々の人権については、公共の福祉に反しない限り尊重しなければならない旨、規定されているからです。
日本国憲法 第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
しかし、公共の福祉に明らかに反する場合、つまりみんなに迷惑をかけている行為を主張することは、「権利の濫用」となり、許されません。
たとえば「居住の自由」があるからといって、みんなが使う道の真ん中にテントを張って住むのは大迷惑ですね。こういった場合、道の管理者である国や地方公共団体は、撤去命令に応じない場合、強制的な排除=代執行を行えるのです。
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「強制行動」は民間人には原則許されない~自力救済否定の原理
自力救済や私的復讐を認めず、強制力を国家機関に集中させ、社会を安定させようというのが近代国家のひとつの大原則。 |
大変迷惑な話ですが、朝起きてみたら、自分が所有して、しかしみんなのためにふだん開放している道に、人がテントを張っていて住んでいたのを発見した。
しかし、その日は日曜で人は誰もおらず、みんなそこを通れば近道ということで通るだけで回り道すれば外に出られる。危険はない。
こういう場合、所有権があるからといって強制的にこの人を立ち退かせることはできないのです。
私法の分野では、たとえ自分の権利確保のためであっても、自力救済、つまり自分が勝手に撤去などをすることは許されないのです。
それは、そのことによって、「俺はこの権利がある」という人がたくさん出てきて、人々の生活の安定を脅かす恐れがあるから、と考えられているのです。
そのため、権利を侵されている人は、裁判所に対し訴訟を起こして、たとえばテントの主はテントを撤去すべきという判決をもらい、そしてそれでも撤去しない場合、民事執行法にのっとった強制執行の手続きによって、初めて撤去することができるのです。
「強制行動」は民間人には原則許されない~私的復讐否定の原理
これは刑法でも同じです。たとえば殺人の被害者が「仇討ち」など私的復讐をすることが横行すると、やはり社会を混乱させるからです。刑罰の役割はいくつか指摘されていますが、ひとつが「応報の役割」、つまり被害者や遺族などに代わって国家が被害への復讐を行う、というものだといわれています。
最近「終身刑がないのはおかしい」という議論がありますが、これは応報の役割としての刑罰から考えると、2人くらい殺害したのに15年前後で出所できてしまう無期懲役刑は復讐として不十分だ、というような論理から出てきているものですね。
民間人の「強制行動」に「違法性の追及がされない」場合
ただ、私法にも刑法にも「例外措置」があります。つまり、たとえばさっきの例で言うと、その道をテントでふさがれているために自宅が火事なのに消防士が入れない、あるいは口論の末そのテントの主がナイフを取り出し喉もとに突きつけたため、危険を感じその男を殴ってしまった、という場合です。このような場合、勝手な撤去作業で違法であるとか、暴行罪に問われることはありません。危険が迫っていて、やむを得ず行った行為だからです。
このようなことを、普通は「正当防衛」といいます。これにより、違法性はない(難しい言葉で言うと「違法性の阻却(そきゃく)」)とされます。……違法性を認めない、というわけであって、「してもいい」というわけではありません。
一方、危ないので隣の家にとっさに入ってしまったとか、そういう場合は「緊急避難」といいます。その際、そのお宅の垣根を壊さないと逃げ込めなかったとしても、器物損壊罪には問われないことになります。同じような「違法性阻却原理」からですね。
なお、私法と違い、刑法は厳格な基準で正当防衛、緊急避難が成り立っていたかどうかを判断します。認められない場合は刑事罰の対象になりますから、仮に危険な場合に遭遇しても、くれぐれも慎重に対応してください。
では、次のページから、代執行制度のなかみを具体的に見て行きましょう。
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