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「領事」「亡命」と国際法の関係(3ページ目)

中国総領事館亡命事件は世界中の注目を浴びています。この事件の解決を論じるには国際法の知識が欠かせません。なるべくなるべく、カンタンに解説してみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【領事って何する人?】
2ページ目 【領事と大使の違いって?】
3ページ目 【「亡命」の国際法的基礎知識】

【「亡命」の国際法的基礎知識】
亡命受け入れは義務ではない、それだけに国の器量・力量が試される


人間はだれしも国家の迫害を逃れるため、ほかの国に亡命する権利を持つのか。国際法の世界ではどうなっているのでしょうか。

国が「『亡命してきた人』を受け入れる権利」のことを、「庇護(ひご)権」といいます。この権利は国家が主権を持つ以上、当然の権利として慣習的に認められています。

ただ注意すべきは、これはあくまで「誰を亡命者として受け入れようが文句いわれる筋合いはないよ」権なのです。「亡命してきた人をかならず受け入れなければならない」という義務ではありません。そして、そのような義務は国際法的には確立されていないのです

1951年に採択(日本は1981年批准)された「難民条約」というのがありますが、これもあくまで「『受け入れた』難民の保護」が目的の条約。難民と名乗っている人を全員受け入れなさい、という条約ではないのです。

さて、最近相次ぐ「在外公館(大使館や領事館)への亡命」となると、話はさらにややこしくなります(ちなみに、在外公館や他国の軍艦などへの亡命者を受け入れることを、むずかしい言葉で「領域外庇護(ひご)」または「外交的庇護」といいます)。

大使館や領事館といった在外公館は、不可侵(立ち入り禁止)権が認められているとはいえ、在外公館がおかれている現地国の領土であることはいうまでもありません。在外公館=派遣国の領土ではないわけです。

「亡命」=ある国に助けを求めるため国を脱出してその国にたどりつくこと、という定義から考えると、在外公館への「亡命」は正確にいうと亡命ではないのですね

仮に亡命を求めてきた人を在外公館の派遣国が亡命させてやろうと考えても、そのひとを亡命させようと思ったら在外公館を出て空港まで行かないといけません。その間にその人が捕まえられても国際法的な問題はありませんし、出国を認められない場合もあるでしょう。

最近、欧米諸国の在中公館に駆け込んで無事出国を果たした人たちも、最終的には中国側の同意をなんらかの形で受けることができたため、出国することができたというわけなのです。

このように、亡命者の受け入れについては、受け入れ側の判断が幅広く認めれらているのです。亡命と偽って犯罪集団がたくさん入国されてはかないませんし、国家が主権を持つ以上当然なのかもしれません(異論もたくさんあります)。

そして同時に、受け入れ側が大きなフリーハンドを持つということで、受け入れ国の「器量・力量」が試されているともいえます。

国際法上とうぜんには亡命を認められない亡命志願者たちをいかに的確に保護し、場合によっては外交的な調整をうまくやることができるか。うまくできない国は「外交ベタ」「人権軽視」のレッテルを国際的に貼られてしまうわけです。


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