住宅の車庫を設置するために歩道の切り下げ工事が必要な場合に、原則としてその工事費用がすべて申請者個人の負担となることはあまり知られていないようです。
(茨城県 匿名 30代 男性)
それはともかくとして、公道に面した敷地に住宅を建築するときには、この段差があることで予定外の負担を強いられる場合もあります。
車庫(カーポート、カースペース)の位置によって歩道の切り下げ工事が必要なとき、施工部分の幅や舗装の種類、ガードレールやガードフェンス撤去の有無、道路標識付替えの有無、電柱移設の有無、街路樹など植栽の有無、側溝工事の有無、付随する歩道の補強工事の程度などによって異なりますが、30~60万円程度の工事費用がかかるでしょう。
車庫部分の前の歩道と車道に段差があるときは、歩道の切り下げ工事をすることが基本
そしてこの費用は申請者個人(または法人)の自己負担となることが原則で、この費用を助成している自治体も少ないようです。
なお、歩道の切り下げ工事の施工にあたっては、車いす使用者への配慮(段差は少なく、スロープは緩やかなほうがよい)や、視覚障がい者への配慮(歩道と車道の境界認知のために段差は残したほうがよい)も求められます。
また、使用する材料など、バリアフリーの観点からもさまざまな対策が必要なため、それぞれの道路管理者(国や自治体など)が定めた技術的基準によらなければなりません。いくら自費工事だといっても、自由な形態で工事をすることはできないのです。
ただし、工事費用は個人が負担するとしても、工事完了後における歩道部分の維持・管理は、原則として道路管理者(国や自治体など)がすることになっています。
この工事費用について、建売住宅であれば建築原価として販売価格のなかに含まれているため、あまり意識されることはないでしょうが、注文住宅の場合には「別途工事費」や「追加工事費」として具体的な金額が提示され、予想外の費用だとして驚いてしまう人も多いでしょう。
ご質問のケースでは、土地を購入したときに媒介業者から、歩道切り下げ工事の費用負担が必要となることについての説明を受けていないようですが、それによって媒介業者や売主に損害賠償や費用負担を求めることはできるのでしょうか?
媒介業者や売主に工事費用の説明責任はあるのか?
ご質問のようなケースで媒介業者に説明責任があるのかどうか判断の難しい部分もありますが、土地の売買にかかわっただけの媒介業者には原則として「建築に伴う費用を説明する法的な義務はない」とすることが一般的です。ただし、土地の売主が不動産業者だった場合や、建築条件付土地の売買だった場合などには、説明義務の範囲をもう少し広く考えるべきだとする余地もあるでしょう。
土地の契約をする前の段階で、車庫の位置を検討しておくことも必要
それに対して媒介業者が誤った情報(「工事は必要ない」あるいは「費用の負担はない」など)を買主に与えたような場合であれば、媒介業者の責任を追求できることになります。
ところが、そのような問い合わせや調査・確認の依頼などを事前にすることもなく、さらに、ご質問のケースのように「車庫の位置によって費用が発生する場合もあれば、発生しない場合もある」といった状況であれば、それを理由として媒介業者に対し損害賠償や費用負担の請求をすること自体が難しいでしょう。
売主に対しても同様です。「車庫を造る位置によって予定外の費用負担が生じる場合もある」ということが、土地そのものの欠陥や隠れた瑕疵だとはいえません。
もし仮に「車庫を造ることができるという認識で購入した土地なのに、何らかの公法上の制限によってどこにも造ることができない」というのであれば、媒介業者の説明責任だけでなく、売主の瑕疵担保責任を追及できる可能性もあります。
しかし、はじめから車庫を造ることが困難だと分かっている土地であれば、媒介業者や売主の責任を問うことはできません。
いずれにしても、住宅の建築には本体工事費以外にさまざまな費用が発生します。
歩道の切り下げ工事費用にかぎらず、建築プランによって発生したり発生しなかったりする費用も数多くありますから、「発生する可能性のある費用をすべて事前に説明せよ」と土地購入時の媒介業者に要求することも現実的ではないでしょう。
ただし、上水道、下水道、ガス、電気など必要不可欠な設備に関して特別な費用負担が発生する場合には、重要事項として事前に説明されることになっています。
土地を購入して注文住宅を建てるような場合には、土地購入の契約を締結する前の段階で、設計士やハウスメーカー、工務店の担当者などに現地を見てもらい、より綿密なチェックをしてもらうことも考えるべきでしょう。
歩道の切り下げ工事の代わりにブロックなどを置くことはどう?
車道と歩道の段差を解消するために、鉄板やコンクリート製(または特殊ゴム製)の乗り上げブロック、ステップ板などを置いている光景もよく見かけますが、これらは多くの自治体で禁止しています。また、車道と歩道が分けられている道路は、その大半が道路法の対象となる公道(国道、都道府県道、区市町村道)であり、自治体の条例などに禁止規定がないとしても、道路法によって乗り上げブロックなどの設置は認められていません。
鉄板やブロックなどを置くことは、多くの自治体で禁止している
しかし、もし道路上のブロックなどにバイクや自転車が乗り上げて転倒し死傷事故が起きたとすれば、それを置いた個人が責任を問われる事態になることも考えられるでしょう。
また、歩行者がつまずいたり滑ったりして転倒や怪我を招くこともあるほか、雨水の流れを止めてゴミや枯れ葉などが溜まっていることも多く、美観のうえでも好ましいものではありません。
ただし、車いすの通行のために置いているブロックなどもあるでしょうから、一概にすべてがダメだともいえず難しい問題を抱えています。
歩道の切り下げ工事をしないままで、車の進入部分にブロックなどを置いている中古一戸建て住宅を購入すれば、事故時の責任リスクも買主が引き継ぐことになりますから注意が必要です。
このようなケースであれば、媒介業者に説明責任もあると考えるべきでしょうが、残念ながら十分に対応できていないことのほうが実際には多いかもしれません。
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