【「日米地位協定」とはどういうものか】
太平洋戦争での敗戦、降伏によって1945年から日本はアメリカ軍を中心とする連合軍によって占領されていました。この占領は1951年、サンフランシスコ平和条約が結ばれたことによって終了します。
このとき同時に日米安全保障条約(日米安保)が結ばれ、占領終了後も日本にそのままアメリカ軍が居残ることになったわけです。
その際、アメリカ軍やアメリカ軍の軍人・兵士らが日本で法律的にどのような地位でいるのかが問題になるわけで、それを定めた協定として日米行政協定が結ばれました。これは政府間の単なる取り決めで、正式な条約ではありませんでした。
それでいろいろ問題があったため、1960年、日米安保が改正されたとき、日米行政協定は日米地位協定として正式に条約化し、現在にいたっています。
この条約によって、アメリカ軍に施設や地域を提供する具体的な方法が定められたほか、その施設内での特権や税金の免除、兵士などへの裁判権などが与えられています。
またアメリカ軍の兵士・軍人などについても一応は日本の法律を守るよう義務付けられていますが、同時に旅券(パスポート)やビザについては不要、軍発行の運転免許証で国内を走行できるなど、数々の特権が与えられています。
【問題の「第17条」】
地位協定第17条には、アメリカ軍兵士・軍人への裁判権がどこにあるのかが決められています。
17条の3という条文では、アメリカ軍の内部での犯罪やアメリカ軍兵士・軍人や関係者、家族同士の犯罪の場合、アメリカ軍に優先的な裁判権があることになっています。
またアメリカ軍の公務中、つまり兵士・軍人として働いている最中の犯罪・事件などについてもアメリカ軍に優先的な裁判権があることになっています。
日本に優先的な裁判権があるとされているのは、上であげたケース以外の場合とされています。今回起こった女性暴行事件では、アメリカ軍兵士の勤務時間外、基地外での犯罪なので、とうぜん日本に優先的な裁判権があります。
ただ、これはあくまで司法権を持つ裁判所の「裁判権」の話し。行政機関である警察や検察が行う「捜査権」については、決まりがありません。
たとえば日本の警察などが犯罪をおかしたアメリカ軍兵士などを捜査するためには、逮捕などによってその人物の身柄の確保をしなければならない場合があるでしょう。
しかし地位協定17条の5には、そういう場合日本とアメリカ軍が相互に援助しなければならない、としか定められていません。日本の警察などがただちに容疑者の兵士を逮捕することはできないわけです。
そして一番問題とされているのが、17条の5(c)という条文にある規定です。ここでは犯罪をおかしたアメリカ軍兵士などの日本への身柄の引き渡しは検察による起訴が行われた後、というふうに定められています。
そのためアメリカ軍兵士犯罪への日本側の捜査が満足にできないでいる、それがアメリカ軍兵士による基地周辺の人々(特に沖縄)への犯罪があとを絶たない原因なのではないか。こういう批判が、特に沖縄の人々を中心として行われてきていたのです。
それではなぜ、このような条約は見直されないでいるのでしょうか。この背景には、日本とアメリカだけの問題ではない、深いものがありそうです。