社会ニュース/よくわかる政治

W杯と政治(2ページ目)

開催中のW杯、もりあがってますね。今回はW杯と政治をめぐる関係について解説してみました。有名なサッカー戦争からイタリアの地域対立までからむサッカー、奥が深い。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【サッカー戦争の真実】
2ページ目 【多重国家ベルギーを1つにまとめるW杯】
3ページ目 【W杯でかえって分裂? イタリアの地域対立とサッカー】

【多重国家ベルギーを1つにまとめるW杯】
「1つのベルギー」はサッカーで保たれている?


日本が初戦対戦したベルギー。この国、サッカーがなかったら2つに分裂してしまうかもしれない、なんてことがよくいわれます。どういうことなのでしょう。

質問です。隣のオランダはオランダ語、フランスではフランス語が公用語ですが、ではベルギーの公用語は? ベルギー語? 違います。ベルギー語なんていう言葉はありません。

ベルギーはオランダ語とフランス語がともに公用語。主に北部がオランダ語(フラマン)地域、南部がフランス語(ワロン)地域。北と南で言語が全く違うのです。

 

建国した当時から、ベルギーでは言語間の対立が絶えませんでした。当初は経済的に優位なフランス語勢力が政治でも優勢で、公用語をフランス語のみにするなどし、オランダ語系の反発を買っていました。

このような状態を打開するため1970年からベルギーは言語を軸にした連邦化がすすんでいきました。

とくに1993年、おもいきった連邦化に着手。3つの言語共同体政府と3つの地域政府をつくり、連邦政府は予算・外交・国防以外の権限をすべて言語・共同体政府に譲ることになりました。

これによって貿易政策や刑事処罰権ですら言語・共同体政府の権限となったベルギー。まさに「多重国家」となったわけです。

こんなベルギーを、それでもベルギーとして1つにまとめる存在が、国王とサッカーのナショナルチームだといわれています。

とくにW杯は各言語にわかれる国民が「ベルギー人」として一体となることのできる数少ない機会。とくに大国との試合では、「大国に翻弄される小国ベルギー、サッカーでは大国をうち負かそう!」というふうに意識が向けられるので、よけいに一体感が増すのかもしれません。小国ながら立派なW杯経歴があるのは、そんな「アンチ大国意識」が支えているのかもしれません。

こんなベルギー、もしサッカーがなかったら、本当に分裂してしまうかもしれませんね。

次ページではイタリアのサッカーと政治・社会との関係について、見ていきます。

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